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【Review】2019年J1第33節 川崎フロンターレVS.横浜Fマリノス「強くて面白いサッカーを見せつけられた」

はじめに

 2019年J1第33節の川崎フロンターレは、1-4で横浜Fマリノスに負けました。川崎はACL、横浜は優勝に向けた重要な一戦で、共にモチベーションの高い試合になりました。
 川崎が一時は1点を返しましたが、最終的には4失点での敗北。4失点は今季最多(次が22節名古屋戦の3失点)で、実力差がはっきりと点差に現れました。

前線からの守備の3つのポイント

 リーグ最多得点の矛を持つ横浜に対して、川崎は前線からボールを奪いに行く方針を選択しました。ソンリョンと山村のスタメンから、後ろで構えるスタンスを予想していたのでこれには驚きました。
 奪いにいくためのポイントは次の3つ。①ボランチはパスの出先を抑える②ボランチの裏に入ってくる選手はCBが対応する③サイドを使われても最終ラインで吸収する。
 ①は、前線4枚が相手4バックにプレスをかけて誘導し、その先をボランチが仕留める狙いです。田中はこのプレーが得意で重宝されていました。
 ②については、ボランチが上がってできたスペースを使われる場合、今回はエリキとマルコスジュニオール(結果的には彼らだけではなかった)、CBが前に出て対応することを徹底していました。

谷口「マンツーマンまではいかないが、人には厳しくいくことでやっていた。その局面、局面で上回れなかった。1対1でボールを奪い切れなかったし、そういった部分でもうまく守れなかった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第33節 vs.横浜F・マリノス」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/33.html>)

 そして③ですが、ボランチのスライドが間に合わずにサイドを使われた場合は最終ラインで処理する目論見でした。

鬼木監督「そこ〔引用者注:マテウスのところ〕を使われたからといって、今までそれを崩されていたかというとそういうわけではなくて、スライドが届かないとして、そのあとに吸収という形で収めてきた。」
(引用元:同上)

 こうした狙いから振り返ると、1失点目は前でプレスを外された時の想定が甘く、後ろで攻撃を吸収できなかったシーンだと言えます。家長が畠中にプレスにいったことでフリーになったティーラトンのスルーパスから始まった攻撃でした。川崎としてはティーラトンに対して田中か大島が寄せる、もしくは守田がマテウスを抑えると踏んでいたのでしょう。
 しかし実際にはスライドが間に合わずにティーラトンに時間を与え、マテウスのスピードに守田がぶっちぎられてしまいました。横浜の攻撃が川崎の想定を超えてきた場面でした。
 あとはボランチの裏のスペースへの対応が甘くなる場面がありました。2失点目がそうで、ここのスペースは基本的にCBが対応する約束でしたが、SBのような予想外の選手への対応は遅れてしまいました。
 このスペースは前半途中からは中盤を中央に寄せてパスコースを遮断することで抑えていて、特に阿部が気を利かせてボランチ2人のいたスペースを埋めることで守っていました。ただ後半頭からは攻撃に出ようとしてかサイドの選手が広がってしまったため、

迫力に戸惑った立ち上がり

 横浜は開始早々大島へのプレス(結果的にはファール)のように、素早いプレスで戦う姿勢を前面に押し出してきました。また谷口のパスカットからカウンターを食らったのもあり萎縮してしまったのか、序盤の川崎は速いプレスに対応できずに苦しみました

鬼木監督「ただ自分たちのミスから1回カウンターを食らった。あの瞬間ぐらいからですかね。少し選手たちはピッチの中で相手の迫力を感じてしまったのかなというふうに自分自身は思っています。」
(引用元:同上)

 ただ前半途中からプレスをいなし、ボールを保持して横浜を相手陣地に押し込める時間が増えました。要因は大きく2つで、1つが速いプレスに慣れたことがあります。横浜のプレスの速さはJリーグでもトップなので、速さに目を慣らすのに時間がかかります。最近のルヴァン決勝のように、今年の川崎は立ち上がりに不安を抱えており、この試合でも相手に慣れる前に失点してしまったのはもったいなかったです。
 もう1つがボランチの2人をフォローする形を作れたことです。特に右サイドは家長がいないことで数的不利になるケースがありあすが、その場合でも山村が前目にポジションを取ることで守田、大島との三角形を作り、プレスをいなしました。
 川崎として先制を許した次に痛かったのは、このボールを保持した時間帯に追いつけなかったことでしょう。横浜の守備はボールを取られたタイミングでは強みを発揮しますが、1度目のプレスをかわされた後はボールの奪いどころが共有出来ていないように見えました。
 また自陣に篭った時の守備では前への意識が強い分、最終ラインがズレやすいです。前半38分に脇坂が裏で受けたシーンはその特徴を突いた攻撃でしたが、精度を欠きました。ルヴァン決勝の大島と小林の関係でライン突破したプレーくらいの精度があれば得点に繋がったでしょう。

