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宙の猫島(そらのねこじま)STORY 1巻

1巻につき6話ずつ収録します。

<<宙の猫島(そらのねこじま)のストーリー>>
不眠症の月が羊と間違えて猫の数を数えているうちに本当に猫があらわれて、天空に猫の島を作ってしまいました。天空の猫島に住む7匹の猫たちはお月さまとおひさまに見守られながら、自然がいっぱいの不思議な島を舞台に、楽しいことや面白いことを探しながら毎日を過ごしています。今日も7匹の猫たちが何やら面白そうなことをはじめました……

<<配信について>>
「宙の猫島」は天空の島で暮らす7匹の猫の物語です。毎週金曜日に1枚の新作絵画をアップロードします。4枚の絵でひとつの物語になっています。4週目に作者・なかひらまい が書いた物語をアップロードします。絵と一緒に摩訶不思議な物語を楽しんでください。インスタグラムのフォローもよろしくお願いします。
●ストーリーのアーカイブ・マガジン:https://note.com/7cats/m/m8d855af0c689
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https://www.instagram.com/soranonekojima/

<<スマホ用の壁紙をフリーダウンロード>>
気に入った絵があったらスマホ壁紙をダウンロードしてください。画像を長押するか、PCの場合はマウスの右ボタン(Macはcontrolを押しながらクリック)で画像を保存できます。しあわせの猫島で暮らす猫たちと一緒に日常を過ごしてください。素敵なことがおきますように。

<<マンガ版『宙の猫島(そらのねこじま)』>>
『宙の猫島(そらのねこじま)』配信1周年を記念して2024年2月よりマンガ版を随時アップ。『宙の猫島』の世界はどんどん広がっていきます。
●マンガ版『宙の猫島』マガジン:https://note.com/7cats/m/m455cd21fe3c2

<<毎月、額装用の絵画をプレゼント>>
宙の猫島(そらのねこじま)のメールマガジンでは毎月額装用の絵画をプレゼントしています。絵をダウンロードして額装し、お部屋のインテリアとして使ってください。額装の仕方はメルマガ登録フォームのあるオンラインショップサイトに掲載しています。IKEAの10✕15cmの額にちょうどいいサイズにプリントアウトできます。
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絵と文:なかひらまい

なかひらまいプロフィール:作家・画家。ユング心理学研究会理事。多摩美術家協会会員。昔ばなし研究家。著作は『スプーの日記』シリーズ3部作(トランスビュー刊)。千年の間、口伝のみで伝わってきた紀国の女王伝説の謎を追ったノンフィクション『名草戸畔 古代紀国の女王伝説』、毎日新聞大阪本社版に連載された童話『貝がらの森』ほかをスタジオ・エム・オー・ジーより刊行。ハンドメイドの絵本「小さな絵本」や『宙の猫島(そらのねこじま)』などオリジナル作品を随時発表している。


第1話「不眠症のお月さまと7匹の猫」

 夜が白々と明けるころ、おつとめを終えたお月さまと、これから出勤するお日さまが、空の真ん中で立ち話をしていました。
「お月さん、今日もご苦労さま。さぞかしお疲れでしょう。早く帰ってお休みください」
 するとお月さまは、いいました。
「ところがここ数日、まったく眠れなくて困っているのです」
「それは大変。そういうときは、数を数えるとよいですよ。何を数えるのかは忘れましたが」
 お日さまは、いいました。
「そんな話もありましたね。そう、たしか、ふかふかした生き物を数えるのだと思ったのですが、どんな生き物か思い出せません」
 お月さまはますます困った顔になりました。
 するとお日さまが思い出したようにこういいました。
「ふかふかした生き物、それは猫じゃないかしら」
「そうだ、きっと猫にちがいない」
 お月さまはさっそく猫の数を数え始めました。
「猫が1匹、猫が2匹、猫が3匹、猫が4匹、猫が5匹………」
 お日さまはそれを見届けると、安心して空高くのぼっていきました。

