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『もののけ祭りのようかい屋台』③〜暗黒労働おとぎ話〜
※ 暗黒労働おとぎ話とは:あまりに酷いため、ブラック企業の実態をありのままに書けず、物語にして伝える試み
【泥田坊の泥んこ鍋】
いっしゅん法師とにんげんの男の子は、泥田坊という大男の屋台で「あんこう鍋」を売る仕事を、派遣会社から紹介されて来ました。
泥田坊のテントはとてもとてもせまくて、野菜を洗うところも、切るところもありませんでした。
泥田坊は泥のようかいなので、どろんこなんて気にもとめません。
「ここはおうちのお台所とは違うんだ。野菜を洗おうなんて思っちゃいけねえ。そんなことをしている場所もヒマもないんだ。
これから忙しくなるんだ。どんどん切って、鍋にほうりこめ。さもないと間に合わなくなって泣きをみるぞ!」
いっしゅん法師は「お客に泥を食べさすのは忍びない」と思い、せめてネギは皮をしっかりむいて、根もとを大きめにきって、できうるかぎり泥が入らないように工夫しました。
泥田坊の屋台の机はガタガタしていて、野菜を切る場所もろくにありません。
机のはじっこのほうに不安定にまな板をおいて、だいこんを切っているいっしゅん法師を
となりのテントの猫娘が
「きゃ~~!あぶないにゃあ~~!きゃあ~」と、はらはらしながら見ておりました。
泥田坊のテントには、手指切断防止の安全装置がついていない、いにしえの「ふーどすらいさあ」という”からくり”が置いてあり、それで野菜を切るのも、アルバイトの人の仕事になっておりました。
泥田坊は
「気をつけないと、指がとぶぞ。
指がとぶぞ~。
血だらけになるぞ~。
お前の指が飛ぶと、おれはもう店が出せなくなるんだ。だから十分、気をつけるんだぞ」
と注意して、店主なのに、自分はどこかにふらふらと遊びに行ってしまいました。
「ものののけ祭り」が始まると、お客が珍しい、おいしいものを食べたくて「あんこう鍋」を買いにきました。
どろんこが入らざるをえない、泥まみれのあんこう鍋なのですが、お客は高いお金を出して、おいしそうに食べています。
いっしゅん法師はやるせない気持ちになりましたが、今日のお祭りは、無法地帯の「もののけ祭り」です。
どこの屋台をのぞいてみても、泥田坊の屋台のような、きたない感じなので、しょうがありません。
いっしゅん法師もにんげんの男の子も、指も飛ばさず、血まみれにもならずに無事に一日を終えられて、ホッとしました。
このように、ようかい屋台は、はたらく人にとっても危険がいっぱいなので、いっしゅん法師は「そろそろ屋台で働くのはやめよう」と本気で思いました。
【性悪河童のさる芝居】
あるところに、ずるがしこいカッパがおりました。
カッパは「食のもののけ祭り」に出店するために、日雇い派遣のアルバイトの人間を1人呼びました。
学生の男の子が時間どおりにやってきました。
カッパは炭火焼肉を売っていました。
でも、その日は昼からあいにくの大雨で、お客がとんと来なくなりました。
とうぜんですが、焼き肉はまったく売れずに大赤字。
あせったカッパは経費を節約するために、学生さんにアルバイト代を払いたくなくなってきました。
イライラしたカッパは、学生さんが何も悪いことをしていないのに、とつぜん怒りはじめました。
ささいなことにも文句をつけて、大声で怒鳴りました。
なにかにつけて怒りました。
ずっとずっと怒鳴りつづけました。
学生さんはずっとあやまっていましたが、カッパは、けっして許す素ぶりはみせません。
性根の腐っているカッパは、学生さんが自ずと逃げ出すように、さる芝居をしていたのです。
そんなことはつゆも知らない学生さん。
かわいそうに、とくだん悪いことをしていなかったのに、さんざん怒られ、なぐられそうになったり、蹴られそうになったりしました。
「てめえ、もう帰れ!このやろう!」
半日働いたにもかかわらず、当日払いの給料をもらえないまま、身の危険を感じた学生さんは、カッパの屋台から大急ぎで逃げ帰ってしまいました。
カッパは一日中ヒマだったので、ニタニタしながら近くのようかい屋台のテントにおしゃべりをしにきました。
そして、得意まんめんに
「今日は雨で売上がなかったが、人件費を払いたくないから学生アルバイトに、さんざんいちゃもんつけて、おっぱらってやったんだ。何時間かタダ働きもさせられたし、給料も払わずにすんだ。
今度また祭りのときに雨がふったら、この手を使おう」
と他のようかい達に、じまんをしました。
それを聞いた他の屋台のようかい店主達は
「あいつは頭がいいな。その手があったか」と、感心して、自分たちもマネをしてみたいと思いました。
それを見ていた いっしゅん法師は、
「ややっ! ようかい達が悪だくみをしているな。あいつらがああいうことをあちこちでやり始めたら、お祭りの運営団体のテントにかけ込んだり、警察に相談しなくてはいけないかもな。
ようかい屋台に呼ばれたアルバイトの人たちにも先に危険を伝えておかなくてはいけないし、もののけ祭りで、こういう悪だくみが行われていることを、もっともっと多くの人に知らせなくてはいけないな」と思い
暗黒労働おとぎ話に、
じぶんが見たこと・聞いたこと
もののけ祭りの闇を洗いざらい書き記し、
白日のもとにさらす決意をしたのでした。
続く
不運な人を助けるための活動をしています。フィールドワークで現地を訪ね、取材して記事にします。クオリティの高い記事を提供出来るように心がけています。