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【Review】2019年J1第28節 川崎フロンターレVS.湘南ベルマーレ「久々に呼吸の合ったカルテット」

はじめに

 2019年J1第28節の川崎フロンターレは、5-0で湘南ベルマーレに勝ちました。今季最多の5得点、しかも得点者が全て異なる多彩さを見せてくれました。久々に中村の得点ポーズもあって満足度の高い試合でした。
 一方の湘南は清水戦の6失点に続いての大量失点。パワハラ問題真っ只中というチーム状況が残留争いをより困難にしているように見えます。この敗戦で16位鳥栖と勝ち点で並ぶ15位となり、得失点差が重要になりうると考えると痛い5失点になりそうです。

プレスにさらされた序盤

 川崎の立ち上がりは狙い通りではなかったと思います。湘南のプレスを正面から受けてしまい、奪われるシーンが何回かありました。特に下田は試合に上手く入れておらず、湘南の奪いどころになっていました。首を振る間に寄せられることが多く、FWのプレスバックのような死角からのプレスに苦しんでいました。
 転機としては阿部から斜め外に出した小林への縦パス(9分頃)。それまでは湘南のプレスを横パスでかわそうとしており、しかしそれでは登里や守田のところで詰まってしまいます。序盤にタッチライン際での接触が多かったことや、苦し紛れにボランチに戻すパスをカットされていたのもそのためです。阿部の縦パス以降も小林はサイド(特に左)に流れて起点を作っており、プレスをかわすパスコースを縦に作れたのが流れを変えるきっかけになりました。
 もちろん先制できたことも大きかったです。跳ね返された後のプレーながら、セットプレーからの得点ということで、今年は少なかった分、セットプレーの流れを無視する強さを改めて感じました。

上向いてきた二人

 川崎側の快勝の要因の一つが好調な二人です。一人は小林で、知らない間に秋男に変わっていたようです。たしかに湘南の最終ラインが低く、小林の落ちる動きに対してプレッシャーが弱かった部分はあります。しかしそれを差し引いてもこの日の小林は来るボールを何でも収めてくれて、味方に落とすだけでなく裏に出したり、時には自らターンするなど、丁寧なだけでなくプレー選択が的確でした。これによって容易に陣地回復が出来る、最終ラインを引き付けて裏のスペースを作れるなどの効果が得られました。
 もう一人好調だったのが家長。リーグ戦今季初ゴールはなりませんでしたが、それ以外の場面では十分な活躍でした。


 おそらく本人も調子が上がっていると感じているでしょう。だからなのか、交代に対して少し不満が見えた気がします。交代直前のミドルシュートや、交代時にゆっくりと外に向かう姿。これらの挙動からはもっとプレーしたかったモヤモヤを感じてしまいます。

追い打ちのオウンゴール

 逆に湘南は本調子には見えず、これが快勝の要因の一つでもあります。不調の理由はメンタル保持が困難だったことでしょう。もちろんパワハラ問題も影響はあるでしょうし、加えて序盤の不運なオウンゴールは追い討ちをかけるのには十分だったでしょう。
 試合を通してこの日の湘南にはまとまりが無いように見えました。特に前からのプレスが空転しており、原因の一つが最終ラインの押し上げがなかったことです。普段に比べて最終ラインが重く、攻撃時にも3CBが横並びで残る形をキープ、サイドのフォローに回らないためサイドで数的有利が作れません。おそらく下のコメントにあるように、最後のゴール前の守備のところにフォーカスを当てたことが、選手のメンタルに過剰に反映されてしまったのだと思います。

高橋コーチ「[…略…]最後に粘れないというところが続いていると思うので、今週はそういうところにフォーカスして、いくら間を通されようがクロスを入れられようが、最後のゴールのところをしっかり守るとか、体を張るとか、クロスをあげさせないとか、そういうことが出来れば自分たちのリズムになりますし、しっかりと攻撃のリズムになるかなと思った[…略…]」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第28節 vs.湘南ベルマーレ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/28.html>)

 もう一つ前線からのプレスが空転していた原因は、シャドーの選手、特に菊池が川崎のCBとSBの両方を見ようとしていたからでしょう。おそらく狙いとしては、シャドーがCBからSB方向にボールを動かさせるように追うことで、SBのパス選択肢を削りながら(いわゆるカバーシャドウ)プレスをかけたかったのだと思います。ただ車屋が内寄りに、登里が外寄りにポジショニングするとその分横の移動幅が大きくなり、間に合わなくなります。こうしてサイドをフリーにしたことで喫したのが2点目でした。

同じスタメンを使い続けること

 もう一つ勝因をあげると、慣れ親しんだスタメンの呼吸が合ったことでしょうか。2連覇時の主力の前線カルテットが躍動した試合で、4人とも得点に絡んでおり、結果を出したと言えます。

中村「選手としても同じスタメンを続けてくれると呼吸というか、コミュニケーション、立ち位置を掴んでいける。それは大きいかな。前の4人はいつも通りだが、それに後ろの組み合わせ。その意味で言えば、神戸戦を1試合やって、また練習したことで呼吸がつかめた。」
(引用元:同上)

 とは言えこの試合だけを見て今後も安泰!と判断するのは難しいです。湘南側にいつも以上に不調の要因、パスミスが多かったとも見れます。何より今季ここまで上手くいっていなかったコンビネーションなので、急に上手くいった要因は精査すべきでしょう。
 また同じスタメンを続けることにはデメリットがあり、それに苦しんできたのが今季の川崎です。昨年まで上手くいったスタメンが噛み合わない時に打開策が見つかりません。ダミアンや知念といった屈指のストライカーを途中交代で起用しようとしても、ギアチェンジは難しいのです。

「いまの川崎は選手を1人入れ替えただけでは攻め方を大きく変えられません。攻撃を複数選手のセット考えているからです。」
(引用元:六「【Review】2019年J1第25節 川崎フロンターレVS.セレッソ大阪「マニュアル運転にロマンはあるけど難しいからオートマがオススメ」」

 あとは外からの予想でしかありませんが、全員が楽しめているか、は気になるところです。固定化の弊害はやはりベンチメンバーのモチベーション低下です。実際の選手の言動含めて注視していく必要があります。
 とはいえ結果が出ましたし、中村と家長の途中交代を温存と見ると、終盤はこの布陣で臨む可能性は高いです。呼吸が合った状態をいかに保つかがポイントになるでしょう。

おわりに

 前線の選手の調子が上向きなのは朗報です。守田の右SBも安定しています。シーズン終盤は今日のスタメンに近い形で進めていくと思うので、あとはいかに対戦相手に合わせて微調整ができるか、そして交代の効果を最大にできるかがポイントになるでしょう。
 優勝争いになんやかんや踏みとどまっている川崎。残り6節で勝ち点8差ですが、今節で鹿島が首位になり、そうなると直接対決が残っているので期待を持たずにいられません。今週のルヴァン杯はカップ戦だけでなく、リーグ優勝争いの前哨戦としても重要な一戦になりそうです。

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