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安易な派遣切りへの対抗策を考えた

私は在宅ワークをしているのだが、ある日突然、部長から電話がかかってきた。
専務から、コストカットのために派遣社員を減らすようなことを言われたらしい。部長は、部内全体の仕事が忙しいので「派遣社員の必要性」について専務に説明してくれたらしい。
ありがとう、部長。

だけど、平和な日々を過ごしていたのに、突然そんな「コストカットで派遣切り」なんてことを言われて、心配になった。
大企業で、業績が良くて、大量採用している最中ということは、社内メールで一目瞭然なのにな。


私は中小企業診断士の勉強を1年ほどやっていたし、労働組合で積極的に活動していて幹部になればとまで言われたこともあったので、労働法規には強い。

コストカットで派遣切りは、厚生労働省が「無闇矢鱈とやるな」と言っている。"雇い止めの濫用"というやつだが「不当な雇い止め」の判決が出ることも、しばしばある。

「不当な理由の雇い止めは違法です」
と、こちらの弁護士事務所のサイトにも書いてある。

というわけで、今回は
「突然雇い止めをされた時の戦い方」について書いた。

※注意※
なお、このnoteは、私の頭の中の独り言にすぎないので、実際に戦うぞって人は、労働組合や弁護士(無料相談なんかが運良く活用できれば理想的)、労基署で労働審判について聞いてみよう。東京の労基署は、最近しっかり相談に乗ってくれるぞ。

またケースの複雑さ、会社の経営状況、証拠の質と量によって勝敗は左右されるため、とにかく専門家に相談すること。勝敗と書いたけど、大抵は「和解」で決着する。


雇い止めのケースで、よく出てくる法律
『労働契約法19条』の「雇止め法理」

過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの

労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの

労働契約法19条条文「雇い止め法理」

https://hcm-jinjer.com/blog/jinji/labor-contract-law_article-19/

契約社員、アルバイトの場合は、普通に長期契約とみなされるが、派遣社員の場合は更新回数の数が重要になる。「有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続して雇用されている」が基準となる。


『契約更新の合理的な期待』

雇用の目的が臨時的に発生する仕事の従事のためではなく、通年ある仕事内容だった場合や、都度契約書を交わすなどしておらず、自動的に更新してきたようなケース。


上記に加えて『契約更新の申込』をすること。

有期雇用者が契約期間の満了までに契約の更新を申し込みした場合、又は契約期間の満了後に遅滞なく労働契約の申し込みをした場合

・契約期間満了前の契約の更新の申し込み
・契約期間満了後に、遅滞なく契約更新の申し込み

使用者が労働契約更新の申し込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、従前の労働条件と同一の労働条件で申し込みを承諾したものとみなす


『労働契約法16条』「整理解雇の4要件」

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする

労働契約法16条条文

よくある「突然、理由も告げられずに雇い止めを宣告される」ケースも「合理的な理由を欠き」に含まれる。

「客観的に合理的な理由」とは、整理解雇の4要件として知られている、下記の4項目を全て満たしていないといけない。

①人員削減に経営上の必要性が認められること
②解雇を回避するための努力を講じたこと
③解雇の対象者を合理的基準に基づいて選定していること
④対象者と十分協議したこと

で、これを会社が提示するのは非常にハードルが高い。
もちろん業績が良い会社は、あてはまらないし、そもそも②〜④をやっていれば、争うことにはならない。


【労働争議】

労働争議は3回で決着がつく労働審判か、加入している労働組合を通すことになる。

アホな会社相手の場合は、通常裁判に移行することもあるけれど、法務部があるような、そこそこの大きさの会社であれば労働審判の1回目で解決したいと考えるものである。
まあ通常裁判になれば、裁判は公開されて、会社名も出てしまうし、お金もかかるし、時間もかかる。よほど頭の悪い、何にもわかってないような会社でなければ、通常裁判にしようなんて思わないはずだ。

労働審判は、弁護士をつけることもあるけど、労働問題専門の審判なので、裁判所には派遣社員側の味方になってくれる専門家もいるし、公平な判断をすることが前提なので、次に述べる証拠となるものを揃えられれば、弁護士をつけなくても1人で戦うことは可能だ。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/roudousinpan/index.html


勇気と情熱と、プライドと、根気と忍耐は必要だけどね。
感情論では勝てない。
論より証拠が強い。


【証拠】

①労働条件明示書
 最近はPDFなので、契約回数分印刷しておくこと。
 裁判(労働審判)で使うので、出来れば全期間分欲しい。

雇い止めの際には、雇い止め理由証明書を請求する。
会社は遅滞なく発行しなくてはいけないため、雇い止め理由証明書をくれませんでしたとなると、会社側が著しく不利になる。

