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『メメント』~時間を自在に編集するクリストファー・ノーランは、人間の曖昧さを描く~

画像(C)2000 I REMEMBER PRODUCTIONS,LLC

クリストファー・ノーランの1998年のデビュー作『フォロウィング』とほとんど同じ構造。時間を未来から過去に遡って戻りながら、物語のネタばらしをしていく構造が同じで、今回は主人公を記憶障害のある男の設定としている。10分間しか記憶を保てない男ガイ・ピアースは、今自分がなぜここにいるのか、何をしようとしているのか、分からなくなる。だから身体にタトゥーとしてメモを刻む。そして妻を殺した犯人を追いかけるサスペンス仕立てだ。ポラロイドカメラで写真を撮ってメモをする。ホテルの場所、人の顔。そのメモを見ながら、相手の名前を確認し、メモの意味を考えながら行動する。

小川洋子の小説で『博士の愛した数式』というのがあり映画化もされたが、あの数学者は80分しか記憶が持たないということで、自分の服や部屋のあちこちにメモを貼り付けていた。10分しか記憶が持たないとなると、ほとんど人格が崩壊するしかないと思うのだが、この男はそんな状態で必死に妻殺しの犯人を追いかける。

保険調査員として働き、記憶障害と言われている男が保険金詐欺かどうかを調べる過去のモノクロ映像が何度も挿入され、カラー映像では、突然始まるエピソードの断片が何度も時間を遡りながら繰り返される。そして今起きていることのちょっと前の出来事が少しずつ明らかになり、辻褄が分かってくる仕掛けだ。観客は男と同じように混乱しながら、繰り返される映像を見つめ、その意味を少しずつ理解していくことになる。時制を自在に操って、混乱させつつ、サスペンスの謎を解いていく仕掛けにクリストファー・ノーランは魅せられたのだろう。誰にでも、今自分は何をやっているのか?と混乱してしまうことはある。なんのために、こんなことをしているのか?自問自答する。記憶は失わないまでも、人はしばしば混乱し、自分が分からなくなる。

この男は自分が妻を死に追いやったことの罪から逃れるために、記憶を改ざんしている。男のまわりの人物たちは、記憶障害の男を利用しようと騙そうとする。犯人捜しに協力する女も、刑事も、みんな男に嘘をつく。主人公が精神的な障害があるので、主人公の心理とともに映画を見続ける観客は、何が本当なのかさえよく分からなくなる。人を信じて書いたメモを真実だと考えるか、メモを疑い、自分の偽りの記憶を信じるのか。記憶は自分の都合のいいように改ざんしているのは普通の人間でも同じだ。そんな曖昧な記憶の積み重ねで、自分というものは形づくられる。時間を編集することで観客を操るのが好きなクリスファー・ノーランは、物語の意味を知りたいという人間の習性を利用しつつ、人間そのものの不確かさや曖昧さを描き続けているのかもしれない。


2000年製作/113分/アメリカ
原題:Memento
配給:アミューズピクチャーズ

監督・脚本:クリストファー・ノーラン
製作:ジェニファー・トッド、スザンヌ・トッド
製作総指揮:クリス・J・ボール、アーロン・ライダー、ウィリアム・タイラー
原案:ジョナサン・ノーラン
撮影:ウォーリー・フィスター
編集:ドディ・ドーン
音楽:デビッド・ジュリアン
キャスト:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス、ジョー・パントリアーノ、マーク・ブーン・ジュニア、ジョージャ・フォックス、スティーブン・トボロウスキー、ハリエット・サンソム・ハリス、ラリー・ホールデン

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