「脱・採用サービス」戦略で、働く人のインフラとなったWantedly 〜勝手に!PR分析 vol.3〜
PRと事業の関係性を紐解くため、成長企業のPR戦略を考察するnote「勝手に全プレスリリース分析」第3回の研究企業はWantedlyです。
転職活動の情報収集やエントリーができるビジネスSNS「Wantedly Visit」。転職活動やオフィス訪問などでお世話になった人も多いのではないでしょうか?
「まずは話を聞いてみたい」と気軽にエントリーができるのが特長で、転職活動のみならず、人脈構築や情報収集に広く活用されています。
運営するのは、「シゴトでココロオドルひとをふやす」をミッションに掲げるウォンテッドリー株式会社。働く全ての人が共感を感じて、であい、つながりを深めるために事業を拡大しています。では、ウォンテッドリーはいかにして個人ユーザーや企業にメッセージを届け、関係性を築いていったのでしょうか?
考察するのは、70seeds(セブンティー シーズ)のPRプランナー・吉田です。
「まずは話を聞いてみたい」手軽に企業へのコンタクトができるWantedly
Wantedly Visitは、はたらくすべての人が共感を通じて「であい」「つながり」「つながりを深める」ためのビジネスSNS。仕事上の知人と交流を深めるのはもちろん、転職時の企業探しやエントリーなどにも活用することができます。企業も求人の募集を掲載したり、Wantedly上でブログを更新したりしています。ユーザーは、気になる企業を見つけたら、「まずは話を聞いてみたい」などの応募ボタンからエントリー。気軽に企業にコンタクトできるのが特長です。
Wantedlyコーポレートサイトより
2012年2月のサービス公式リリースから現在まで、登録会社数35,000社、個人ユーザー数220万人を突破しています(2020年4月現在)。
さらにウォンテッドリーは、名刺管理サービス「Wantedly People」を提供しています。スマートフォンのカメラで名刺をスキャンするだけで、瞬時にデータ化。最大10枚まで同時に読み込むことが可能です。スキャンと同時に、相手に関係するニュースなども表示。相手とのつながりを深めるためのサポートをします。
Wantedlyコーポレートサイトより
このnoteでは、2011年から2019年に至るまでのプレスリリースと記事掲載をもとに、WantedlyのPR戦略を分析・考察していきます。
代表のキャリア・言葉をアセットに露出を拡大――事業草創期
Wantedly(現在のWantedly Visit)がローンチしたのは、2012年の1月。BRIDGEの記事によると、当初、プロジェクトの仲間を集めるためのプラットフォームとして立ち上がりました。そこからソーシャルリクルートプラットフォームへピボットしていきました。
グラフ1:プレスリリースと掲載件数をまとめたグラフ。「働き方改革」文脈が盛んにいわれていた2017年の掲載件数が突出して多い
この時期の露出傾向としては仲暁子代表の人物インタビューが中心となっています。まだビジネス上の実績や業界内で存在感のある人材といったPRアセットを多く持たないスタートアップにとって、もっとも活用しやすい素材が代表の人物や思想です。ビジネスモデルのポイントや社会的意義をもっとも解像度高く語れるだけではなく、組織が目指す方向性を内外に伝えることでの組織強化の効果も期待できます。
リクナビNEXT『Tech 総研』「ギークエンジニアたちの哲学 vol.2 - 仕事で不幸な人をなくしたい―ウォンテッド仲暁子」
キャリアハック「Wantedly 仲暁子に学ぶ、『かっこよく生きる』ための仕事論。」
リクナビNEXT「何が違う?『起業できる人・できない人』の深くて小さな差」
特にこれらの人物インタビューに見られるように、取材のフックとなった仲氏の華やかなキャリア(ゴールドマン・サックス、facebookを経て、26歳でWantedlyを立ち上げ)は、この時期多くの媒体が取り上げています。
翌2013年には、ビジネス系媒体での寄稿連載が増えます。アセットが限られているなかで、リソースをかける代わりに自社のメッセージを戦略的に発信しやすい寄稿を通じた「専門家」としてのポジション構築も、人物PRの王道手法のひとつです。
東洋経済オンライン「目指せ日本のグーグル?"グノシー"の秘密」
ITmediaマーケティング「【連載】シゴトでココロオドル人をふやす」
これらの活動により信頼感を増すことで、ユーザー(個人/企業)の数が増えてくると、その実績を元に、「新しいカタチの採用サイト」としてビジネスモデル自体がメディアの注目対象になっていきます。
