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「カエルの天気予報」 辻下直美創作童話

 おそろいの春風色のワンピースを着込んだうさぎの親子は大変に急いでいました。今日は大切な小学校への入学式だというのに、目覚ましを頼んでいたにわとりが寝坊をしてしまったのです。今日のために新しく仕立てたワンピースも、遅刻してしまったら台無しです。

 野原をこえると、大きな蓮の葉で埋め尽くされている池があります。その真ん中に架かった橋を渡れば、学校がある森まであと一息です。

 ところが、池の橋を渡ろうとしたとき、うさぎの親子はカエルに呼び止められました。

 「ステキなワンピースだねぇ」

 カエルはのんびりとうさぎに話しかけてきます。ずいぶんと年を重ねたおばあちゃんカエルでした。

「どうもありがとう」

 子うさぎは丁寧にお礼を言いました。

 「そんなに急いでどこに行くんだい?」

 「今日は入学式なの」

 お母さんうさぎはそわそわしながら、

「急いでるんで、失礼します」

 と、子うさぎの手をひっぱりました。今は年老いたカエルとゆっくり話している時間はないのです。

 「そうかい、そうなら蓮の葉っぱを一枚持ってお行き。」

 蓮の葉っぱは雨が降ったときに大変役に立ちます。でも、今日は雲ひとつない青空で、雨など降りそうにもありません。おまけに大きな蓮の葉っぱは大荷物になってしまいます。

 「すいません、蓮の葉っぱは結構です」

 母うさぎは断りましたが、

 「いや、これを持っていかないなら橋は通せないね。年寄りのいうことはきくもんだよ。」

 と年寄りカエルは頑固です。

 「ママー、雨が降るかもしれないよ」

 子うさぎは蓮の葉っぱを受け取ろうとしました。母うさぎは雨など降るはずないとは思いましたが、橋を通れなければ池のほとりをぐるっと回らなければならないので、それは大変だという事も考えました。

 「では、ご好意に甘えて」

 とひときわ大きな蓮の葉っぱを受け取ることになってしまいました。

 年寄りカエルは

 「ステキな入学式をね」

 と、満足気に送り出してくれました。


 橋を渡り終えて、道を横切ろうとしたとき、母うさぎはぽたっぽたっと何かが目の前に落ちていることに気づきました。

 「ママ、雨降ってきたね」

 いえ、それは雨ではありませんでした。空から落ちてくるものの正体は、なんと電信柱の上にひしめき合って留まっている鳥たちの糞だったのです。

 母うさぎはようやく、年寄りカエルが蓮の葉っぱを持たせてくれた意味がわかりました。

 「蓮の葉っぱを広げましょうね」

 うさぎの親子はひときわ大きな蓮の葉っぱを頭の上に広げて、その道を難なく通る事ができたのでした。もちろん春風色のワンピースは汚れませんでした。


 こうして、うさぎの親子は無事に入学式にお揃いのワンピースで出席する事ができました。


               おしまい

-------(C)703studio_20220710--------

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