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【小説】フラッシュバックデイズ 26話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

26話 ネパール編① ポカラへ

バラナシからポカラへのバスは過酷だった。路面の凸凹を一日中固い座席で感じながら、夜は扇風機もなくベッドしかない野戦病院のようなところで降ろされた。ほとんど眠れないまま、翌日もガードレールもない結構な山道を今にも壊れそうなバスで登っていく。長い山道登りも終え、少し涼しくなってきた。時間的にもそろそろ着く頃だと思ったその時、バスが止まった。
どう考えてもここは目的地ではないが、客はどんどん降りていく。
仕方なく、俺も外に出る。どうやらバスの故障らしい。
俺は修理してなんとかするだろうと呑気に一服していたが、
最初こそ文句を言っていた乗客達は、すぐに諦め、バスを後に歩きだし、気が付けば俺だけになっていた。さすがにヤバいと感じバスの反対側に回ると、運転手は修理するどころか、その場で何をするわけでもなく座り込んでいた。コイツは何もする気がないと瞬時に理解した。
歩くしかない。

幸い道は一本しかない、他の客が歩き始めたということはそこまで遠いわけではないはずだ。
俺は歩き出した。
何もない田舎の山道。ここがどこかもわからない。あとどれぐらいで着くのだろうか。
救いはさすがはヒマラヤの麓、標高が高いおかげでインドとは比べ物にならないほど涼しい事だ。Tシャツ一枚で少し肌寒い。
もちろん不安もあったが、先程の一服で少しハイになったせいか、この状況を楽しんでいる自分がいた。
人生は思うようにはいかない。でも前に進むしかない。
前に進めばいずれは目的地には着く。
きっとポカラはいいところに違いないと自分言い聞かせながら、ひたすら歩いた。

しばらく歩くと登りから平坦な道になり、遠くにポツンと小さな建物が見えてきた。砂漠でオアシスを見つけたように安堵した。
その建物は小さな商店だった。外で子供たちが遊んでいる。俺はコーラを買い、プラスチックの椅子に座り、生ぬるいコーラ味の炭酸水を流し込んだ。
子供達に早速囲まれた。インドのように小銭をせびるわけではなかったので、楽しく相手をしていると、家族で経営しているのだろう、子供達の姉のような人物が自転車で帰ってきた。
おそらく普段はバスで通過するであろうこの商店に日本人がいること珍しいのか、姉は俺に気づくと、となりに座り、話しかけてきた。
姉は俺のウエストから垂れ下がったバックパッカーウォッチに興味があるらしく、譲ってくれと懇願した。
Tシャツにデニムのショートパンツにビーチサンダルの姉に釘付けだった。
インドでこんな肌を露出させた格好の女性はいなかった為、ネパールに来た事を実感するとともに、久しぶりに見たTシャツの上からでもわかる女性の胸の膨らみと、デニムのショートパンツから伸びる生脚は妙に艶めかしく、忘れかけていた俺の性欲を刺激した。
ポカラまではあとどれくらいかと尋ねると、姉はポカラから帰ってきたそうだ。
といううことはあと少しだ。

のどかな道にポツポツと民家や建物が増え始め、日が暮れ始めた頃、遂に町と呼べるところまで来た。
大きな湖のほとりに店が立ち並んだこの街はポカラに間違いなかった。
夕方とは言え、人はまばらで、落ち着いた雰囲気がなんだか日本の田舎を思い出させる懐かしい感覚がした。

なんだか無性に日本が恋しくなった。今日は日本人宿に泊まろう。
1軒目に尋ねた日本人宿はあいにく満室だったが、2軒目に尋ねた宿は空室があったため、もちろん泊まることにした。
そのままベッドに飛び込みたかったが、まともな食事をしていなかった俺は食事にありつけるかもと、何かあれば来いと言われていた中庭へと向かった。
中庭は屋根付きの座敷になっており、食堂と憩いの場を兼ねているようで、
部屋に案内してくれた父親くらいの年のゲストハウスのオーナーと家族のが遅い夕食をしていた。
オーナーは少しだけだが、日本語が喋れる。俺は食事をとってない事を伝えると、オーナーは食事中の奥さんに声を掛け、しばらくすると皆と同じダルバート(ワンプレートに乗ったネパールの定食)を持ってきてくれた。
他人の家で食事をさせてもらっているような変な感じだったが、食事は疲れ切った身体に染み渡るようだった。

食事を終えた頃、宿泊客であろう目の鋭い太った日本人が座敷にやってきた。オーナーの家族がいなくなり、オーナー、俺と3人になったのを見計らってか、太った男はポケットからチュラムを取り出し、ガンジャを詰め出した。
太った男はチュラムにガンジャを詰め終わると、両手でチュラムを包み込むように握り、俺に火をつけるよう指示した。ぽっぽっと数回、火をガンジャに燃え移らせるように息を吸い込んだかと思えば、男は相当な勢いで吸い込むとガンジャは勢いよく燃えるのが見えた。男はしっかりと肺に溜めた後、エクトプラズムのように煙を吐き出した。
チュラムはオーナーに回り、その後、いよいよ俺の番になった。吸い方が分からなかったが、見様見真似でチュラムを持った両手の中に空洞を作り、
男が火をチュラムの上に近づけたのを確認し、吸い込んだ。
俺は喉に痛みを覚え、吸うのを辞めようとするが、男はまだまだ、もっともっと煽る。自分の力量を試されているような気がして、なめられてたまるものかと、喉の痛みを無視し、肺活量の限界まで煙を吸い込んだ。
ここでむせるのは恰好がつかない、必死で耐えながら息を止め、限界になったところで、煙を一気に吐き出した。
なかなかやるなといった顔をしている二人の顔を見て、晴れて俺はポカラに迎え入れられたような気がした。

つづく

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