【#8】現在留学中あるいはこれから留学を計画している人または留学とはそもそも根本的に無縁な人のためのカレールーなしでカレーを作る方法完全実況中継解説
カレーライスにゃかなわない
カレーライス。言わずと知れた日本の国民食である。我が国におけるカレーの歴史は浅い。そう書くとカレー好きの方に怒られそうなぐらいには、日本にはカレーに対して一家言をお持ちの方も多い。
日本におけるカレーライスの起源は、明治維新後に当時インドを支配していた大英帝国を経由して原付の二段階右折のような形で伝来したと思われる。以後、原付と同様に16歳から免許を取得することが可能で、50㏄までであれば誰でもカレー粉を扱うことができるようになったことで、カレーライスは日本全土に広まった。
言っている意味が分からない人のためにもう少し詳しく解説すると、明治期を通してカレーライスは日本人の嗜好に合わせて改良が加えられた。そして、旧制陸海軍の将兵向けの糧食として採用されたことを契機にして、日露戦争後あたりから除隊した兵士たちが持ち帰り、郷里でもカレーライスを作るようになったことが全国的普及の一因と考えられている。つまり、原付免許の話は関係ない。誰でもカレー粉は買うことができるし、自由に使うことができる。カレー粉は誰の許可も必要としない。カレー粉は平等だ。
さらに、太平洋戦争後、学校給食にカレーライスが採用されたことも爆発的普及の一因であろう。現在となっては、小学生の好きな給食ランキングで五指に入ると言って過言ではないだろう。ただ、これは個人の感覚でジャッジを下すことが難しいことではあるが、給食四天王の一角であるとか給食BIG3であると断言してよいのかは個人的には疑問符が付く。10年程度前までであれば、給食ランキング国内4位までが出場できる国際大会・給食チャンピオンズリーグに安定して出場していたが、現在は出場権獲得に奔走する古豪といった趣がある。かつて給食ランキングで無敗優勝を成し遂げた強豪も現在の苦戦する様子を見るとやはり時代の移り変わりを感じさせられる。
さて、そんなカレーライスであるが、現在留学している読者のみなさんや留学を計画している読者の皆さんにお伝えしておきたいがが、海外生活中にカレーライスが無性に食べたくなるときがいつかくる。あるいは海外留学に行く予定がない皆さんにも、家にレトルトカレーもカレールーもないけど今からお買物にも行きたくない状況、これはすなわち家への短期留学であると言うことができよう。そんなときあなたには3つの選択肢がある。
ひとつめは、近くのインド料理やあるいは東南アジア料理店を探すということである。インド料理はどこにでもある。”あなたの心にインドがある限り、インド料理屋もまたあなたのそばに居続けてくれる”。はい。今、みなさんの心の辞書に、存在しないことわざのストックがまたひとつ増えました。おめでとう。ぜひ、実生活でも使ってみてください。
もうひとつは、意を決して固形ルーを買うという選択肢である。たとえば、私の滞在しているハイデルベルクにはアジアンスーパーがあり、そこにハウス食品などのカレールーが売っている。ただし、ひと箱3.99€であり、現在のルートでいうと約540円前後と非常に買うのが躊躇われる。それはなにも日本のときの価格と比較して、倍以上高いなどといったことからではない。むしろ、ドイツまで輸入してきたことに敬意を示して、相応の値段を払う気概もこちらにはある。それよりも、その分のお金を出せば、アジアンスーパーからもう少し歩いたところにあるジェラート屋さんで、ふたつ食べてもおつりが来てしまうことが問題なのだ。