プレスを恐れないメンタル

 率直に横浜は強かったです。しかも一時的なものではなく、積み上げた強さを感じさせるサッカーだったことは川崎に重くのしかかったでしょう。もちろん守田の反省にあるように一対一の対応次第の部分もありましたが、そこに留まらないチーム力での差があり、個人の反省では済まない状況だと思います。そんな横浜の強さの秘密は継続的に見てきた方にお任せして、ざっくり感想を。

守田「相手は自分のところを狙ってきていて、それでも自分が止めれば何も問題なかった。対人のところで奪い切れなかったり、守り切れなかったりが原因。立ち位置で優位性を取られているので仕方がないが、それでもスピードを止める術はあったと思うし、だからと言って、やられていいわけではない。自分の実力不足。」
(引用元:同上)

 まず松原のプレーがいやらしく、彼を止める術はいまの川崎にはありませんでした。2失点目の場面のように最終ラインとボランチの間でボールを受け、的確にスルーパスを通してくる一連のプレーをSBにやられたらたまりません。そんな松原に自由を与えているのはカバーに入る喜田やスペースを作るマルコスジュニオールで、ボールを持ってない選手の連動性が高く、チームとしてデザインしていたプレーだったと思います。とはいえあのスルーパスのセンスはずるい…。
 あと横浜で最も厄介だったのがプレスをものともしないパス(絶好調の名古屋にも感じる)。脇坂と小林がコースを切る守り方をしても、タイミング外したりちょっと浮かしたりで通してくるので、プレスの意味がありません。今までであれば最終ラインの選手はリスクを避けた回し方をするので十分でしたが、横浜相手には効果がありませんでした。そのため川崎はほぼ8人で守ってる感じになり、中央で数的不利を作られていました。プレスを恐れないメンタルを持つことが難しいのは風間監督時代に感じていたので、選手にそうしたメンタルを植え付けたポステコグルー監督の手腕を評価したいと思います。

流動性に苦しんだ1年

 鬼木さんにとって今年は攻撃での流動性を優先しつつ、どう守るのかに苦心した1年だったと思います。特に前線4枚の流動性、即興性を活かした攻撃を軸にしたスタイルの模索でした。ただその模索の道に光が差さずにシーズンが終わりそうです。
 鬼木監督のコメントから川崎の戦い方は①攻撃には選手の流動性が必要で②そのリスクは後ろで吸収する、この2つがポイントに挙げられます。
 流動性は自らのバランスを崩した上で成立していて、つまり自分たちのボール保持には常にリスクが付きまといます。プレッシング戦術が高度化している昨今、たしかにボール保持はリスクの一面をもちます。しかし今年の川崎はそのリスクに対してリターンが見合わなかったため、リスクの大きさがより前面に出てしまったように見えます。
 またそうしたリスクを前線からの守備で処理し切れていないのも今年の特徴でしょう。鬼木監督が植え付けた攻守の切り替えは、選手間距離を近付けて崩すスタイルには適していて合理的でした。しかしGKの参加などビルドアップの高度化により、前線からの守備が機能しなくなっています。それでも前から奪いに行き、そのリスクを後ろで吸収する選択をしたのが今節でした。
 こうした状況の一つの理由に、流動性を上げる選択しかなかったことが挙げられます。流動性が高まると得点が増える、かはわかりませんが、攻撃において流動性が必須だと考えていたように思います。そのため苦しい時には流動性というアクセルを踏み込むしかなかったのでしょう。
 鬼木監督の振り返りを見る限り、チームの方向性ではなくそのバランスに問題があったと認識しています。そのためおそらくは大きな方向転換はないでしょう。どちらにせ次節は来季に向けての意思が垣間見える試合になるのではないでしょうか。

おわりに

 個人的にはサッカーの面白さで負けているのが何より悔しかったです。勝敗以上に、攻撃的で魅力的なサッカーをする川崎が誇らしく、だからこそ好きになりました。けれどもこの試合では間違いなく横浜の方が魅力的で、まさに完敗でした。
 リーグ戦に目を向けると、鹿島が負けている中でもったいない敗戦になりました。このまま4位で終わると来季のスタートが難しくなります。というのも鹿島が天皇杯を優勝すると川崎が繰り上げでACL出場、つまり鹿島の結果が出るまではチーム編成を確定できません。しかも1月末のプレーオフからの出場となりスケジュールが相当厳しくなるため、3位を確保したいところです。
 次がいよいよ最終節で、レビューもこれで33本。昨年達成できなかった34本まであと少し…。チームと私、共に有終の美を飾りましょう。

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