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[17]許し許される

今なんて言ったの?
      って目で問う
稲光
 身を固くして雷鳴を待つ

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子どもの頃、犬を飼っていた。
近所の家からもらった雑種だ。
彼の散歩と餌やりは私の仕事だった。

夕方、散歩の時間が近づくと、
彼はソワソワして歩きまわり、
人が通りかかると、
時には首輪が首に食い込みそうなほど
飛び出して、過剰に反応した。
それが面白くて、
用事もないのにわざと立ち上がったりして、
いたずらをしたものだ。

散歩ひもを持って近づく時の
彼の興奮は凄まじい。
飛び跳ねまわり、
鎖が切れるのではないかと思うほどだ。

首輪に散歩ひもをつなぎ鎖を解くと、
私はひもごと腕をグンッと引っ張られ、
バランスを崩しそうになる。
彼は前のめりになりながら、
呼吸も荒く私を引っ張る。

全くもってどちらが主人なのかわからない。

一通りいつものコースを周り終えると、
原っぱに行った。
誰もいないのを確認して散歩ひもを外した。
散歩ひもがあるせいで、
彼が不自然に捻った姿勢で歩く姿を見るのが、
私はなんだかつらかった。

しかし、
はしゃぎ過ぎた彼が
興奮で唸りながらおもちゃを離さない時、
私は叱らねばならない。

「コラッ」と威嚇するように声をあげ、
彼に示すように大きく手を振り上げると、
あんなに荒々しく興奮していた彼が、
頭を下げ、耳を倒し、目をつぶって、
どうぞぶってください、
というような姿勢で身構える。

その姿に、少し緊張が緩んでしまう。

ありありと想像できるその痛みを
甘んじて受けようとする、
いや、
内心すでに受けている健気さが、
かわいくもあり、
切なくもあり、
哀れでもあり、
愛しい。

そして私の手は空を切ることになる。

逃げればいいのに、逃げられるのに。
散歩ひもはつながっていないのに。


そして今、
私はオフィスにいる。
そう、
その痛みも苦痛もありありと想像でき、
そして、
逃げようと思えば逃げられるのに。
散歩ひもはつながっていないのに。


あぁそうか、
彼は私を許していたのだ。
私は許されていたのだ。

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