ジェラートを食べて幸せになったところで、ドイツに到着して以来、出納簿が火を噴いていたことを思い出す。こうなったら、高級品である輸入物の固形ルーを買うことは諦めるよう伝令が回り、参謀本部より起死回生を期して乾坤一擲のスパイスから調合作戦が発動される。
つまり、カレールーを買うよりも安く、スパイスを買い揃えることができれば、我々の勝利である。みなさんの中にもご経験された方も多いと思うが、こういう場合は往々にして、寮の共用キッチンの戸棚に前に住んでいたインド人が置いていったスパイスが大量に残されているものである。”あなたの心にインドがある限り、香辛料もまたあなたのそばに居続けてくれる”。以下略)
レシピを見ると旨味は逃げる
兵站の問題が解決したところで、調理を開始していくわけだが、こういうときにクックパッドを見てしまうと料理の中に旨味を閉じ込めておくことはできない。ビコリム戦争でマラーター同盟を率いて、ゴアを支配するポルトガル王国軍を撃退した将軍・ウサンの言葉を引用しておこう。
最近の私の手口に馴れたみなさんはご賢察の通り、もちろんこんな人物は存在しないし、こんな言葉を残していない。そして、出典元のように書いている本も存在しない。そもそもビコリム戦争と言えば、インターネットにおける虚構記事の代名詞的存在である。ちなみに、このウソ引用を書くためだけに私はWikipediaを開いた。
レシピを見るなと言ったそばから、言行不一致な私に皆さんが憤慨したところで、いよいよ本格的にレシピ無し調理を始めていこう。なお、この記事を書くためだけに、多大なリスクを背負ってレシピ無しでカレーを作った私の企画の尽き方は推して知るべしである。
早速、コメを炊いていくのだが、もちろん炊飯器などはない。ここは、コメを研いで、スイッチを押せばいいという世界ではない。修羅の国においてはコメを研いだら、30分ほど浸水させる必要がある。安く買えるインディカ米を研ぎながら、なぜ国産米にはひらがな5文字で名前を付けがちなのかがわかってくる。細長いインディカ米に比べて、短くて太いジャポニカ米はとても愛らしい。可愛らしい名前を付けたくのも納得できる。
「『ひとめぼれ』も素敵な名前だし、『ななつぼし』もとっても可愛いけど、やっぱ一押しは『ゆめぴりか』かなぁ。」
優勝が「とちおとめ」に決まったところで、コメに水を注ぐのだが、日本の炊飯器のように何合炊くならどこまでという表示は鍋にはついていない。そこで便利になるのが紙コップである。計量カップも買ったのだが、200mℓの紙コップに擦り切れより少なめに入れると180gで約1合。そして、1合のコメを炊くには、200mℓの水が必要になる。コメを入れたら腕時計のストップウォッチ機能をスタートさせる、夏なら30分冬なら1時間の浸水が目安となる。そう白ご飯ドットコムに書いてある。
浸水時間という比較的長時間の仕込みが必要なものを終えたら、せっかくなのでサラダも作る。冷蔵庫から使いかけのレタスを取り出す。こういうときにもハプニングに事欠かないのが留学先というもので、欧州の冷蔵庫は強烈すぎてレタスが半分凍っている。チルド室じゃなくても凍る。冬にも夏用の温度設定のままの自販機から取り出したジュースのようにフローズン状態。いくら冷製サラダと言えども、いくらなんでも冷えすぎなので、レンジで1分ほど解凍してそこからは放置すること決定。
