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[28]神代のことば

降りそうな雲を見上げて
「降りたい」と
                祖母が使うは神代かみよのことば


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祖母が亡くなってずいぶん経つ。

母方の祖母に会うのは
月に一度程度だっただろうか。

隣町の祖父母が住む家に、
母が家で採れた野菜や
自家製の漬物を届けた。
大人たちはしばらく世間話をして、
私はそれをじっと待って、
時々かけられる言葉に少し返して、
そして帰った。

私と彼女が一緒に生活するようになるのは、
もう十数年あとのことだ。

祖父が先立って一人暮らしになり、
体調を崩しがちになった彼女を心配して、
社会人になっていた私が
しばらく同居することになった。

平日は彼女が食事を作り、
休日は一緒に近所のスーパーに買い物に行き、
私が食事を作った。

彼女は時々、珍しい調味料や食材を
ホイと買い物かごに入れた。
私も母も、定番の品しか買わなかった。
「たまには勉強になるから」
とクックッと鳩のようにいたずらっぽく笑った。
祖父と居るときはとても控えめに見えた。
私が思うよりずっと、
好奇心旺盛でお茶目な性格なのだと思った。

ある日、
重く暗い雲が垂れこめた空を見上げ、
「雨が降りたい」と彼女が言った。

今にも雨が降りそうなお天気の時、
そういうのだそうだ。
「なんだか知らんけんが、昔からそういうだよ」
と、またクックッと笑った。

自然と人との境があいまいで、
自然を尊重し親しみ、
植物と語り、
風の声を聴き、
雲の気持ちに共感する。

そんな神代のことばを、
彼女は使っていた。
同じ食卓を囲み、
同じ空を見上げていたが、
私と彼女の見ている世界はまるで違っていた。
私は彼女のことをほんの少ししか知らなかった。

今にも雨が降りそうな空を見ると思い出す。
現在の世の中のことを、
彼女なら何というのだろうと。
また、鳩のようにクックッと笑うだろうか。

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