映画『エルヴィス』トム・ハンクスの存在感とオースティン・バトラーの憑依

King of Rock'n'Roll、伝説のロックスターの伝記映画。白人のカントリー音楽と黒人のR&Bとゴスペルを融合させた白人のロックスター。アメリカ南部生まれのエルヴィス少年が、黒人たちのたまり場でR&Bの音楽をのぞき見し、宗教の集会に忍び込み、圧倒的なゴスペルの洗礼を受けるシーンにワクワクする。そして、初めてステージに立った時のロックンロールの熱狂。踊る腰つき、客席の女性たちが歓喜の表情へと変化する様子。やや大げさな演出ではあったが、エルヴィスのロックンロールが生まれた瞬間を特徴的に描いている。

映画は、トム・ハンクス演じるパーカー大佐とエイルヴィスとの確執を中心に描かれる。パーカー大佐はエイルヴィスを殺したのか?生み出したのか?見世物小屋の興行師としてのパーカー大佐の才覚と野望。その枠組みを超えて、世界に大きく羽ばたいていこうとするエルヴィス。いつしか二人の方向性が食い違っていく。 ラスベガスのギャンブルにエルヴィスで稼いだ金をつぎ込むパーカー大佐。オランダからの不法移民だったからなのか、パーカー大佐はエルヴィスの世界ツアーを認めなかった。エルヴィスを牛耳るトム・ハンクスの存在感がこの映画を支えている。

兵役後に映画出演が増え、過去のロックスターになりつつあったエルヴィスが、1968年のテレビ番組で、パーカー大佐のファミリー向けクリスマス番組演出の思惑を裏切り、プロテストソング 「明日への願い」を歌う場面もこの映画の見せ場だ。キング牧師の暗殺や ロバート・ケネディ上院議員が凶弾に倒れた時代の混迷のアメリカ。反骨精神のロックンローラーであったエルヴィス・プレスリーが復活する。

エルヴィスの母親への思いや突然の死、妻のプリシラへの執着。バズ・ラーマンの演出はエンタメ性抜群の派手さとノリの良さの一方で、パーカー大佐に牛耳られていたエルヴィスの孤独と哀しみも描いていた。スターの圧倒的な才能の光と影。言うまでもなくエルヴィス・プレスリーを見事に体現したオースティン・バトラーの迫真の演技は見ものだ。


2022年製作/159分/G/アメリカ
原題:Elvis
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:バズ・ラーマン
製作:バズ・ラーマン、キャサリン・マーティン
原案:バズ・ラーマン、ジェレミー・ドネル
脚本:バズ・ラーマン、サム・ブロメル、クレイグ・ピアース
撮影:マンディ・ウォーカー
美術:キャサリン・マーティン、カレン・マーフィ
衣装:キャサリン・マーティン
編集:マット・ビラ、ジョナサン・レドモンド
音楽:エリオット・ウィーラー
音楽監修:アントン・モンステッド
キャスト:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、ヘレン・トムソン、リチャード・ロクスバーグ、オリビア・デヨング、ヨラ、ションカ・デュクレ、リトル・リチャード、ケルビン・ハリソン・Jr.、ゲイリー・クラーク・Jr.、デビッド・ウェンハム、ルーク・ブレイシー、デイカー・モンゴメリー、ナターシャ・バセット、ゼイビア・サミュエル、コディ・スミット=マクフィー、レオン・フォード、ケイト・マルバニー、ガレス・デイビス、チャールズ・グラウンズ、ジョシュ・マクコンビル、アダム・ダン

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