MarkeZineの記事では、pixiv、はてななどのWebサービス企業が利用していることをフックにコンセプトの独自性や起業メンバーの経歴に及ぶ取材がなされており、仲氏の人物という枠を超えて、一企業としてのWantedlyが注目されていくプロセスを見ることができます。
サービス名・ロゴ変更で「脱・採用サービス」PRを強化――事業成長期①
ビジネスが成長を遂げていく中で、PR活動はより企業としての信頼性を高めるトピック・切り口が中心になっていきます。2015年6月には日本経済新聞社と資本業務提携。採用支援事業やイベントでも業務提携を進めていきます。
さらに2016年には、新サービスや新機能を立て続けにローンチしました。メッセンジャーアプリの「Sync(シンク)」や、クラウドサービスなどの生産性向上ツールの口コミサイト「WantedlyTools」、名刺管理サービス「Wantedly People」が生まれました。掲げていた「働くすべての人のインフラ」というメッセージに向けて、ビジネスパーソンを対象としたサービスを拡充していきます。シナジーの効く形で多角化を図ることで、ビジネスSNS事業の強化や、リスク分散を狙ったと考えられます。
なお、「Sync(現・Wantedly Chat)」は2020年4月末にサービス提供を終了。現在はビジネスSNS「Wantedly Visit」と名刺管理サービス「Wantedly People」が柱のサービスとなっています。
2016年11月には、Wantedlyサービスのリブランディングを実施。以下の通り、各サービスの名称、ロゴ、アイコンを一新しました。
・会社訪問サービス「Wantedly Visit」(旧:Wantedly iOS/Androidアプリ)
・ビジネスチャット「Wantedly Chat」(旧:Sync)
・名刺管理サービス「Wantedly People」(新アプリ)
プレスリリースより
かねてより「採用サービス」という見え方を避けてきたウォンテッドリー。企業訪問サービスやチャットサービスなど様々なサービスの拡充を進めてきた事業戦略を背景に、「Wantedly」というブランドの統一を通じて「シゴト交流」というコンセプトの浸透を強化していきます。
「働き方改革」時流に乗って、さらなる成長へ――事業成長期②
2017年に目立つのが、「働き方改革」文脈での記事掲載です。
週刊東洋経済「100年時代の働き方を語ろう」
日本経済新聞「プログラミングと英語を」
ツールとしてのWantedly Visitもフューチャーされます。日本経済新聞の、「ミレニアル世代の働き方」をテーマとした記事では、「ミレニアル世代の働き方/価値観の変化」を象徴するツールとしてWantedly Visitが登場しています。
背景には、「働き方改革」という時流があります。2016年、安倍首相が自ら議長を務める「働き方改革実現会議」を発足させたことをきっかけに、「長時間労働の是正」「労働生産性の向上」などについて議論が進められました。2018年6月には「働き方改革関連法」が成立。2017年の新語・流行語大賞にも「働き方改革」がノミネートされました。
「働き方改革」という時流のなかで、Wantedly Visitを提供するウォンテッドリー代表の仲氏が、「働き方の専門家」として語る形となったのが、上記のインタビューでした。
さらに、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』が2016年11月の日本語版刊行以来ベストセラーに。「働き方」への関心は高まっていきます。実際、仲氏も『LIFE SHIFT』著者のリンダ・グラットン教授と対談し、「日本の働き方」に対する意識を変えるポイントを議論しています。
表1のグラフを見ても、2017年の掲載件数が64件と、他の年と比較しても突出して多いのが確認できます。「新しい働き方」を象徴するプロダクト・企業として、「働き方改革」の時流を上手く活用したといえるでしょう。
ガバメント・リレーションズで信頼感を醸成――上場後のPR
ウォンテッドリーは、2017年8月に上場を果たします。上場タイミングで多く見られたのが、仲氏のキャリアを中心にサービスに触れるインタビューです。大手経済メディアで仲氏のキャリアを中心に露出することで、投資家の信頼感醸成を狙ったと考えられます。
日本経済新聞「ウォンテッドリー初値つかず 女性トップのフェイスブック流経営」
日経ビジネス「上場ウォンテッドリー、32歳社長の異色キャリア」
上場後の2017年、島根県、横浜信用金庫など地方自治体・企業や、富士ゼロックスなど大企業、立教大学など教育機関と提携を加速しました。企業とは、取引先企業20〜30 代の若手層とのマッチングを支援するアプローチ、教育機関とは、インターンシップを希望する学生と企業とのマッチングを支援するアプローチが具体的な取り組みとして多く見られます。