③勤務記録(就業日数やタイムシートなど)
遅刻や欠勤が多すぎるなどがなければ、派遣社員側が有利になる証拠。これも直近3ヶ月〜半年くらい分は印刷しておくといい。

④上司からの評価がわかる書類
私の場合、コストカット派遣切りの話が出たことを派遣会社に相談した時に、担当者がフォローするためにくれた
評価表のPDFがあるので、これは使えるなと思った。
評価が著しく低くなければ、派遣社員に有利な証拠となる。

⑤派遣会社への相談メール
雇用に絡みそうな心配事やトラブルがあったら、担当者には電話だけでなくメールでやりとりしておくといい。

⑥会社の業績がわかる資料
上場企業ならIR資料、決算書、社内メールで業績好調な様子がわかるもの、新規の正社員の登用数などわかるものがあるといい。
会社が経営難であることが証明できないと、会社の不利になる。

何日何時のミーティングで、そのような話が出たとか、派遣会社の担当者に相談した記録は、印刷できる形で残す。または、ボイスレコーダーに録音すること。
でもボイスレコーダーは、文字起こしがエグいので、あまりお勧めしない。

※今回は、ハラスメント 事象は含めない。
セクハラ、パワハラは、労働審判ではなく、通常裁判になるケースが多い。
お金がなければ、労働組合を通して団体交渉となる。


【決着のつけ方】

①地位確認請求

解雇により一方的に雇用契約上の地位を奪われた労働者がその解雇の効力を争い、未だ雇用契約上の地位があることを確認するのが解雇無効・地位確認請求の訴えです

下記サイト

私も、これをやった。基本中の基本だ。

②損害賠償請求

雇い止めが違法とされた場合、雇い止めにあわなければ得られるはずだった給料を請求できる。
派遣社員の場合は、3ヶ月更新なら3ヶ月分が相場のようだ。

ちなみに、労働組合を通して抗議する場合は、会社内の労働組合ではなく、1人でも入れる合同労組(ユニオン)に加入したほうがいい。
派遣先会社内の労組でも、非正規のために頑張って交渉してくれるところもある。給料から組合費を天引きしてるような労働組合は、そういう時には相談に乗ってくれる。
実際に私が強制的に加入させられていた派遣先の労働組合は、派遣社員のためにリーマンショックの時に、派遣切りを防いでいた。
ただし平気で裏切る御用労組も多いので、やはり会社内の労組よりは、合同労組のほうがいい。

詳しくは、こちら。

労働組合に加入するところから始めると時間がかかる。
入会金が高くても(3000円から1万円)、すぐに着手してくれるところもあれば、スタッフが足りなくて、なかなか動かないところもある。
その場合、契約終了の2、3日前に派遣会社、派遣先と
団体交渉するなんてこともある。
なお団体交渉は、派遣契約契約終了後も続けることは出来るし、派遣先と派遣元が団体交渉を無視すると、不当労働行為という刑事罰を犯すことになり、①民事上の損害賠償責任 ②救済命令違反に対する罰則を受けるおそれがある。また張り紙で会社名を張り出されたり、都道府県の労働委員会のサイトに会社名を晒されたりする。

https://人事労務alg.com/roumu/unfair-labor-practices/

労働組合を通しての戦いは、会社に噛みついて離れない噛みつき亀みたいな戦い方になる。
2、3ヶ月に1度くらい団体交渉をする。時間は2時間くらいで、相手は弁護士をつけている。
でも労組法が強い(民事刑事免責)ので、弁護士はただのお飾りみたいなもんだ。

労組サイドはベテランの幹部などが、激しく攻防してくれる。もちろん自分も頑張る。
半年〜1年噛み付いていると、相手側が折れて和解案を出すか、労働委員会(東京なら都庁に設置されている)が仲介に入ってくれ、あっせんの場で和解の道を模索する。
私は前回はこの方法で「契約更新があったら支払われていた3ヶ月分の給料」を獲得した。

年をまたぐ事を会社は嫌がる。法務部が社内で怒られるからだ。だから労組の戦いとしては、噛み付いて、しつこいという戦い方をよくする。
本当にしつこい人は10年戦ってるけど、そういうのはレアケース。

労働組合は長期戦、労働審判は3回の審議で長くても半年と、時間はかかる。

よほど派遣社員側に不利な証拠がなければ、労力と時間をかければ、納得のいく落とし所に辿り着く。



なお、このような戦いが出来る派遣労働者は1000人に1人以下と聞いた。
風の噂。

私はいろんな方法で7回抗議して、200万円勝ってる。
まあ、負け戦とみたら最初からしないから、全部勝つんだけど。

負け戦にしないためには、とにかく「論と証拠」と「戦略」に長けていないといけない。
感情的になってはいけない。冷静さと、的確な判断。
あと、余計なことはしないこと。
これが大事。

不運な人を助けるための活動をしています。フィールドワークで現地を訪ね、取材して記事にします。クオリティの高い記事を提供出来るように心がけています。