ついでなのでサラダチキンもつくって、レタスだけのサラダに別れを告げよう。いつも近所のスーパーのお肉コーナーで、拙いドイツ語で量り売りの鶏肉を買うのだが、鶏肉という単語がわかってもムネ肉とかモモ肉という単語はわからないので、そこはいつも鶏肉ガチャ状態。今回は、ムネ肉っぽいのでサラダチキン向きでしょう。(食べるまでわかりません)
ダイソーとフライングタイガーを8:2ぐらいでブレンドした雰囲気のHEMAという雑貨屋で購入した、30枚入り1€のジップロックに鶏肉を3枚に切っていれる。そこに塩・コショウ、オレガノ、オリーブオイル、白ワインをそれぞれフィーリングでぶち込み、封をしたら水をたっぷり入れた鍋に入れて火にかける。沸騰したお湯に入れて火を止めて放置という調理スタイルの人もいるが、温まるのが遅い電熱線式コンロを活かしてお肉を入れてから沸かすスタイルを私は採用。
鶏肉を投下し終わったのでいよいよカレーの材料をしばくこととしましょう。もう1枚の鶏肉をカレー用に使うこととして、一口サイズに切り刻んだら、塩・コショウ・カレー粉で良く揉んで、ビールに浸して柔らかくしていく。塩・コショウはともかくとして、カレー粉がナチュラルに出てきているが、これも前の住人の遺産。賞味期限を確認し、ふたを開けて匂いが大丈夫であれば、ガンガン使っていきましょう。
仕込みで使いきれなかったビールは、調理の合間合間に飲んで有効活用。決して飲みたかった理由とかではなく、あくまで仕込みの段階で余っただけ。あくまで。
お肉の仕込みが終わったので漬けている間に、玉ねぎ、にんにく、しょうがをみじん切りにして、別の器に移す。みじん切りのコツはセラミック包丁を購入すること。もしくはみじん切り器を購入すること。特に技術的なアドバイスはできない。細かくすると火の通りが良い。
なんか気がつくとサラダができている。おそらく冷蔵庫に余っていたとうもろこし缶とトマトを刻んで載せたのだろう。多分。
そうこうしているとサラダチキンを加熱している鍋が沸騰しているので、火だけ止めて放置する。何分放置すればいいかというと、次の作業が終わって手が空くまで放置すればよい。だいたいそれぐらい放置すればおいしく仕上がる。具体的な分数などない。
誤解しないでいただきたいのだが、ここは個人のブログであって、レシピサイトでない。だから、どんな暴挙でも許される。そこで私はあの悪名高き、一度肉を炒めてから油と一緒に取り出すを実行しようではないか。全人類がレシピサイトを見てイライラするあのギミック、「こっちは時間ねぇから手早くそれなりにおいしく食えればいいんだよォ」と怨嗟の声が渦巻くであろう、手順をここでぶち込んでやろうではないか。
まずは別のフライパンを用意して油をひき炒めるのだ。鶏肉に焼き目が付いたら取り出し、水気を切る。悪徳代官は越後屋に夜な夜な話しかける。「鶏肉、お主も悪ぞのぉ」
こんな下らない手順を挟んだことによって、なんだかジャガイモを下茹でするのが面倒になってきた。こういうときは、「簡単!」とレシピ名の前に感嘆詞を入れるレシピサイトあるある「ある具材は手間をかけて一度焼いて取り出すのに、急に電子レンジで下拵えを終える」を召喚しようではないか。IKEAで買った刃が回転してしまってむきずらくてしょうがないピーラーでジャガイモの皮をむいたら、一口大に切り刻んでボウルに入れてラップをかけて電子レンジに投入。加熱時間はまぁ、5分ぐらいかな?