 お日さまは、空をのぼって草や木やたくさんの生き物たちに光を届けていきました。
 その日、空には白い大きな雲がもくもくと浮かんでいました。いつものように、お日さまは雲の間をすり抜けて高く高くのぼっていきました。
 すると、雲のひとつから、何やら声が聞こえてきました。
「もう朝だ」
「まだ眠いな」
「お日さまはもう少しゆっくりのぼればいいのに」
 その声の主は7匹の猫たちでした。猫たちは木造の小屋の中に小さなベッドを並べて仲良く寝ていました。
「どうして雲の上に猫がいるんでしょう?」
 お日さまは不思議に思いました。
 猫たちの小屋は粗末な作りで、中が透けて見えていました。ところが、不思議なことに、粗末な家はみるみるうちにしっかりとした家へと変わっていきました。
 お日さまは不思議に思いながらいつもの空の道をのぼっていきました。
 時がたち、空の道がてっぺんに達したとき、はるか遠くに月の住む家が見えてきました。
「猫が88匹、猫が89匹、猫が90匹、猫が………」
 遠くから微かにお月さまの声が聞こえてきました。

 空のてっぺんまでのぼったお日さまはほっと一息つきました。ここからはゆっくりとした下り坂です。すると、また、どこからともなく猫たちの声がしました。
「新芽が生えてる」
「ふきのとうかな?」
「可愛いな」
 声のする方を見ると、雲の上に猫たちの家と雪景色が見えました。
 7匹の猫たちがおそろいの赤いマントを着て思い思いに雪で遊んでいました。猫たちは雪だるまを作ったり、雪の地面に小さな足跡を付けて歩き回ったり、とても楽しそうです。猫たちは、降り積もった雪の中で遊びながら、淡い緑の新芽を見つけてはしゃいでいました。
「もうすぐ春がくるんだね」
 一匹の猫がみんなにそういいました。
 お日さまは、可愛らしい猫たちを見ているうち、とてもうれしい気持ちになリました。もっと見ていたかったけれど、お日さまには大切な仕事があります。もしお日さまがずっとここにいたら世界が暑くなりすぎて生き物たちが暮らせなくなるのです。
 お日さまは後ろ髪を引かれながら、空の道をくだっていきました。

 空の道の途中でお日さまはお月さまと会いました。昼と夜の境目の時間がやってきたのです。
「お日さん、今日もご苦労さま」
 お月さまはいいました。
「お月さん、今日はよく眠れましたか?」
 お日さまは不眠症のお月さまにそういいました。
「それがね、ちっとも眠れなかったのです」
 お月さまは、そういって笑いました。
「あれから猫の数をいくつもいくつも数えました。すると、猫たちがあちこち歩き回って遊びはじめたのです。その可愛らしいこと。空高い雲の上では寒かろう。家やベッドはないのだろうかと思っていたら、猫たちがみるみるうちに、家やベッドを上手にこしらえるではありませんか。さらに数を数えていくと猫たちがどんどん増えて、料理をしたり絵を描いたり、本を読みはじめたり。その可愛いことといったら! 猫たちを見ているうちに、気がついたらこんな時間になっていたというわけです」
「そうだったのですか。その猫たち、わたしも道中で見ましたよ。可愛らしいパッチワークの布団で寝ていた猫たちでしょう」
 お日さまは、いいました。
「お日さん、どうしてそれを知っているのですか?」
「お月さん、ちょっと下の方の雲の中を見てごらんなさい」
 お月さまがお日さまにいわれた方を見ると、そこには小さな島がぽっかりと浮かんでいました。
「お月さんが数えた猫たちがあの島で暮らしはじめたみたいです」
 お日さまは、いいました。
「なんということだろう、あれは、わたしが夢で見た『宙の猫島』だ」
「そらのねこじま! なんと素敵な島でしょう!」
 お日さまは、にっこりと微笑みました。
「ところでお月さん、どうして猫島には茶色と白の猫しかいないのですか?」
 お日さまは訊ねました。
「え? 茶色と白以外の猫がいるのですか?」
 お月さまは、いいました。


