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私が好きな自主制作アイドルSEVENTEEN

SEVENTEENとは

今年の5月、突然「推し」ができた。
それはK-POPアイドルグループのSEVENTEENだ。
2015年にデビューした、韓国、中国、アメリカ出身メンバー13人で構成される多国籍グループ。13人が3つのユニット(ヒップホップ+パフォーマンス+ボーカル)として一つのチームを構成するため、13+3+1=17でSEVENTEENとなっている。ファンの総称は「CARAT」。
彼らの特徴は、13人という人数の多さを活かした迫力ある独創的なパフォーマンスと、ユニットごと・年齢ごとなど少人数編成の曲が多数あること、全ての楽曲にメンバーが参加する自主制作というスタイル、そして「芸人アイドル」とも言われるほどのバラエティセンス。

なぜ「推し」になったのか。
理由はいくつもあるが、その大きな理由の一つに「自主制作」というスタンスがある。
これから「自主制作アイドル」であるSEVENTEENという一面に焦点を当てて語っていく。

自主制作アイドルとは

彼らの大きな特徴の一つ。それは自身で作詞作曲、振り付けを手がけ、時にはMV制作や写真集の撮影まで手掛ける(!)自主制作グループであること。私はまずこの制作スタイルに惹かれた。彼らはアイドルであると同時に、クリエイター集団なのだ。

私が彼らを知った時「自主制作」の「アイドルグループ」が存在するのかと目から鱗だった。
もちろんアイドルが楽曲に参加する例は多く存在するだろう。中には作詞作曲まで手掛けた曲も沢山あるかもしれない。でも全曲の作詞作曲、更には振り付けにまでメンバーが関わっているグループを私は初めて知った。主体性を持ったアイドルグループであるSEVENTEENに、私が知っているアイドル像を華麗に覆された。いや、彼らはアイドルという手段を選んだアーティストなのかもしれない。

自主制作アイドルであるSEVENTEENの醍醐味、彼らは何者にでもなれること。
特定のコンセプトを背負ったグループには、コンセプトを自分のものに昇華させていく面白さがある。さらに自主制作でも自分たちの音楽のスタンス・コンセプトを貫くグループもいる。
そんな中SEVENTEENは特定のコンセプトを演じないこと、自主制作の「アイドル」を徹底してやっていることが特徴だと思っている。
彼らの楽曲は歌詞も曲のジャンルもビジュアルコンセプトも、一貫して聞き手であるCARATを向き「次はどんな姿を見せようか」と常に新たな一面を見せることを楽しんでおり、同じくCARAT側も楽しみにしている。
このことについて、「SEVENTEENのすべての歌とダンスは、ファンダムであるCARATたちのためのもの」だと本人たちも語っている。

人間とは多面的で変容を続けるもの。自身が作詞作曲、振り付けを手掛けているからこそSEVENTEENはすごく人間味のあるグループだと思っている。黒も似合うしピンクも似合う。ポップスからファンク、バラード、そしてヒップホップやハウス……音楽の色が何色になってもその言葉とメロディーには彼らの語彙が必ず入っているので、毎回変わるコンセプトにもファンは彼らの一面だと楽しんで捉えることができる。「僕たちはそれをリスクというより、変化を受け入れることとして捉えています(ミンギュ)※1」とメンバー自身も明言している。

デビュー当時、二十歳前後の少年だった彼らは、甘酸っぱい片思いの心を歌ったデビュー曲『Adore U』で「君の前に立つだけで心臓がドキドキして」と歌っていた。それから6年の歳月を経て、7年目を迎えた今年の6月に出した『Ready to Love』の中では「君さえ準備ができていればいい」と歌う。君の前に立つだけでドキドキしていた少年が、私は愛する準備ができている、あとは君次第だと言い切る大人に成長していく。
こうして彼ら自身の言葉で綴られてきた言葉が、歌が、踊りが絶えず変容していく。

だからこそ彼らの楽曲に対する思いはすごく率直だ。「今はもうデビューアルバムは恥ずかしくて聞けません」と語るメンバーもいる。それは楽曲にまつわる当時の自分の気持ちが直に反映されているからだ。自分が過去に作ったものを直視できないのは、ものを作る立場の人間として、私もとても共感する。常に成長しているからこそ、過去のものを直視できない。こういう部分に、彼らが作り手側の人間であることをひしひしと感じている。

彼らが教えてくれる、自主制作のマインド

SEVENTEENの楽曲で、振り付けを担当するホシと作曲を担当するウジは、自身のパフォーマンス作りについてこう語る。「実は僕たちにとっては、自主制作は一つも大したことじゃありませんでした。デビュー当時のものを今見ると、子どもたち同士でかわいくふざけているようでもありますし。それでも作品ができあがるということは、若い年齢でも何か少しプロらしく、常に生活のように創作に取り組んでいたからじゃないかと思います。必ずしも真剣にじゃなくても、ふざけていて出てくるアイデアが多いです。現在でも、パフォーマンス後半の作業は、メンバー全員が練習室で自由に意見を交換しながら進めます。特にSEVENTEENは練習室によく集まっているので、特別な場を設けなくてもその場その場で軽く会議をして、それをステージに適用することが日常のように行われています。振り付けの構想を練っていた時には思いつかなかった部分が、メンバーたちと一緒にやっていると、もっと良い構成が出てきたりします。みんな振り付けを上手くこなすのに加えて、新たな動きまで駆使するんです。むしろメンバーたちが良い絵を創ってくれる時が多いです。※2」
ウジ、ホシらを筆頭にSEVENTEENのメンバーの全員が、楽曲・パフォーマンスに参加していく。そのスタンスは、自分の得意なことを活かしてさまざまなことに挑戦しやすい雰囲気にも繋がっている。

