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動く小部屋

8月が去った。
9月の1日目は激しい雨で、朝から近所に落ちただろう雷鳴で目を覚ました。
今だって目の前では打ち捨てられたポリカスエットのペットボトルが護岸の端の水面で激しい雨に打たれて所在なさげに揺られていて、あれは青春とか夏の象徴みたいな飲み物だから秋の気配に馴染めなかったね、なんて思っている。



コロナ隔離期間は今日を含めてあと2日。だから本当ならまだ家に居なきゃいけないのだけど、多動気味で休みの日に家に居られた試しがないから、引きこもっている時間が長くなってくると精神が先に参りそうで「絶対に車から1歩も出ません。神様許してください、これは隔離部屋が移動しただけ。」と言い訳して近所の海まで音楽とカメラ片手に車を飛ばして来た。




NowPlaying    夏の夜/The SALOVERS
知ってる?サラバーズ。今THE 2のボーカルの古舘君の昔のバンド。この曲夏に聴くのすごくいいよ。

車はいい。まるでタイヤのついた小部屋だ。
身体を遠くまで運んでくれる四角い箱。一歩も外に出なければ誰と接触することもない。それどころかそこに【車がある】ということは認識されても【どんな人間が乗っているのか】は意識されることなんかほとんどない。
漁港に横付けした車の中で、downtのシー・ユー・アゲイン を聴いている首からカメラを提げた人間の存在というのは、確かに存在しているけれど、人ひとりもいない此処では誰にも見えておらず、本当に存在するのかさえわからない。シュレーディンガーの猫の如き。

極端な田舎道は車とさえすれ違うことも滅多にない。もし10分前に全人類は消滅して今はもう誰も居ないとしても多分気付かないだろう。海に向かう道すがら、車を横付けして何ともない景色にシャッターを切る。
何も無いけれど、部屋の中では無いと言うだけで今の私には十分すぎた。


見慣れたはずの海は、雨でいつもより霞んだ青緑でそれはそれで綺麗だ。
いつの間にか雨は小雨に変わっていて、開けた運転席の窓に海鳥の鳴き声が聴こえた。

NowPlaying   秋、香る/Maki

おまけ。帰り道で見つけたヒーロー


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