『不死身の保安官』ラオール・ウォルシュのユニークな西部劇

ユニークな西部劇である。先住民族をここまで白人の味方に付ける映画も珍しい。しかも敵対勢力のガンマンたちを銃撃戦ではなく、話し合いで和解させる保安官の話なのだ。ジェイコブ・ヘイの短篇小説『フラクチュアード・ジョウの保安官』をアーサー・デイルスが脚色、ラオール・ウォルシュが監督した。西部劇の巨匠と言われるラオール・ウォルシュ作品を私はあまり観ておらず、正月にBSーNHKでやっていたので観た。

冒頭はイギリスの緑に囲まれたお屋敷の場面から入る。伯父の銃器販売を手伝っていたティブス(ケネス・モア)は、機関車のような自動で動く馬車の発明に夢中になっており、仕事に熱心ではない。しかし、その発明が失敗に終わり、銃を売るためには争いの絶えない需要の多いアメリカ西部に行って売るのが一番と考える。そしてアメリカ西部へと単身向かう。ここからやっと西部劇になる。ロンドンからやって来た紳士のティブスは、西部では場違いな感じ。現地の事情を何も知らないからこその行動を次々と起こす。旅の途中、馬車を襲ってきた先住民族の酋長に武器も持たずに交渉し、いきなり襲うことの理不尽さを説き、その場から退散させてしまう。その噂が評判となって町にやってきたティブスは、争っていた二つの勢力から、それぞれ相手の勢力が雇った早撃ちのガンマンだと誤解される。町長は、不在だった保安官にティブスを任命する。町に立ち入るときは銃を持ち込まないという法律を守らせようとするのだ。

町でホテルを経営するケイト(ジェーン・マンスフィールド)は気の強いグラマラスな美女で、酒場で歌って踊ったりしている町の人気者。最初はティブスを馬鹿にしていたケイトだったが、あっさりティブスと恋仲になり、一緒にどこでも連れてってと誘うのだが、銃を売るためにここまでやって来たのだとディブスはその誘いを断る。しかし、銃を売りに行って先住民族に捕らえられ、危うく殺されそうになるが、勇気ある男と酋長に認められ、ディブスは先住民族と親族関係のように親しくなる。そして彼らに毛皮と交換する形で銃を売ってしまうのだ。町に戻ってそのことを町の人びとに非難され、さらに敵対する2つの勢力も町にやってくるため、町は戦場になると慌てて逃げ出す町の人びと。その争いもまた単身で止めに行くティブス。銃扱いや乗馬のうまい男勝りのケイトは、ティブスを助けに追ってくる。

保安官を殺すために、2つの敵対勢力が一時的に協力して迫ってくるのだが、そこへ先住民族たちがティブス保安官を助けにやって来て、ガンマンたちを武装解除。2つの敵対勢力を牢屋に入れて和解させ、ティブスとケイトは、先住民族の親代わりの酋長の立ち会いの下で結婚式を挙げるというハッピーエンドだ。

西部劇らしいガンマン同士の抗争ではなく、何も知らないロンドンから来たよそ者が話し合いによって抗争を解決させてしまうというお目出度い話だ。そこには知恵と胆力が事態を解決させるという希望が描かれている。勝ち気なジェーン・マンスフィールドの振る舞いと歌が魅力的だ。紅茶と酒、法治国家と野蛮な暴力主義、英国とアメリカ西部の価値観の違いが描かれているのも面白い。川辺のデートシーンで、なぜかスクリーン・プロセスによる特撮合成が突然挿入されるのが残念な感じ。


1958年製作/アメリカ
原題:The Sheriff of Fractured Jaw
配給:20世紀フォックス

監督:ラオール・ウォルシュ
脚色:アーサー・デイルス
原作:ジェイコブ・ヘイ
製作:ダニエル・M・エンジェル
撮影:オットー・ヘラー
美術:Bermard Robinson
編集:ジョン・シャーリー
キャスト:ケネス・モア、ジェーン・マンスフィールド、ヘンリー・ハル、ウィリアム・キャンベル、ブルース・キャボット、ロバート・モーレイ、ロナルド・スクワイア、デビッド・ホーン

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