見出し画像

【小説】フラッシュバックデイズ 19話


この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

19話 失恋

大阪の街が俺とマキの為にあるかのように二人で色々なところへ行った。
時には大阪を離れ、富士山の麓で行われた有名なレイブにも一緒に行った。
だが、多好感に溢れた日々はMDMAのピークを過ぎてしまったかのように下り坂を迎えていた。
だんだんと遊ぶ機会が減り、マキに問いただすと、他の男が好きになったと言った。
俺にとってこんなに凹凸がぴったりとはまるような女はマキが初めてだった。これほど堪えた失恋は初めてだった。

ぽっかりと空いた心と時間を埋めるべく疎かになっていたクラブ活動を再開した。マキと出会ったレジャー施設の地下のクラブはトランスが多くなり、この当時トランスにギャル男とギャルが増え始め、だんだんとギャル男とギャルの溜まり場へと変化していっていた。
俺はトランスとLSDのどこか宗教的な奥深い世界観、とピースフルなバイブスのレイバーと踊るのはは好きだが、MDMAやシャブでキまったただアがっているギャル男とギャルに囲まれながらの踊るのは無理だった。

その一方で俺は同じ施設のキャバレー横にある1Fのクラブに足を運ぶようになる。そのクラブには俺の求めているもの全てがあった。
アンダーグランドでDIYな雰囲気のクラブというより隠れ家と言った方がよいようなお世辞にも大箱とは呼べないその場所に通好みのDJが回し、マキと出会った時のパーティーの客層そのままそちらに移っているような客が踊り、遊んでいた。
正に大阪のディープスポットと呼べる場所だった。

ギャルとギャル男がたむろしている地下への入り口を横目に駐車場を挟んでだ階段を上ると半開きのままの自動ドアを入ると受付だ。ここがクラブの受付など知らない人だと気づかないだろう。受付の奥には料亭のような空間が広がっている。受付横にある洞窟のよう岩に囲まれた通路を進むとソファーでくつろぐ人たち、設置されたファミコンで遊ぶ人。その奥にはバーカウンターがある。
この場にぴったりな口髭を蓄えた長身のバーテンダーが印象的だ。
さらにその横にある通路を進むと奥のやや天井の低い暗いフロアでは皆が思い思いに踊っていた。

この日は俺の好きなバンドのフロントマンのオープンラストのDJロングセットだった。ハウス、テクノ、でサイケデリックな世界観を作りながらピークにはクラシックなディスコといったセットを俺はLSDとMDMAのカクテル、キャンディーフリップで存分に楽しんだ。
踊るのに疲れたらフロア後方のチルスペースのソファーで休んだり、人恋しくなればバーカウンター前のチルスペースで初めての人と喋ったり、ファミコンができる。何かしらのドラッグが効まった状態でのファミコンは格別だ。朝方だというのに誰も帰らないのも頷ける。ここは居心地が良すぎるのだ。

もうそろそろ終わる頃かなとフロアに戻ると朝方にもかかわらずまだまだ人が踊っていた。もはやMDMAの効果はとっくに終わり、LSDの下り坂の状態だがなぜか心地よく踊れる。ほぼLSDも抜けかけのシラフの状態だが、いつまでも踊れるような、この朝方の時間帯が好きだ。
音が止む。
DJが「ありがとう」と一言いうと、歓声が上がる。
終わらない歓声と拍手に応えるようにDJがレコードを取り出し針を落とした瞬間、真っ暗だったフロアに電気が灯り一気に明るくなる。
朝まで残った人達のボーナスタイムのように皆が楽しそうに踊っている。
ふと横を見るとドキっとした。
マキと雰囲気の似た女性が踊っていた。
マキを少し大人にさせたような女性は俺の視線に気づくと、こちらをみて笑顔で「一緒に踊る?」といって踊った。
いつまでも一緒に踊っていたかった。
この時の女性の笑顔は今でも覚えている。
良い箱、良いパーティー、良い人、たまらない夜だった。

つづく

◆関連書籍/グッズ◆
下記のリンクから購入いただけますと私にアフリエイト収入が入ります。
よろしくお願いします。

キャプチャ33


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?