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【Review】2019年J1第31節 川崎フロンターレVS.鹿島アントラーズ「セットプレーとカウンターがもたらした内容と結果の不一致」

はじめに

 2019年J1第31節の川崎フロンターレは、2-0で鹿島アントラーズに勝ちました。
 「30試合以上対戦しているチームの中で鹿島に通算成績で上回っているチームはこの世に存在しない」らしく、Jリーグ史を一つ塗り替えた気がします。
 試合は「鹿島がビッグチャンスを決めてれば…」といった内容でした。一方で川崎は劣勢の中で見つけた一筋の光をつかみ取って見事勝利。今までは掴めなかった光を経験と綿密な準備でこぼしませんでした

内容が良くても結果が出なかった鹿島

 両チームの試合後コメントは「内容は鹿島が良かった」で一致しました。大岩監督が「自分たちが1週間かけて準備をしてきた試合展開に持ち込めた」と言ったのに対し、鬼木監督は「自分たちのサッカーをなかなかやらせてもらえない」と述べています。
 しかし軍配は川崎に上がりました。内容と結果に分けるのは強引ではありますが、「内容が悪くても結果を出す」のが鹿島が勝負強いと言われる所以でしょう。その意味でこの日の川崎は鹿島らしく、内容が悪くチャンスを量産できずとも、セットプレーとカウンターで勝利を掴む姿は、Jリーグにこれまで君臨していた鹿島に似ていました。試合後に「内容はさておき、勝点3が必要なゲームだった。いい結果が出てよかった」という阿部のコメントが今節を端的に表しています。
 鹿島はいつも通りサイドラインを味方に付けるのが上手かったです。白崎が「自分たちのゴール前でサッカーをさせない」と言うように、鹿島は相手をサイドに追い込み、そこに人数をかけて守備を行います。その際のスライド、特にダブルボランチ、が素早いため常に相手は数的不利のように感じます。加えて内側の切り方が上手く、外側に逃げさせられるため、鹿島の選手とサイドラインに挟まれることがこの試合でも多々ありました。
 川崎としてはもっと中央で勝負がしたく、普段のように相手最終ラインとボランチの間のスペースを活用して攻めたかったと思います。ただこの試合ではそのスペースで受けたとしてもレオシルバや相手CBとのフィジカルコンタクトで負けることが多く、そこで起点を作れませんでした。逆に鹿島はそこで負けない強みを発揮していました。

デュエルの激しい中央は家長で対抗

 前半終わりから後半頭にかけて鹿島に立て続けにチャンスを作られた川崎でしたが、長谷川の交代で反撃の糸口を掴み始めます。この交代の理由の一つは鬼木監督のコメントにもあるように、サイドで起点を作りたかったからでしょう。

鬼木監督「前半から少し押し込まれる展開があったのと、あとは彼を入れることによって1つは推進力ですね。自分たちのサッカーで言うとパスが多かったので、ドリブルで運ぶこと、あとは外で時間を作れるようにということを考えた。あとは前半、家長(昭博)のところが少し窮屈そうだったので、彼を中央に置いてフリーマン的に動かすことで、相手もかなり動きが出るんじゃないかなと思ってポジションを変えました。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第31節 vs.鹿島アントラーズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/31.html>)

 もちろん長谷川を起点に左サイドから攻め返し始めましたが、ただそれ以上に家長を中央に移動させたことが効果的でした。1つが家長に自由を与えられました。前半途中から家長の上がって出来るスペースを町田が使うことが増え、その対応に後手を踏んできました(守田がイエローカードをもらった場面など)。家長を中央に移動させて守備のタスクを減らすことで、ボール保持時に自由にプレー出来るようになりました。
 もう1つ、鹿島の中央の圧力に対抗出来ました。上述の通り、川崎は鹿島の最終ラインとボランチの間のスペースの活用に手こずっていました。フィジカルコンタクト、言い換えるとデュエルの激しさの部分で脇坂と小林は劣勢でした。その狭いスペースに家長を配置することで、デュエルでの勝率を少しでも上げたい意図があったと思います。実際家長のおかげで攻守ともにそのエリアでの競合いに勝つ確率は上がり、優位に立てる回数は増えました。
 これらに加えて脇坂の動きが鈍くなってきたこと(直近2試合ほぼフル出場だったから)もあり、長谷川の投入を機に川崎は一気に2得点して勝負を決めることが出来ました。

山村がフリーだった3つの理由

 こうして押し返した末に獲得したセットプレーから先制点は生まれました。先制シーンのポイントは大きく3つで、1つが山村がニアからファーサイドに走り込んだこと。最近のセットプレーでは山村がファーに位置することが多く、前半の左からのFKの場面でも同様に、ただその時はファーサイドからストレートに走り込んでいました。しかしこの場面ではニアからファーサイドへの横の移動を入れることで相手守備の混乱を誘っていて、これがフリーになれた要因の一つです。
 2つ目がゾーンディフェンスの欠点を突いて低い選手と勝負したことです。鹿島はこの時ゾーンディフェンスで対応していますが、この方法は身長の低い選手が守るスペースがバレてしまう弱点があります。実際にこのシーンでは川崎はスタメントップの山村(186cm)を、鹿島の内田(176)と永木(173)の間に走りこませることで勝てる状況を作りました。
 ただこうしたデメリットへの対策として、高身長の選手に対してマンマークを敷くやり方があり、内田の「レオが最初マークついていたんじゃなかったかな」というコメントを見る限り、おそらくレオシルバが山村をマークしていました。それでもフリーになれたのが3つ目のポイントで谷口がレオシルバをブロックしています。

