『ピストルと少年』ジャック・ドワイヨン~姉弟と刑事3人の車の旅~

刑事をピストルで脅しながら、生き別れた姉に会いに行き、再会した姉と弟、そして刑事の3人のロードムービー的な物語。離婚した母はアルコール依存症。そんな母と二人暮らしをしている少年ジェラール・トマサンは、義父が家に残していったピストルを手にする。そのあたりのピストル入手経緯については、何も描かれていない。とにかく、孤独な少年はご都合主義的にピストルを持って、ドラッグストアを襲い、現金を強奪する。そんなとき、知り合いの刑事(リシャール・アンコニナ)と偶然出会い、学校へ行っていないことを不審がられ、持ち物を出せと言われる。少年は突然ピストルで刑事を脅し、刑事の車で近郊に住む姉に会いに行くことにする。「姉は死んだ」と母から聞かされていた少年だったが、姉からの電話があったことで、姉(クロチルド・クロ)の存在を知ったのだった。

姉と弟、そして刑事の3人が、車の中でピストルを突きつけたり、突きつけられたりしているうちに、いろいろと関係が変化していくところが面白い。
刑事と少年vs姉、刑事と姉vs少年、姉と弟vs刑事といったように、二人が一緒になって、もう一人のことを話し、対峙する。最初は突然会いに来た弟に「帰れ」と冷たい姉だったが、次第に弟への情が出てきて、刑事に「弟の罪を軽くして」と頼むようになる。刑事のピストルを奪って、姉もまた刑事を脅したりもする。脅されていた刑事も、すぐに少年を警察に突き出すことはせずに、少年の旅につき合うことにする。姉と会ったら、戻って署に出頭することを少年と約束する。しかし、最後で少年は刑事を裏切り、逃げ出すのだった。弟に付いてきた姉は刑事の家に泊まり、弟を説得して刑事のところに連れてきたりする。少年は、姉と同じ父親のファミリーネームを名乗りたいと、翌朝学校に行くが、学校からは冷たく拒否される。

孤独で幼い少年の肉親や家族への愛のような渇望と、ピストルで脅迫する暴力という不釣り合いなものが同居する。その不安定で幼い感じを演じる少年ジェラール・トマサンがいい。はねっかえり娘ながら孤独な弟を守ろうとする姉を演じるクロチルド・クロも初々しい。刑事も犯人を逮捕することよりも、少年に心を寄せる人間味を示すリシャール・アンコニナもいい。ほぼ3人だけしか出てこない車での旅が飽きずに見ていられる。


1990年製作/100分/フランス
原題または英題:Le Petit criminel
配給:シネセゾン

監督・脚本:ジャック・ドワイヨン
製作:アラン・サルド
撮影:ウィリアム・ルプチャンスキー
音楽:フィリップ・サルド
編集:カトリーヌ・クズマン
キャスト:リシャール・アンコニナ、ジェラール・トマサン、クロチルド・クロ

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