紡がれる物語【アグテウス火山の紅蓮石】
火の神に祝福されたアグテウス火山の奥地からのみ採取できる炎を閉じ込めたような石。
火の神に愛された者のみが身につけることを許されるため、それ以外の者が着けるとたちまち内包された炎により身を焼かれてしまう。
この石を使った巫女選びの伝説を知っているかい?
舞台は火山の入口の村。高齢となった巫女の次代選び。
当時の巫女は神の名代。権力や利権を求めて多くの者が我が娘を送りだした。自ら手を挙げたのは村の孤児のみ。
方法は簡単。並べられた石の中から1つだけ混ぜられた紅蓮石を探し出すのだ。選んだ石はその場で巫女の手で割られ、中を検められる。次々と舞台を去る令嬢達。残すは孤児のみ。
高齢の巫女は微笑み、石を選んだ訳を訊いた。孤児曰く
『石が光って教えてくれた』
そう。選ぶのではなく選ばれるのだ
〈十尾の猫〉
あの石のこと?ええ、もちろん知っているわ。あの石には、無限の可能性があると思うの。だから、最近はあの石を使って実験をしたり、アクセサリーとして加工したりするの。
そういえば、朝起きてみたら、そのアクセサリーが床に落ちていたの。周りには、灰が散らばっていたわ。
〈泡沫美月〉
アナタの髪の色、まるで炎のような色デスねぇ。きっと火の神の加護がある…
ソレなら……これがいいでショウ。
かのアグテウスで採れた紅蓮石デス!
合わないと炎に巻かれて灰になってしまいマスがネ!ハハハ!
……………どうです、試してみませんか?
〈木間 菜つき〉
「物事には塩梅がありますな。紅蓮石の神さんには愛され過ぎてもいかん。ほれ」
話好きな車夫の指の先で、アグテウスの頂に火柱が立つ。天を掻きむしるように。
「あれは永遠に愛せる様にって炎に変えられた竜でさ」
情熱に囚われることを羨ましく思った私は、異端だろうか。
──旅商人モルの日記より
〈東洋 夏〉
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