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紡がれる物語【精霊の残渣】

精霊が通った後に残る物質を水晶に閉じ込めたもの。
全ての人に見えるわけではなく、精霊に好かれている人のみ視認できる。
一説ではこの残渣を辿ると「エデンリフ」へ行くための手がかりが見つかると言われているが真偽は不明。


ここにいたのね、精霊さんは。
・・・ん?あっちにも落ちている。少し、追いかけてみるかな。
〈泡沫美月〉

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しっかりと残渣が封入された、いい魔法石なのに属性が視えない。
魔石工士でも鑑定できないとなると、空白の魔女に視てもらうか?
それか森の精霊使いに…シムルグにも視てもらうか?この時期なら森の精霊使いと共に、北の霊山にいるはず。
行こう。今度こそ楽園への手がかりが得られるかもしれない。
〈Fel!z〉


「なにかが聞こえたんだ、あれはきっと歌だった」
そう言って彼は、胸元を握り締めるように押さえる仕草をした。いつもは冷めた表情のくせに、今日は目元をほんのり興奮で潤ませて。こんな彼は知らない。なにかに駆り立てられるように、遠からず彼はどこかへ『行って』しまう。そんな予感がした。
〈新月〉


「お母さん、何かが光ってる」
何もない空を指して笑ったあの子はもう居ない。かわいいあの子、私の愛し子。きっとあの子は行ってしまったの、遠い遠いエデンリフへ。精霊達に愛されて、連れて行かれてしまったの。
〈梟鸚鵡〉


「さて、いこうかね」
幼い日、迷い込んだ場所で帰り道を教えてくれた精霊がくれた不思議な石。
──人の世を十分生きたと思ったら、この石を案内に、此処に戻っておいで私たちの愛し子──
きっとあの美しかった場所で今度は精霊として永き時を、世界と生きるのだろうと若い頃の想い出に淡く笑った。
〈翠雪〉


『あの子を探して欲しい』そんな依頼が来たからここまで来たけれど。
話し合いで、分かってくれるかしら?
もし、無理ならば・・・。仕方ない、よね?
〈泡沫美月〉


それは昔祖母に聞いたお伽話。
祖母から貰ったこの水晶は光を通すと美しい模様を描く。しかし、母にはただの石にしかみえないらしい。
「…は精霊に愛されているのね」
優しい顔でそう言った祖母の話を思い出し、私は旅支度を始めた。〈Leone〉


「私が司祭を辞めたのは、取り返したいからです。芽曜日の施しの礼拝にやってきた女は水晶を持っていて、孤児たちに見せて回っていました。精霊残渣への適性を調べて誘拐したに違いありません」
元司祭は首元の水晶を撫でた。そこには煙のような残渣が残っている。
「この結晶だけが手がかりなのです」
〈東洋 夏〉


僕は生まれつき目が見えない。けれど暗闇の視界の中で見えるものもある。
例えば精霊の姿。魔力の流動。年に一度、精霊たちが集うという植物の楽園「エデンリフ」。
精霊たちは隠れて行くが、ほんの少し人間にはその魔力の残渣が見える。
おそるおそるその残り香を辿り行くと、ぼくの見えぬ視界に眩しいほどの色彩の奔流を感じた。
あぁ、なんて綺麗なんだろう。
思わず熱い涙が零れた。
ふと、気がつくと僕は自分の家に戻っていた。
閉じていた目は開くようになっていた。だが、もうぼくには見えない。
精霊も魔力の流動も、彼らの足跡も。
手に残った水晶は曇りひとつ無い。
〈あずまうしお〉

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