【Review】2021年J1第26節 アビスパ福岡VS.川崎フロンターレ「復調の鍵は登里」

はじめに

 2021年J1第26節の川崎フロンターレは、0-1でアビスパ福岡に敗れました。今季公式戦で初の敗戦、リーグ戦では昨季からの無敗記録は30試合でストップとなりました。

 対する福岡はクルークスのゴールを守り切り勝利。試合終了時の福岡サイドの喜ぶ様子は凄まじく、トーナメント決勝進出かのようにサポーターが一斉に立ち上がる姿は圧巻でした。それだけ強敵と認識してもらえていることには少しばかり嬉しさを感じます。

 ということで、久々の敗戦レビューに緊張と、レビューし甲斐を感じる気持ちの両方を抱えながら振り返っていきます(笑)。

短い総走行距離の影響

 負けた試合の方がスタッツに現れる部分が多いと思うので、まずはスタッツの振り返りから。最も普段と異なるのは総走行距離が短いこと。この日のチーム総走行距離は98.7kmで、平均113.1kmと比較して14.4km少ないことになります。ちなみに今季最長が神戸戦の120.2kmで、その差は21.5kmもあるので、神戸戦と比べるとピッチ1人あたり約2km走行距離が短いことになります。
 走行距離が短い要因はコンディション不良による部分が大きいでしょう。実は前節広島戦も短く(26節終了時でワースト3位)、アウェイ連戦の疲労蓄積がそのままピッチ上に現れたと言えるでしょう。なお橘田だけ唯一の10km超えでしたが、長続きしなくなるので頼りすぎには注意です。

 走行距離が短いことによる問題としては、まず攻守の切り替えで優位に立てないことです。通常なら即時奪回による相手の攻撃権の剥奪、さらにはショートカウンターからの精度の高い攻撃で有利に試合を進めることができますが、この日はその面影が見えません。
 ボール保持率が高かったものの、インターセプトが0本だったことを考えると、ボールを奪い返すという点での強みが薄れていた試合でした。即時奪回は川崎の攻撃の根幹であるため、そこの不安が攻撃面に影響したのかもしれません

やり直せない攻撃

 もう一つ気になるスタッツが攻撃回数。こちらは118回で、平均121回とは大きく変わらないのですが、一方でプレー時間が普段よりも5分ほど短いことも合わせると、多いように感じます。
 これは福岡に攻撃をやり直させてもらえなかったことを意味しています。川崎は多少強引に前進する必要が生じ、シュートチャンスの質の低下の一要因になったと考えられます。実際これは川崎相手に有効な戦い方で、確実にボールを前進させたい川崎の強みを潰す戦術になっています。

 福岡は攻撃をやり直させないために、まず川崎にボール保持を押し付けるスタンスで、ロングボールで最終ラインを下げさせ、低い位置からのビルドアップを強いてきました。これは①川崎が最近苦労しているビルドアップを押し付ける②準備の難しいカウンターを避ける③想定内の攻撃に限定させる、などの狙いがあったと思います。
 また福岡FWはボール奪取よりもパスコース遮断を優先します。特に自身のラインをボールが超えた時(車屋がドリブルでボールを運ぶ時など)は、ボールホルダーに寄せるよりも先に、後ろのパスコースをカットします。こうすることで川崎に攻撃をやり直させず、強引な形で攻めさせることに成功します。このあたりの役割を出場選手全員に理解、実行できたことに、長谷部監督の指揮官としての能力の高さ、そして選手の戦術理解度の高さを感じました。

ボール保持を優先する悪循環

 こうした福岡の戦い方によって、川崎はボールを保持しているものの攻撃が窮屈に感じていたはずです。このような戦い方に対しては、家長がCB近くまで下がり、数的有利を作ってボールを運ぶことで、相手選手全員を一旦相手陣地に押し込みます。そうすることで相手のカウンターの芽を摘み、また自分たちの得意なパターンに持ち込むことができます。