第2話「花の帆と不思議な船」

  3月のある日の朝、7匹の猫たちは目を覚ますと、次々にベッドから起き出しました。
「今朝は、ずいぶん暖かいね」
「もうすっかり春だ」
 猫たちは、うれしくなって外に飛び出しました。
 ついこの間まで雪で真っ白だった景色はいつの間にか黄緑色の草木でいっぱいになっていました。猫たちは黄緑の絨毯をあてもなく散歩しました。猫たちが歩くたび草の間にピンク色の花が咲きました。そのうち、猫たちの前に桃の木があらわれました。
 猫たちは、しばらく桃の木に見とれていました。陽が落ちて辺りがピンク色に染まってくると、猫たちは木を囲んで踊りはじめました。なかには木に登ってハープを奏でる猫、笛を吹く猫、桃の実に見とれているだけの猫もいます。
 桃の木には、たくさんの妖精たちがすんでいました。妖精たちは猫たちの音楽と踊りを見ていました。
「まあ、なんて可愛らしい」
「あれが噂のお月さまの子どもたちね」
「そうね。でも、まだ名前がないわ」
「そうね。では、わたしたちが名づけましょう」
 妖精たちは、風のような声で猫たちにこういいました。
 
「桃を愛でている子は、「喜喜(キキ)」。いつも喜びに溢れている。
 ハープを奏でている子は「未未(ミミ)」。いつも未来に向かっている。
 笛を吹いている子は「路路(ロロ)」。ものごとの道を知っている。
 踊っている子は左から「流流(ルル)」。流れるように自由に生きている。
 次の子は「里里(リリ)」。宙の大地にしっかり根ざして生きている。
 次の子は「己己(ココ)」。自分をしっかり持っている。
 次の子は「百百(モモ)」。たくさんの愛を持っている。
 みなさんは、これからしあわせに暮らしていくのです。

 妖精の声を聞いた7匹の猫たちは踊るのをやめました。
 そして風のような声を聞きながら、桃の香りの中でしばらく過ごしました。
 猫たちは妖精から桃の実をたくさんもらい、仲良く家に帰っていきました。

「昨日は楽しかったね」
 モモが妖精からもらった桃の実を眺めながらいいました。
「そうだ、この桃で何か作ろう」
 リリがそういいました。
 するとミミが桃のタルトを作りはじめました。
 キキはお茶をいれています。
 丸い大きなテーブルを囲んで、素敵なお茶会がはじまりました。
 7匹はお茶を飲み、ケーキを食べながら、おしゃべりをしました。
 気がつくと部屋じゅうが春の花でいっぱいになっていました。床から天井まで、ふんわりとした花の香りであふれています。
「夢は本当にあるんだね」
 キキが不思議な言葉をつぶやきました。
 猫たちのおしゃべりは、青い宙と白い雲の中、ケーキがなくなるまでつづきました。

 あさ、猫たちが起きると、昨日の花が跡形もなく消えていました。どこを探しても見当たりません。
「あのきれいな花を忘れないうちに、絵に描いておきましょう」
 キキがそういいました。
 猫たちは床に大きな白い布をひろげました。そして、思い思いに、花の絵を描いていきました。
 ロロは絵の具と筆で大きなユリのような花を描いています。
 モモは花のかたちのスタンプを作って、ペタペタ押しています。
 ココは転んで絵の具をこぼしてしまいましたが、こぼした絵の具が花のようなかたちになりました。
 キキは桃の絵に白いストライプを付けて素敵な生地に仕上げました。
 リリは布にくるまってお昼寝をしています。
 ミミは足跡をつけて歩いています。
 ルルは白いチョウジソウの花を筆で描きました。
 お絵描きの時間は、あっという間に過ぎていきました。

