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令和・イヤホン・スパイラル Pt.3

    ショックを受けてばかりもいられない。カスタムIEMでの失敗を受け、自分はまたTWSへの回帰を模索していた。そこで次の一手として、SHUREのAONIC 215 SE215SPE-TW1-Aを見つけた。これはSHURE独自の外装バッテリーユニットに、MMCX端子でイヤホンが着いている製品だ。普通のTWSは耳に収まるサイズの筐体にバッテリーを内蔵していることから、どうしても装着感がネックになりがちである。それはTE-01dで自分が実際に体験したことだ。しかしこの製品はバッテリーユニットが分離されており、イヤホンの筐体にバッテリーは積まれていない。こういった製品が存在することは知っていたが、SHUREからもリリースされていることは知らなかった。またSHUREのSE215SPE-Aといえば、昔から人気を博している定番中の定番機種だ。装着感も折り紙付きで、おまけにイヤーフックまでついているのだから、TE-D01dで問題となったフィッティングの問題もオールクリアされると考えた。即決にて購入後しばらく部屋で聴いてみると、有線接続には劣るもののそれなりの音を楽しむことが出来た。やっと”スパイラル”から抜け出せる……そう思っていた。

    しかし翌日、早くもこのTWSは戦力外となってしまった。TWSはその特性上、音質・装着感などの他に「通信性能」を加味しなければならない。せっかく音が良くても、音切れが頻繁に起きるようでは使い物にならないのだ。更に厄介なことに、これは店頭試聴時や屋内でのリスニングでは測れない。実際に屋外で使ってみて初めて実力が分かるのである。もちろん購入前にレビューはある程度読み込んでいたが、それ以上にSHUREブランドに信頼を置いていた。TWSが隆盛を誇っている今日日、大手メーカーが満を持して投入した機種の通信性能が低いということはないと思っていたのだ。TE-01dも地下鉄の駅などでは音の途切れが激しくろくに音楽を楽しめなかったが、そういった場所以外での通信は良好だった。しかしAONIC 215 SE215SPE-TW1-Aは、何でもない場所でも音の途切れが気になったのだ。もしかしたら偶々その日の環境が悪かったのかもしれない。しかし屋外用のイヤホンとしてそれは致命的で、またしても自分は悲しい決断を下すこととなった。

    改めてTWSの難しさを思い知った自分は、再び有線イヤホンへの回帰を模索した。手元には、筐体のみのSE215SPE-Aがある。元々これが付いてくることも、AONIC 215 SE215SPE-TW1-Aに期待していた効用の一つだ。MMCX端子のケーブルを接続すれば、有線イヤホンとして使うことが出来る。イヤホンのマニアであれば余らせているケーブルの1本や2本はあるだろうが、生憎自分はZIRCO NEROの謎ケーブルくらいしか持っていなかった。したがって、新しくケーブルを調達することになる。自分でも少し意外なことに、ケーブルを単体で購入するのは初めてのことだった。ケーブルもまた、イヤホンやヘッドホンと同じくピンキリの世界である。所謂リケーブルをしたことがない自分にとっては、それがどの程度音に影響するのかも分からなかった。当然、まずは安くて評価の高い物から選ぶことになる。そこで購入したのがAstrotec AT-C01だ。調べたところ、イヤホンなどのケーブルはOFC(無酸素銅)線が主流で、その芯数や純度、施すメッキの材質などが音に影響するようだった。この製品はOFC線に銀メッキを施したものだ。初めてのリケーブルに少し心を踊らせたものの、結果は芳しくなかった。銀メッキは一般的に高音を強調する傾向にあるらしく、自分の最も苦手とする音、つまりオンキヨーのカスタムIEMが鳴らした音になってしまった。とても聴いていられる音ではなく、他のケーブルを探すことになる。

    ケーブルがどれだけ音に影響するかを実体験した自分は、店頭での試聴を敢行することにした。目星をつけたのは、オーディオアクセサリーで有名なブランドらしいNOBUNAGA Labsが展開する3本のケーブルだ。価格はどれも5,000円台でほとんど価格差はないが、それぞれメッキ処理が異なっている。内訳は、銅(メッキ無し)、錫メッキ、銀メッキだ。事前に仕入れたレビューの印象では銅と銀の良いとこ取りのような錫メッキのモデルが気になっていたが、試聴してみるとまるで違う印象を受けた。錫メッキのモデルは銀メッキのものよりきつい音が鳴り、逆に銀メッキのモデルは塩梅の良い味付けになっている。前述のAT-C01も銀メッキだったが、モデルによってここまで違いが出るのか、と改めてケーブルというファクターの重要性と奥深さを認識した。ケーブルの試聴は初めてだったが、銅のモデルと銀メッキのモデルをSE215SPE-Aの筐体に取っ替え引っ替え差し込み1時間は唸っただろう。閉店時間が近づいた頃、パッケージを手にとったのは銅のモデル・ほのかだった。SE215SPE-Aの個性である低音を活かせるのはそちらだと思ったのだ。しかしどっちを選んでいても後悔はしないだろう、と帰り道の足取りは実に軽やかだった。

    しかしまたしても問題が発生した。それも2つだ。第一に音質。店頭での試聴時と実際に家で聴いた時の印象が違うことはよくあること、という話は以前のパートでも書いた通りだ。こればかりはいくら試聴をしようがレビューを漁ろうがどうしようもない。今回は、店頭では瑞々しく聴こえていた音が乾いたように聴こえ、ボーカルのサ行やタ行が頭打ちになるような響きを感じた。第二にコネクタの接触。元々SHURE製イヤホンのMMCXコネクタは他社製ケーブルのコネクタと相性が悪いという話は知っていた。それを解消するためのワッシャーがSHUREから販売されているくらいで、念のためそれも併せて購入していた。しかしその甲斐なく、コネクタやプラグのシェルに力を加えるだけで音が歪んでしまう現象が起きてしまったのだ。とはいえそれだけならまだ実用に適ったが、最終的にSE215SPE-Aの筐体からケーブルのコネクタが脱落してしまうようになってしまった。ケーブルが悪いわけでも、イヤホンが悪いわけでもないのだろう。きっと他の何も悪くはない。悪いのは、自分自身の選択だ。

つづく。

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