作曲にはウジの他にも、バーノンやスングァンなども参加し、作詞には全てのメンバーが参加する。特にヒップホップチームは自分のラップパートを自分で書き、楽曲もウジではなく、ヒップホップチームとボムジュ氏(他プロデューサー陣)で完成させるケースも多々ある。さらに最近ではジョンハンが作詞作曲したソロ曲『Dream』を韓国語verと日本語verで同時発表した。

また、自主制作のスタンスは楽曲制作にとどまらない。『Holiday』は、各メンバーが撮った動画を集めてウォヌが編集したMVだ。さらに『Snap Shoot』のMVは北米ツアー中にミンギュが撮影し、編集したものだ。このMVの最後には、ミンギュがカメラを持ってメンバーを追いかける撮影中の光景が映し出されている。彼らが彼らのことを誰よりも知っているからこそ引き出せる表情や空気感が魅力の2本。
他にも挙げ出すとキリがないが、メンバーの頑張りをみて他のメンバーが自分には何ができるかと自然に考える雰囲気が自然と出来上がっている。

彼らを見ていると自分が高校生だった時の文化祭を思い出す。私が通っていたのはデザイン科だったが、私たちは文化祭の出し物で、当時流行っていたAKB48の曲でCMのようなダンス動画を撮った。振り付けをアレンジして教える子がいて、踊りたい子たちが十数人で踊る。CMに付随して架空のCDやポスターをデザインする子がいて、動画編集が得意な子が編集、音楽の編集も得意な子がやる。あの準備期間の思い出は、高校を卒業して10年近く経った今も心に残っているが、SEVENTEENがやっているのはこの「文化祭」の延長上のようにも思えてくるのだ。
それぞれの得意な分野を持ち寄ると、一人では不可能なことも可能にできるという自主制作のマインドを彼らに教えてもらっているようで勇気をもらえる。

彼らは10月22日に新曲『Rock with you』を出したが、発表一週間ほど前に、音源のパラデータ(ボーカルやキーボードなどパーツごとに分かれた楽曲データ)をGoogleDriveにて無料配布し、CARATに向けて「自由に組み合わせてオリジナルの曲を作ってみてね」と投げかけた。
自分たちだけではなくファンにまで自主制作させるSEVENTEEN。それは彼らからの「曲作りって意外と難しくないよ、楽しいよ、やってみようよ」と楽曲制作の敷居を下げるメッセージだと思った。
自分たちがまず一番に楽しんでいるからこそできる企画で、作曲は特別な人のものではないという彼らのメッセージにはとても説得力がある。
この企画は大盛り上がりし、Twitterでは「#SVT_AUDIO_KIT」というハッシュダグを付け、世界中のCARATたちが思い思いの組み合わせで楽曲を発表しており、名曲が数え切れないほど生まれた。
CARATが生み出した数々の曲を聞き、私はとても感動した。

この企画の素晴らしいところは、男性アイドルグループのファン層の大部分を占める「女性」を変に意識していないところだ。DTM=男性のものという意識を捨て、いわゆる“女性ファン”向けの企画をオトナたちで勝手に作り上げず、媚びようとせず、性別を意識せずに対等な立場で「やってみてよ!」と無邪気に呼びかけてくれる。この無邪気さにどれだけ救われることか。
今回SEVENTEENをきっかけに初めてDTMソフトを触ったというCARATも多数見受けられた。作曲にハマったと言っている人もいる。彼らは我々が今までアクセスしにくかったものにまで、初めから壁なんて存在しないよと言うように、太陽のように導いてくれる。
何より、彼らは楽曲だけに重きを置かれない「アイドル」という立場の人たちだ。その彼らが出したこの企画には、自主制作グループである誇り・主張が詰まっていると私は思っている。また、この企画によって彼らが普段やっている「作曲」についてのファン側の解像度も上がる。
SEVENTEEN、ウジ氏、ボムジュ氏、他制作陣、そしてPLEDISエンターテイメント、HYBE。こんなにも素晴らしい企画をありがとう。

自主制作のスタンスをファンまで巻き込んでしまうSEVENTEEN。次はどのような姿を、アイディアを、音楽を見せてくれるのだろうか。今後の彼らの変化が、歳月を重ねていくことが、ますます楽しみだ。


「推し」にまつわるzineを作りました

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友人の、世菜/河鹿と二人で『推察』というタイトルのzineを作りました。

箱推しとガチ恋、K-POPアイドルと声優、布教欲と同担拒否。スタンスの違う二人のオタクが、それぞれのやり方で、それぞれの「推し」についての語りを繰り広げたり、対談したり、合宿したりします。「"推す"とは何だ?」という問いに、二人がかりで向き合った一冊です。
この記事は、zineの文章からの一部抜粋になります。(正直この記事だけではまだ彼らの表層しか語れていないのでぜひzine自体を手に取っていただきたいという気持ちです……)

SEVENTEENという「推し」自体について客観的に掘り下げた私、ナルミニウム。
「推し」を通して「ガチ恋」感情に主観的に向き合った、世菜/河鹿。
その二人が「推しについて」「推すことについて」語り合った対談。
……全部で92,785文字。胸焼けするくらい熱の詰まったzineになりました。
webショップにて、ぜひチェックしてみてくださいませ。

【記事内引用】
※1
i-D「SEVENTEENが振り返る、デビューからの5年間と重要なシングル5曲」
https://i-d.vice.com/jp/article/y3zmzw/k-pop-group-seventeen-five-biggest-singles-explained-interview

※2
Weverse Magazine「SEVENTEENのパフォーマンスの営業秘密」(一部抜粋)
https://magazine.weverse.io/article/view?lang=ja&colca=6&num=232

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