 猫たちは、花の絵を描いた布を外に干して乾かしました。布は風になびいてはためいています。
 それを見ていたミミがいいました。
「この布が船の帆になったらいいのにな」
 すると猫たちが船を作りはじめました。
 ロロが書いた設計図を見た猫たちは家の近くの木を切り出して、トンカン、トンカンとやりはじめました。不思議なことに、船はあっという間にできあがりました。
 船ができあがった頃には、外はすっかり夜になっていました。猫たちは、自分たちが作った船に乗りたくてうずうずしていました。がまんできなくなった猫たちは夜の宙に船を浮かべました。
 すると猫たちが乗った船は花の帆に春の暖かい風を受け、雲の上を滑り出しました。
 お月さまは7匹の猫たちを遠くから見ていました。


第3話「不思議な花と黄金のオイル」

猫たちを乗せた船は、夜の雲を進んで行きました。
 7匹の猫たちは見張り番を交代しながら船の中で眠りました。
 船は風にまかせて進んでいきました。いつしか見張り番も帆の上のカゴの中で眠ってしまいました。
 黄色いお日さまが輝くころ、背の高い木の生えた森が見えてきました。花の帆の船はどこかの岸に流れ着いたようです。ココが地面に杭を打ち、しっかりとロープで船をつなぐと、みんなで降りて行きました。

「ここはどこだろう」「知らないところだ」
 猫たちが草木をかきわけて歩いていくと、お日さまのよく当たる開けた林にたどり着きました。木々はまだ若い緑の葉がつきはじめたばかりで、細い枝をのぞかせていました。よく日差しが通る地面に、たくさんの小さな花が咲いていました。
 林には、3人の背の高い白い妖精がすんでいました。「あら、猫さんこんにちは。あなたたちも花を摘みに来たのね」
 妖精がいいました。
「はい、そうです」
 キキはとっさにそういいました。
 花のことを何も知りませんでしたが、そう答えたほうがいいような気がしたのです。
「そうこなくちゃ。たくさん摘みなさい。わたしたちもお手伝いします」
 妖精はいいました。

 猫たちは、小さな花をたくさん摘んで、船に運んでいきました。船まで何度も往復しました。
「なんて小さくて可愛い船!」
 白い妖精たちは、いいました。
「では、わたしたちは帰ります。妖精さん、いろいろありがとう」
 キキは妖精たちにお礼をいうと、船を出しました。
 ところが妖精は黄色い翼を羽ばたかせ、船の後をついてきました。
「まだ手伝うことがあるの」
 妖精は、いいました。
 猫の船は家の近くの雲の岸辺につきました。猫たちはさっそく家の中に花を運びました。
 すると妖精たちが窓から家に入ってきました。
「こっちの花は花と葉っぱをわけて、それから花だけを洗ってね」
「そっちの花はドライフラワーに」
「あ、葉っぱは捨てないで。料理に使えるから」
 猫たちは妖精のいうことにしたがって花を仕分けしていきました。

「準備もできたことですし、はじめますよ」
 背の高い白い妖精はそういうと、部屋の真ん中に大きな機械を運び込みました。そんな機械を一体どこから持ってきたのか、さっぱりわかりませんでした。
「この紫と桃色と黄色の三色の花から、何にでも効くオイルを抽出することができることを知っていますよね?」
「知っています」
 キキがいいました。
 そんなことは知るはずもなかったのですが、花を摘んだときと同じように、そう答えたほうがいいような気がしたのです。
「この秘密を知っている者にしかオイルを作ることはできません。知らなければ、それはないも同然だからです。あなたたちは、よく知っていましたね」
「もちろん知ってました」
 キキがそういうと、猫たちは顔を見合わせうなずきました。
 そして、妖精がやる通りに、見よう見まねで、機械に花を入れました。
 花はたくさんのパイプを通って、あちこちのガラスの瓶の中で光り、最後に黄金のオイルになって滴り落ちました。オイルができると、いつの間にか妖精たちはいなくなっていました。