さて、レンジにジャガイモを投獄したところで、コメの浸水時間が終わったので炊き始めることとしよう。鍋炊きごはんの最大のデメリットは、鍋の底にコメが焦げ付いて食後の手間を増やすことであろう。そんな悩みも、インド人の前の住人が置いていったIHヒーターを使えば即座に解決。インド人の住人が置いていったものを使えば、種々の問題は解決するのである。かつて『英語は「インド式」に学べ!』などというビジネス英語本が若干ばかり売れたが、本当は『ぜんぶ「インド式」に学べ!』にすればよかったのだ。入寮して2週間で、すでにIHヒーターはあつぎによって私物化されている。
IHヒーターをコンセントにつないだら、早速、加熱していく。温まるまで時間がかかる電熱線式と違い、IHなら秒殺である。いや、瞬殺である。さしずめボブ・サップの試合を見ているようで、ガードがあってもその上から強烈なストレートでブン殴ってノックアウトしていく、そんな感じで一瞬で沸騰させていく。しかも鍋底にコメは焦げ付かない。
そんなので私は一瞬でIHヒーターが好きになってしまった。感化されやすい私はいつも旅先で恋に落ちてしまうのだが、今回はついに日本人でもなく、外国人でもなく、調理器具になった。出国前に行った占いで、一番最初にあった人があなたにとってとても大事な人になると言われて、「え、出国前から数える?到着してすぐ?そしたら入国審査官?大学のバディ?オリエンテーションで最初にあった人?それともそれは授業初日のこと?」と混乱が深まっていたが、もう悩む必要なくなった。それはIHヒーターなのだから。
さて、コメを炊き始めたので、今度は玉ねぎ・ショウガ・ニンニクを炒め始める。玉ねぎの色が変わるまでじっくり炒めたら、今度は先に炒めておいた鶏肉を加えて馴染ませる。すぐにレンジで温めておいたジャガイモも入れて火を通し、とここまで書いてカレーの作り方知らない人いるかとメタ認知が暴走し始めたが無視することとする。雑念に集中力をとられていると鍋が沸騰しているので、弱火にしてしばらく放置する。
カレーの具材にあらかた火が通ったところで、浄蓮の滝0.005秒分の水を注いで沸騰させる。リットルとかミリリットルとかアホくさくなってきたときは、日本人らしい単位ではかりましょう。西日本の方は那智の滝を単位にしても良い。
沸騰させるまでにスープとなる、ローレルとコンソメを入れましょう。インド人がありとあらゆるスパイスを残していった秘伝の棚にローレルらしき葉っぱがあるので投入。もし、そこらへんで積んだただの葉っぱだとしたら…葉っぱカレーが完成する。ただ、それだけのこと。
ところでコンソメはというと、どうあがいてもコンソメらしきものは見当たらいので、冷蔵庫に余っていた無添加のヨーグルトでもぶち込んでみる。どう頑張ってもヨーグルトはコンソメの親戚ではないのだが、味がまろやかになる気がするので良しとする。それでも気になる場合は、どちらも名前がカタカナなので事実上の血縁関係があるということにする。なんだかそんな気がしてくる。コンソメはもう実質ヨーグルトと言って差し支えない。
コメを弱火で8分放置していたことに気づいたので、火を止めて蒸らす段階に入る。このとき絶対にフタを開けてはいけない。なぜなら、開けてもどうせコメしかないから。
さて、具材を煮込んでいる間に、スパイスの調合を始めるのだが、まずドイツ語が読めないのでどのスパイスかわからないものも多い。そして、たまにヒンドゥーだかタミル語の表示かないスパイスがあって、もう読むとか読まないとかの次元ではない。というかスパイスを調合して小麦粉と炒めるところからスパイスカレー作りが始まる気がしないでもないが、今更後に引けないので、このまま続行。世の中において、正義が勝つとは限りません。勝った方に正義が宿る、いや、食った方に正義が宿る。
後学のためにスパイスの調合レシピを以下に書いておこう。
さてスパイスを鍋にぶち込んで良くかき混ぜたら、米粉と小麦粉でとろみをつけていく。そうするとまぁカレーっぽくなってくるが、想定より大分黄色い。まぁ、占いでパーソナルカラーが黄色と言われたのでOKとしよう。そうこうしているとご飯が蒸らし終わったので、ご飯を盛り付ける。
カレーに十分火が通って馴染んだなと思ったので、調理完了。盛り付ける。
結論
いざ、実食。
う~ん。ジャガイモ硬くない?
そう、電子レンジで仕込んだジャガイモがあんまり柔らかくなっていなかったのだ。めんどくさがらずに下茹ですればよかった。味は日本のカレーとは違いますが、全然おいしいカレーでした。この記事のためだけに、レシピを見ないで作ったのに不味くならなかったのは、エンタメ的にはあれでしたがお腹いっぱいになりました。
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