 ただ最近はこの自分たちの得意なパターンの精度が上がりません。ボール保持から中央の狭いエリアをパスで崩す、もしくはサイドを切り裂いてPA内に侵入していく回数が増えません。
 この要因については三笘・田中の移籍や、チーム戦術整理の時間不足、疲労など複数考えられるので、一旦横に置きます。ここではプレー精度が上がらないことで、ボール保持を優先する悪循環に入っていることに触れます。
 この日は相手を押し込むため、低い位置で数的有利を作る必要がありましたが、それにしてはボール保持を優先させる判断が多かったです。つまり、前を向いてゴールに迫れそうな場面でもボールキープを選択していたように見えました
 おそらく攻撃の精度が上がらないことで、リスクを負うタイミングが共通認識として持てていないのだと思います。最近は運動量が少なく、ボールを奪われた時の対応に不安があるのも、リスクを取れない一因でしょう。結果的にゴールに迫る判断を後ろに回し続けてしまう悪循環にはまっているように感じます。

復調の鍵は左SB登

 そうした状況に対し、調子を取り戻す対策の一つが攻撃のスイッチを入れる選手を増やすことだと思います。広島、福岡戦と橘田の活躍を感じたサポーターも多いでしょうが、ここ2試合の縦パスでゴールに迫るスイッチを入れるプレーの頻度と精度の高さは芽を見張るものがありました。これまでシミッチに依存していた役割を橘田も担えるようになると、攻撃の川崎をチームが思い出せるように感じます。

 橘田以上に期待しているのが左SBの登里です。攻撃のスイッチという点では最近の山根が一つの答えだと思います。大分戦のダミアンへのアシストのように、サイドの高い位置でフリーでボールを保持し、そこからPA内にパスを差し込むプレーは、ゴールの可能性を強く感じます。
 これと同様なプレーを登里にも期待したいのですが、現時点では難しいでしょう。というのも左サイドでのボール保持が不安定なためです。ここ数試合、登里がアフター気味に削られるシーンが増えたように感じます。タッチライン際でボールを受けても、出しどころに困って相手のプレスを正面から受けてしまっています。
 山根の右サイドに比べて寄せが速く、これは各チームがボールの奪いどころとして登里を設定しているためでしょう。そのせいでプレスの強度が強く、危うい接触が増えていると考えられます。

 登里もコメントしているように、左サイドで相手のプレッシャーをいなすことが出来ていません。そうした現状を分析された結果、他チームからウィークポイントとして認識されているのでしょう。

登里「自分としても相手のプレッシャーをいなしながらサイドから崩していこうとしているが、少し停滞気味になっているところがあるので頭の中を整理したい。」
(引用元:川崎フロンターレ公式「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第26節 vs.アビスパ福岡」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/26.html>)

 相手のプレッシャーをいなすのは登里だけでなく、特に左WGとの共同作業で、その部分の連携が上手くいっていません。たとえば宮城と長谷川のボールを引き出す動きが少なく、登里にパスコースを作れていません。
 彼らは相手を背負ってボールを受けるプレーを得意とはしていないため、よりいっそうフリーになるための準備が重要です(三笘や旗手は多少背負ってもどうにか出来てしまう)。ですが相手との裏の駆け引きや外す動きが不十分なため、タッチライン際で背負って受けるプレーになってしまいます。もう少し裏抜けの脅威を見せつけて、相手の意識を動かすことができれば、スムーズにプレッシャーをいなせるようになると思います。
 今季調子が良い時は登里がチャンスメイクできていました。彼が攻撃に絡める様になれば、またゴール量産ができるようになると思うので、復調のために頭の整理を進めてほしいです。

おわりに

 今季初の敗北となりましたが、いずれ負ける日が来ることは覚悟していたはずで、それに向けて鬼木監督も備えているでしょう。それは戦術面もそうですし、メンタル面も含みます。チームとして久々の敗戦がどのようなメンタル状況なのか想像するのは難しいですが、鬼木監督ならモチベーション管理してくれると思います。

 まだ1敗ですし、何より守備が崩壊していないのは頼もしいです。車屋と山村はここまでバックアップが多かったものの、安定感のある守備を見せてくれています。加えてビルドアップでも上手さを見せており、谷口不在の穴を十二分に埋めています。今後攻撃を再構築する上で、彼らがキーになるかもしれません。

 

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