特に、自治体との協業は、Wantedlyと同じように2010年代初めに創業したスタートアップが多く実施している施策です。例えば、2012年に創業したfreeeは、鳥取県智頭町において、柔軟な働き方をしたい農林業従事者・主婦層の「スキマワーク」を実現するプロジェクトを開始。また、2017年にはCAMPFIREが高知県らと協定を締結。地域で挑戦する人へのクラウドファンディングのサポートなどを実施するという内容でした。自治体と協業することでのブランディングの一例といえます。
自治体と協業することで公的な信頼感を醸成するとともに、地方の人材不足にアプローチする企業としての社会的意義に訴求するブランディングへの意識が見られます。さらに、「働き方」という文脈は社会的関心ごとでもあり、提携もしやすかったことが想定されます。
2018年になると、他社との協業も加速します。日本郵便と連携し、アプリから無料で年賀状が送れる『Wantedly年賀状』をリリースしたのです。
『Wantedly年賀状』は、「Wantedly People」に登録した名刺交換相手に対して、年賀状を無料で作成/郵送できるサービスです。
プレスリリースより
日本郵便という大企業とスタートアップとの協業という座組みや、サービスの独自性が注目をあつめ、日経クロストレンドや日本経済新聞などのビジネス系媒体や、日本テレビ「ヒルナンデス!」テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などテレビ番組などで取り上げられました。「季節文脈」を上手く活用したPR施策といえるでしょう。
さらに2019年9月には、音楽アーティストや専門家とともに超集中状態へ導く作業用BGMを開発し、イベントを実施。TBSテレビ「はやドキ!」やTOKYO MX「モーニングCROSS」などで取り上げられ、こちらも注目を集めました。
プレスリリースより
ここまで見てきた、ウォンテッドリーのPR戦略をまとめます。
事業草創期には、サービスの独自性や、仲氏のキャリアをフックに露出を増やし、さらに事業成長期には「シゴト交流」というメッセージを軸にサービスを拡大。「働き方改革」の時流も後押しをしました。
上場後には、企業や自治体との提携を増やすことで信頼感を醸成するとともに、「画づくり」ができる施策を展開。テレビなどの露出も拡大しました。
また、ここで興味深いのは、初期の「若き起業家」という露出から、事業成長期には「働き方の専門家」として変化が起きていることです。寄稿で実績を積んだことや、プロダクトの成長によって、専門家としての立場を作り上げたといえるでしょう。
2020年4月からテレビCMの放映を開始し、Wantedlyのさらなるユーザー拡大が期待されます。
折しも、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大を受け、リモートワークやオンラインミーティングなど、「働き方」は岐路に立たされています。
こうしたなかでウォンテッドリーは、はたらく全ての人へ向けたスローガン「これから、シゴトとどう生きる? #シゴトの未来 」を発表したり、仕事相手と直接会うことが難しい現状においても、オンライン上でつながりを深められるように「Wantedly People」のプロフィール機能をアップデートしたりするなど、「オンライン時代の働き方」に向けて施策を打っています。時流に合わせ、働き手が欲している情報を提供する。しなやかなPR戦略が彼らの特徴といえるかもしれません。
これから、働く環境は激変していくことが予想されます。しかし、環境が変わっていっても、ウォンテッドリーは、「シゴトでココロオドルひとをふやす」ために時代ごとに求められる情報を提供し、しなやかにPR戦略を展開していくことでしょう。
■参考資料
ウォンテッドリー株式会社「2020年8月期Q1 決算説明」
https://corporate-site-wantedly.s3.amazonaws.com/uploads/ir_entry/pdf/521/2020%E5%B9%B48%E6%9C%88%E6%9C%9FQ1%E6%B1%BA%E7%AE%97%E8%AA%AC%E6%98%8E%E8%B3%87%E6%96%99.pdf
ウォンテッドリー株式会社「2019年8月期 有価証券報告書」
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3991/yuho_pdf/S100HHSB/00.pdf
ウォンテッドリー株式会社「オフィシャルサイト」
https://wantedlyinc.com/ja
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