第4話「黄金のオイルと黄色い花」

 万能オイルを作った3色のお花の葉っぱはとてもいい香りがしていました。妖精はこの葉っぱをハーブと呼んでいました。ハーブは料理に使えると妖精が教えてくれたので、猫たちは大切に保存して少しずつ食べていました。冷蔵庫にはまだまだたくさんのハーブが残っていました。
「ハーブでお弁当を作って、ピクニックに行こう」
 キキが、いいました。
「わたしも行きたい!」
 ロロも、いいました。
 こうしてお弁当作りがはじまりました。
 猫たちは豆や野菜の温かいサラダやパンやピザを作りました。どの料理にもハーブを入れました。するとスッキリとして香り高い味になりました。なかにはハーブの葉っぱだけをソテーにした料理もありました。
 みんなは、お弁当の出来栄えにとても満足しました。あとはこれを持ってピクニックに出かけるだけです。
 モモはピクニックに行って誰かがころんでケガをしたり、すり傷を作ったりしたときのことを考えて、万能オイルを荷物のなかに入れました。

 猫たちはお弁当をみんなで手分けして持つと、家の近くの森に出かけました。そこはまだ行ったことのない場所でした。しばらく歩くと、見晴らしのよい原っぱに出ました。
「家のすぐそばに、こんなところがあるなんて知らなかった」
 ココは驚いて、そういいました。
 無理もありません。猫たちはついこの間、お月さまによって誕生したばなりなのですから。
 猫たちは、原っぱに大きな敷物を広げると、さっそくお弁当を食べはじめました。緑のそよ風のなかで食べるご馳走はとても美味しく感じられました。
 ミミはお弁当を食べることを忘れて、原っぱのまわりを歩き回っていました。すっかりこの場所が気に入ったようです。
 ミミは日陰でしおれている花に出会いました。
「お花さん、どうしたんですか?」
 ミミがいいました。
「ここは大きな木のおかげで日が当たらず、ジメジメとしているので、だんだん体が弱ってしまったのです。わたしはもうすぐ根っこから枯れてしまうでしょう」
 ミミはつらそうな花を見て、悲しくなりました。ミミは急いでみんなのところに戻ると、花のことを伝えました。

 ミミの話を聞いたみんなはお弁当を食べる手を止めました。
「お花さんの様子を見に行こう」
 キキがいいました。
 原っぱのはしっこにそびえ立つ大きな木の下に行くと、花はすっかりしおれていました。
 するとモモが「大丈夫。わたし、これをもってきた」といいました。
 モモはバッグから万能オイルを取り出しました。オイルは日の光に照らされて黄金色に輝きました。
「これを使おう!」
「そうしよう!」
 モモはロロにオイルを渡すと、ロロは慎重に蓋を開けました。そしてオイルをたっぷり花にたらしました。すると、あたり一面が光ったように見えました。花はすくっと立ち上がり、黄色の花びらを開きました。元気になっただけではありません。葉っぱの足が生えてきて、歩くこともできるようになりました。

 猫たちは、花が元気になってとても喜びました。
「猫のみなさん、本当にありがとうございます」
 花は涙を流してそういいました。
「でも、ここにいたら、またしおれてしまうよ」
 ミミはいいました。
「そうなのです。しかし幸いににもその不思議なオイルのおかげで足が生えました。みなさんと一緒にピクニックに連れて行ってもらえませんか? きっと住みやすい場所を探し出せるでしょう」
 花はいいました。
「もちろん!」
 みんなは大賛成です。
 7匹の猫と花は原っぱのまわりの森をあちこち散歩しました。しかし、なかなか花に都合のよい場所が見つかりません。
「ここは陽当たりはよいけど風が吹かないので暑すぎる」
「ここは地面が低くて根腐れしてしまう」
 ここもダメ、あそこもダメ。
 猫たちと花は、いつしか原っぱから離れて森の奥深くに入っていました。気がつくとそこには、どこまでも続くベリーの森が広がっていました。ブルーベリーに、赤い野生ベリーに、コケモモに、マルベリー。ありとあらゆる森の恵みがたわわに実っていました。


