第41回: 東京以外は間に合わないベジタリアン対応

2019年6月18日掲載

開催まであと3ヶ月。いよいよラグビーワールドカップ(W杯、RWC)日本大会が迫ってきました。アジア初開催のRWCは9月20日から11月2日までの44日間、全国12都市で開催されます。海外からの観客数は40万人以上で、その中には食の禁忌やポリシーをもった方々も一定数いると見込まれています。そこで今月は、間近に迫ったRWCに伴う観光客について考察します。

欧米豪客の受け入れは万全か
 
RWCについては、本連載の第21回(2017年10月)で考察したことがあります。その際は、「欧米豪客の取り込みに絶好の機会である」と指摘すると共に、彼らに多いベジタリアン(菜食主義者)・ヴィーガン(完全菜食主義者)対応が間に合うだろうかとの懸念も示しました。というのも、当時は東京以外の開催都市にベジ・ヴィーガン対応しているレストランが極端に少なかったからです。あれから1年と8ヶ月が経過しました。さて、受け入れ環境は改善されたのでしょうか。

第41回_図1_スクショ

チャートは前回開催されたRWCインドランド大会の外国人海外客の国・地域別内訳と、18年の訪日旅行者数の内訳です。RWCの観客は、訪日者としては少数派である欧州・米国・オーストラリア人が大多数を占めることが分かります。日本大会に訪れるのは、ラグビー強豪国からの旅行者で、日本は初めてという方も少なくないでしょう。

 一般的に欧米豪の旅行者は長期滞在を好みます。平均的な宿泊期間はフランスが13.8泊、オーストラリアが12.8泊、英国が12.7泊、カナダが12.4泊、ロシアが10.3泊、米国が10泊(*1)。いずれも全体の5.8泊を大きく上回ります。
RWCでは応援するチームに帯同して、全国各地を周遊する旅行者もいると予想されます。彼らは試合観戦に加え、各地の食や文化に触れることも楽しみにしているでしょう。受け入れ側として理解しておくべきは、「食の多様性対応」です。

東京以外は間に合わないベジ対応
 
世界でベジタリアンやヴィーガンが増えていることは毎月本コラムで解説していますが、改めて数字を確認しましょう。

ヴィーガン含むベジタリアンの人口比は、英国で14%、米国で8%、オーストラリアで11%、ニュージーランドで10%(*2)というデータがあります。比率自体は小さいですが、その影響は小さくありません。5〜10人ほどのグループには、ベジタリアンが1人はいるからです。全員で食べるためには菜食主義向けメニューがある店が選ばれ、未対応の店は選択肢から外れてしまうのです。

第41回_図2_スクショ

チャートはRWC開催12都市にあるベジタリアンレストラン、ヴィーガンレストラン、ベジタリアンのオプション(メニュー)があるレストランの数です。世界的な菜食主義者の検索サイト『Happy Cow(ハッピーカウ)』に掲載されているもので、訪日ベジ・ヴィーガン客にとっての重要な情報源です。東京は突出しているものの、合計100店舗ほどで、3分の2は「ベジメニューがあるレストラン」です。選択肢があるだけでも助かるのは事実ですが、大半は「サラダ類を提供している」のが実態。残念ながら世界のベジタリアンが望む、植物由来の人工肉や刺し身もどきといったクリエイティヴなメニューは提供していません。
 
その他の都市のベジ・ヴィーガン対応は、おそらくRWCには間に合わないでしょう。ムスリム対応は魚やハラール認証された肉類が使えますが、ベジ・ヴィーガン対応には使えません。菜食主義対応のほうが難しいと事業者は考えています。対応打開策としてケータリングで乗り切る手も考えられます。ただ予約客ばかりではありませんし、近隣にベジタリアン食を提供できる事業者がいるとも限りません。従って、ムスリム対応と同じく情報開示に徹し、お客さまの判断に委ねるしか方法はないと思います。

不安感を報じる国内外のメディア
 
こうした日本の状況を不安視する報道があります。Japan Todayは「ベジ・ヴィーガンの襲来、日本は訪日客4,000万人の食のニーズを満たせるのか(*3)」という記事で、「日本は豆腐や野菜料理が有名であるため、菜食メニューは豊富にあると期待するかもしれないが、実際はそうではないかもしれない」と評しています。

あるテレビ番組(*4)では、20年の訪日ベジタリアンの数が200万人になると報じました。日本を旅行中のベジタリアンへのインタビューも放送し、「(日本では)食事はギャンブルみたいな感じ」「ダシとかタレには魚が入っているから食事をするのが大変」「コンビニで梅干し入りのおにぎりを食べているわ」といった声が聞かれました。
 
こうした中、ソーシャルメディアでは、「日本は世界的なイベントに立候補する資格があったのか」といった疑問の声も上がっています。日本なりのスピードで進んできた食の多様性対応は、世界が期待するスピードに至っていないのかもしれません。
いずれにせよRWCまであと3カ月。東京五輪までは14ヶ月です。先月も申し上げましたが、観光立国ニッポンの大きな正念場が近づいています。

*1 インバウンドらぼ 2018年5月23日
*2 フレンバシー 2019年3月22日
*3 Japan Today 2019年3月30日
*4 テレビ東京「日経スペシャル 未来世紀ジパング」2019年1月30日放送

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。
https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2019/06/190625_sg.pdf



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