決めきれない上に後手を踏んだ鹿島

 先制されることで鹿島は珍しく焦っていたように見えました。再開後ファーストプレーのロングボールが雑だったり、低い位置でのFKでもパワープレーのようにCB2人を前に送り込むなど、まだ30分あるにしてはなりふり構わない感じがしました。ビッグチャンスを仕留めきれなかったことも相まって、精神的にダメージはあったのでしょう。

内田「変な話、内容が悪ければ『ああ、やられたな』くらいなんだけど、良かっただけにガクッというのはあったと思う。」
(引用元:Jリーグ公式HP「試合結果・データ:鹿島VS.川崎F」<https://www.jleague.jp/match/j1/2019/110906/live/#player>)
 永木「点を決められるところで決めないと、こういう展開というのはよくあるんですけど、自分たちのペースでずっとできていたぶん、セットプレーと2点目は自分たちのCKのセカンドボールの処理の悪さと切り替えの遅さでやられてしまっている。」
(引用元:同上)

 永木のコメントの通り、たしかにCKからのセカンドボールを拾われたところからカウンターで失点を喫しています。ただそれ以前のパワープレーの時のようにCBを前に上げると、レオシルバがカウンターに備えて最後尾に位置することになり、セカンドボールを拾える選手を拾える位置に配置できない状況を自ら作っていました。加えて焦りからかクロスの精度が落ち、GK新井がキャッチもしくはパンチングできるボールが多くなっていたことも、セカンドボールの処理に後手を踏んだ要因でしょう。
 もう一つ後手を踏んだのが交代で、内田を替えるタイミングがもう一つ早ければ2点目は防げたように思います。長谷川が入って以降、鹿島は右サイドから攻撃を許しており、65分には田中の妙技から車屋のカウンターを喰らっています。この場面ですでに内田は追いかけることが出来なくなっており、予兆は表れていました。その後カウンターから失点、こぼれ球に内田が間に合っていれば、というシーンでした。
 内田交代後はダブルボランチからレオシルバの1アンカーにシステム変更しますが、これによって彼の位置が低くなり推進力が出せなくなるなど、交代で状況を変えることができません。長谷川の投入一つで全体の戦況を変えられた川崎と対照的な結果になりました。

最終ラインから虎視眈々と

 長谷川と阿部のコンディションは一つ大きな勝因でした。想像ですが、鹿島戦に向けて長谷川と阿部の体力を温存することがこの3連戦に挑む上で優先順位が高かったのだと思います。広島、浦和戦と長谷川はベンチ外、阿部も浦和戦は5分の出場に留まっています。浦和戦で疑問だったのが齋藤のコンディションで、あまり良くないように見えましたがフル出場しました。おそらくこれは長谷川と阿部二人のサイドアタッカーを温存するための采配だったのでしょう。3戦全勝するためのコンディションマネジメントが見事成功したといえるでしょう。
 最後に得点をしても飄々としている山村について。この日一番印象に残っているのは得点のシーン、ではなく前半15分あたりに見せた左足でのサイドチェンジ。このプレーから最終ラインからでも虎視眈々と攻め手を探っていることを感じました。山村は何度かサイドチェンジを試みていて、おそらく鹿島の誘導の逆を攻めたかったからでしょう。その際に最終ラインの中では空中戦を得意としない内田をめがけて蹴っている工夫も加えています。
 さらに見せた工夫が左足でのロングキックを使ったシーン。ここでは鹿島のプレスが厳しかったわけではなく、右足に持ち替えることは可能でした。ただ鹿島が利き足を意識してコースをカットしていたため、そして相手のタイミングをずらすためにあえて左足でサイドチェンジを試みたのだと思います。結局内田の好判断に防がれますが、最終ラインからでも状況を打開しようとする山村のクレバーさを感じたシーンでした。

おわりに

 8日間で3連戦を見事3連勝で締めくくった川崎。鹿島相手に鹿島らしさを見せつけ、逆に川崎相手に昔の川崎らしい試合展開を見せた鹿島。オリジナル10ではない川崎が長年積み上げてやっと背中が見えた気がします。
 とはいえ冷静に見ると東京と横浜が勝利したことで優勝条件は一層厳しくなりました。ただ選手たちのコメントからはほぼ絶望的な状況を割り切っているように見えます。残り2試合全勝すればACL出場権は見えてくるはず。

  これで代表ウィークと先に消化した浦和戦の影響で約3週間の中断期間に入ります。次は11/30(土)の今季ホームラストの横浜戦です。休みが1日長くなった川崎の選手たちのSNSを楽しみにしつつ、車屋、大島、田中は代表頑張って…!

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