第5話「ベリーのケーキと猫の夢」

 7匹の猫たちはベリーをたくさん摘んでカゴに入れると、家に向かって歩きはじめました。花は猫たちについて行きました。
「この森はとても居心地がよさそうですがベリーさんたちの場所なので、わたしは別の場所を探します」
 花はいいました。
 猫たちは丘の上にある家に帰ってくるとすぐに眠ってしまいました。花はいつの間にか、いなくなっていました。
 朝が来ると、青空が広がっていました。季節はすっかり夏になっていました。お日さまがキラキラと輝いて、きみどり色の丘を照らしていました。
「あれ? あんなところにお花さんが」
 キキが部屋の窓から遠くを指さしていいました。外に出てみると、黄色い花が丘の真ん中に咲いていました。
「猫さんたち、おはようございます。昨日は挨拶もなく別れてしまってごめんなさい。皆さんの後をついていったら、あまりにもよい場所があったので、ちょっと座り込んだら根付いてしまったのです。ここは山の影で日が当たるのに当たりすぎず、水はけも良いので雨が降っても根っこがくさる心配もありません。最高の場所です。猫さんたちは、よいところにお住まいですね」
「花さんが急にいなくなったので心配していました。それならよかったです」
 モモがいいました。
「それにしても、わたしたちの家がそんなにいい場所に建っていたとは知らなかった」
 キキがそういうと、猫たちは笑顔になりました。
 その様子を見ていたお日さまも、にっこりとほほ笑みました。

「みなさんにお伝えしたいことがあります」
 花はいいました。
「わたしたちの一族はとても強いので、一度根付くとたくさん仲間たちが生えてきます。時が経つと、ここら一面、黄色い花でいっぱいになることでしょう。この花は、猫さんたちにとって万病にきく薬草になります。いくらでもつんでください。花は猫の毛みたいなものですから、根っこから抜かない限り、また生えてきますのでご心配なく。どちらにしろ秋には枯れてしまいますので。もちろん春先から新しい芽をつけて夏の間中、花を咲かせます。いろいろお世話になったお礼に毎年必ずここで花を咲かせます。助けてくれて本当にありがとう」
 花の目から一粒の涙が流れました。
 猫たちは、その日、ベリーのジュースを飲みながら、窓の向こうの花を眺めて過ごしました。 
 午後になると、お天気雨が花に降り注いで、きらきらと輝きました。

「ベリーといえばケーキだね」
 ココがいいました。
「誰も見たことのないすごいケーキを作りたいね!」
 ロロもいいました。
 2人がそういうと、猫たちはどこからかボウルや泡立て器を出してきました。
「すごいケーキって、どんなケーキ?」
 ルルがいいました。
「何段にも重なった大きなケーキがいいな」
 リリがいいました。
「それがいい!」
 キキもいいました。
 猫たちは、大きなスポンジを焼きあげると、丸くカットして、シロップをたっぷり塗りました。それからクリームとベリーをたくさん挟み、大きいスポンジから順番に重ねていきました。その上にクリームとベリーと花を飾ると大きなケーキができあがりました。
「わーい、できた!」
 猫たちは、夢見心地でケーキを眺めました。
 ひとしきりケーキを眺めると、美味しい紅茶をいれて、みんなでケーキを食べました。

 ケーキでお腹をいっぱいにした猫たちは、その晩、夢を見ました。
 猫たちが天に向かって伸びるベリーのツタをのぼっていくと、雲の上にたどり着きました。夜空には、お日さまとお月さまがいて、何やらお話ししていました。お菓子のようなお星さまもたくさん輝いていました。
 朝が来て、起きると、誰ともなく夢の話をはじめました。
「雲の上は、ふかふかだったね」
 ルルがいいました。
「お月さまを、あんなに間近で見たのは初めてだよ」
 ミミがいいました。
 猫たちはみんなで同じ夢を見ていました。


