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担当書籍が売れる瞬間を見たい 2020.02.22

隣の客のコップが割れた
 
カフェでお茶をしていたら、隣の席の男性がコップを割ってしまった。
 軽食と飲み物が乗ったトレーを机に置こうとして失敗したらしい。コップは派手に割れ、ジュースも全部床にこぼれた。

 こういうことがあると大学時代のバイトを思い出す。
 私のバイト先でも月に何回かはお客さんが飲み物をこぼしていた。
 そんなとき店員である我々はすっ飛んでいって、まずお客さんの服や荷物の安否を確認。次に席の移動をお願いし、お客さんが移動したらひとりは掃除をはじめ、もうひとりは新しい飲み物をサービスした。

 たいていのお客さんは「お金を払います!」と言ってくれる。コップを割って、片付けさせて、飲み物までもらうなんて……! と。

 でも、飲み物の値段なんてたかが知れている。1杯400円のコーヒーはコーヒーという液体が400円するのではなくて、それを作るスタッフの人件費やお店の家賃なんかが乗っかった値段だから、中身を入れ直したところで大きな痛手にはならない。
 そういうときにこそサービスして、お店のファンになってもらうことが大切だった。

 我ながら性格が悪いと思うが、私はこの「ドリンクこぼし対応」が好きだった。
 新しい飲み物をサービスして、お客さんの焦りとがっかりが混ざった顔が、喜びと驚きが混ざった顔に変わる瞬間を見ると嬉しかったし、いかに気を遣わせないよう対応するか工夫するのも楽しかった。

担当書籍を目の前の子が読んでいた
 
カフェのあと本屋の児童書コーナーへ行ったら、兄姉らしい子どもが私が担当した本を手にしていた。
 もう嬉しくて嬉しくて、気がついたら身を潜めて様子をうかがっていた。

 ふたりが手にしていたのはめいろの本で、手にはもう一冊、私が参考にした他社の本もあった。
 さすがお目が高い! その本は類書のなかでもかなり系統が似ているんだよ! その本との差別化にいかに苦労したか……!
 ああいう瞬間って、ものすごくドキドキする。

 兄姉は肩を寄せ合って本に顔を突っ込んでいたのだけど、もう、その衝撃たるや……!
 私が作った本で実際に遊ぶ子どもが目の前にいる。なにを思うんだろう、難易度はどうだろう、イラストは? なんでそれを手に取ってくれたんだろう!?
 声をかけなかった私は偉かった。

 結局、掲載しためいろの数と値段で他社の本が選ばれた。
「こっちのほうが、たくさんのってるよ」
「こっちのほうが、50円安いね」
 
 数を気にするのは親だけだと思っていた私は間違っていた。
 掲載数を減らして漫画やイラストを増やしたことに後悔はないけれど、悔しい。

 いつか、自分が担当した本が目の前で選ばれるところを目撃したいなぁ……。

 はぁ、有意義な一日だった。

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