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紡がれる物語【桜告石】

桜の季節になると木の根元に誰かからの贈り物のようにそっと現れるようになる石。
咲き具合により桜色~黄緑色に変化し、初夏を告げる風とともに消えてしまう。
桜とこの石は東の島国の春の風物詩として他大陸の人々にも知られており、春になると花見と石を求めて多くの人が訪れる。


昔から、桜の下には鬼が住むなんて言われていてね。
桜告石を採りに来た人が、誘われるままに常夜に行ってしまうことも、ごく稀にあったものさ。
俗に言う、神隠しってやつさ。
桜告石は、桜からの贈り物なのか、はたまた鬼からなのか、それとも…。
ん?これかい?これはね、若い頃に鬼からもらったんだよ。
嘘かと思うかい?それもまたいいだろうさ。
自分自身の目で確かめておいで。
お前は誰から貰うのだろうね。
〈Fel!z〉


今年もこの季節がやってきたのね・・・。何度目かしら、この季節を迎えるのも。
不思議なことに、嫌悪感は無い。それどころか、胸の高鳴りを感じるの。
・・・ねぇ、何故かわかる?
〈泡沫美月〉


皆が桜を見上げて歩く中、一人だけ下を向いて歩く少女がいた。少女はここに、姉と桜を見に来るはずだった。しかし姉は病状が悪化し、来れなくなってしまったのだ。
「…あ」
少女は、励ますかのように輝く美しい石を見つけた。
下を向くのも悪いことばかりじゃないよ。誰かがそう囁いたようだった。
〈星奈〉


霞月七日。花見。
通訳に人々の行動を逐一尋ねる。
曰く「指切りげんまん」と言いつつ小指を桜の根に絡ませ、望みを念じる。良い願いならば樹の神が聞き届け、翌年に桜告石として結晶するという。石を誰かが大事に持ち帰れば願いが叶うとも。故に皆せっせと拾う。人が良い。
──旅商人モルの日記より
〈東洋 夏〉


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