第6話「宙イルカと妖精の洞窟」

「今日も1日、がんばろう」
 お日さまは、ひとりそうつぶやくと空の上にのぼっていきました。すると猫島も夜が明け、お日さまに照らされました。
「今日も猫たちは元気かしら。もうすぐ冬になる。寒くないかしら」
 お日さまは猫たちが心配で、猫島の森の中をのぞきこみました。
 猫たちは、美しく紅葉した森の小川で遊んでいました。
「もうすっかり秋なのに、毎日暑いね」
「秋どころか、もう冬なのに」
「夏でもないのに川で遊ぶなんてね」
 猫たちは、口々にそういいながら、冷たい川の水に手足を浸らせて気持ちよさそうにしています。
 森の妖精たちもやってきて、猫たちと一緒に遊びはじめました。
 お日さまは、そんな猫たちを眺めながら、後ろ髪を引かれるようにいつもの道をのぼっていきました。
「それにしても、おかしな暑さだね」
「もっと涼しいところはないのかな」
 猫たちはそういいました。
 すると妖精たちがいいました。
「猫さん、もっと涼しいところがありますよ。こっちに来て」

 妖精たちは、小川の上流に向かって飛んでいきました。小川は森の洞窟の奥から流れていました。
「この洞窟の中はとても涼しいですよ。さあ、どうぞ」
 妖精がいいました。
 洞窟は白い氷の壁におおわれて、冷蔵庫のようにひんやりとしています。
「ここは天国だね」
 猫たちは大喜びです。
 洞窟の中には、宝石のような氷のかたまりがいくつもありました。
 妖精たちは、その氷をくだいてレモンのシロップをかけると猫たちに配っていきました。
「レモンのグラニテです。召し上がれ」
 洞窟の氷は新鮮な島の湧水が凍ったもので水晶のように透明でした。小川の妖精たちの作るレモンのシロップも後味がすっきりとして、おかわりしたくなりました。
 氷の洞窟は、レモンシロップのいい匂いとともに、猫たちがシャキシャキとグラニテを食べる音がこだましていました。

 ココは洞窟の奥をのぞきこんでいいました。
「こんなところに泉があるよ」
「本当だ。なんて美しい色の泉なんだろう」
 猫たちは、泉のまわりに集まってきました。
 泉ではイルカたちが気持ちよさそうに泳いでいました。
「宙イルカさん、こんにちは。今日は一体、どうしたのですか? 最近は滅多に洞窟にはいらっしゃらないのに」
 妖精がそういいました。
「最近、どうにも暑くてね。それで泉にやってきたのです」
 宙イルカたちはいいました。
「本当に暑いですね。こちらの猫さんたちも同じで、今、氷を召し上がっていただいていたところです」
 妖精はいいました。
「今は涼しくていいけど、帰りは大変だな」
 キキがいいました。
 困った顔をしたキキを見て、妖精は宙イルカにこういいました。
「こちらの猫さんたちのお住まいは丘の上です。宙イルカさん、よろしければ帰りに宙の海をわたって猫さんたちを送ってもらえませんか?」
「もちろんですとも」
 宙イルカはいいました。

「では猫さんたち、わたしたちの背中に乗って、しっかりとつかまっていてください。わたしたち宙イルカは、水と宙を自由に泳ぐことができます。水と宙はつながっていますので、ここからあっという間に宙に行けますよ」
 宙イルカたちはそういうと、泉のふちに身体を寄せました。猫たちは息ができるのか少し心配になりましたが、いわれた通りにイルカの背に乗りました。
「さあ、行きますよ」
 猫を乗せた宙イルカたちは、ザブンと水音を立てて、泉の奥深くにもぐっていきました。
 泉のふちでは、妖精たちが手を振っていました。
 宙イルカたちは、青い水の中をスイスイと泳いでいきました。まるで青い夢の中にいるようでした。
 そのうち、遠くからお日さまの光りが見えてきました。ふと見ると、そこはもう、綿アメのような雲の浮かぶ宙の上でした。お日さまは、いつになく力強い光を放っていました。
「お日さまが、こんなに猫島の近くにいる」
「どおりで暑いわけだ……」
 宙イルカがいいました。
 お日さまは、猫たちが心配で自分でも気づかないうちにいつもの道を外れ、猫島に近づいていたのです。
「お日さま、いつも明るい光をありがとう。わたしたちは元気です。心配しないでね」
 猫たちは、イルカの背からお日さまにそういいました。
「いけない、いけない。ついうっかり、いつもの道を外れてしまった」
 お日さまはそういうと、元の道へと戻っていきました。

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