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30歳で急にボイトレに通いはじめたら生活がうるおった話。

コピーライターを辞めて無職の状態で、なんの実利もなさそうな「習いごと」に30歳になって通うことになるとは思っていなかった。しかも年に2、3回くらいしかカラオケにも行かないのに。どうしてこうなった。

こんにちは、こんばんは。
くりたまきです。

これまでボイトレに通っていることをnoteに書いてこなかったのは、
「はあ? 仕事なし貯金なし恋人なしのお前が今やること、それじゃないだろ?」
とツッコミを入れられたら、だんまりを決め込むしかないと思ってるからです。でも楽しいのでもう書きます。
まあちょっと、聞いてください。

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前職のコピーライターを辞めて、ちょこちょこフリーのライターとしてを仕事をして、失業保険が出るのを待って節約しながら暮らしていた年末のこと。納豆ごはんは最高の友だち。あなたなしでは生きてゆけぬ。

えーっと、きっかけは友だちが通っているボイトレの話を聞いたことだった。

彼女は数年前、以前の職場で人間関係に悩み、ストレスで声を発しづらくなってしまったことがあった。もともと好きだった歌で声を思いっきり出せたら、という気持ちでボイトレに通いはじめたのだ。「ああ、楽しそうにしているなあ、よかったなあ」と思いながら笑顔で彼女の話を聞いていた。

通っていること自体は知っていたのだけど、じぶんも通おうとは一切思ったことがなかった。

わたしが社会人になってから、これまで通ってきたいわゆる「習いごと」をちょっと見てほしい。

・コピーライター養成講座基礎コース
・コピーライター養成講座谷山クラス
・明日のライターゼミ
・ほぼ日の塾
・企画メシ

物を書いたり企画したりする、そういうことばっかりを学ぼうとしてきた。どれも仕事に役に立つなにかを得ようと通ってきた「習いごと」だ。

そうまでして少なくない習いごとに通いながら、自分でも勉強しながら、あがいてもがいて仕事をしてきて……去年、コピーライターの仕事を辞めた。

次の仕事をどうしようかなあ、っていうかどういう生き方をしようかなあ、と悩んでいたときに、ボイトレに通う友だちと会った。そのとき、ひょんなことからボイトレの先生の話になり、彼女の言葉に心が反応した。

「先生は結婚してて小さな子どももいるんだけど、ボイトレの先生をしながら、姿勢についての資格を取ったり、積極的にいろんなことをしてるの。わたしもあんな風にチャレンジする気持ちを持っていたいなって思う」

めっちゃすてきな人だ。

「その人に会いたい!」という気持ちで、友だち経由で体験レッスンを申し込んだ。歌を歌うことについては、あんまり深く考えてなかった。ただの直感だった。

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実際にスタジオで先生に会って、わたしは、びっくりした。

155cmのわたしより小さな先生は、たしか虎の大きく描かれたトップスを着ていた。クリクリした大きな目が輝いていて、明るい金髪のボブにはあざやかなピンクのインナーカラー。そしてトドメに、ゴリゴリの広島弁。「〜じゃけん!」と元気よく話す。

最っ高じゃないか。

友だちにあらためて感謝した。紹介してくれてありがとう、と。

初対面だったけど、しゃべればしゃべるほど、先生に惹きこまれた。

先生はわたしの話をなんでもおもしろがってくれた。これまでの仕事のこと、物を書くということ、梅干しや味噌を仕込むのが好きなこと、好きな歌というより好きな作詞家さんで聴く曲を選んでいること……。

「えっ、なにそれ! まきちゃん、めっちゃおもろい!」

大きな目をさらに大きくして、手を叩きながら、全身で笑ってくれる。こういう人に、もっと話したくなるんだよね。見習おう、と思った。

いろいろ話をしたあとで、2曲歌った。初対面の人の前で歌うなんて、大丈夫かなあと思っていたけど、ふつうに歌えた。まあいい大人の30歳だからかもしれないけど、先生が気持ちをほぐしてくれたからというのが大きかった。

「まきちゃんは素直ないい声しとるね」

音程は合ってるけど、リズムはちょっと早いところあるかな。とニコニコ話す先生。カラオケでも歌を採点することもないわたしは、誰かにアドバイスをもらうこともなかったので、新鮮な気持ちだった。

体験のあと、月に2時間、ボイトレに通うことを決めた。今の懐具合では出費は痛いけど、お月謝もそこまで高くはない。

歌のことはともかく、「この先生のことをもっと知りたい」と思った。

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気づいたのは、これまで、ながら聴きばかりしていたということだ。家でも鼻歌を歌うことさえなかった。家の沈黙や雑音を搔き消すために、音楽をかける。歌うぞ、と考えて曲を聴くことがなかったのだ。

歌うつもりで曲を聴くと、なんだか違った感覚に出会った。これまで聴こえてなかった音が聴こえてくる。

家で練習で小さな声で歌ってみると、なんだか気分が上がる。

そういえば、小さいころは、家でもどこでも歌ってたなあ。ふとそんなことを思い出した。声を出すだけで、気持ちよくて。音が外れてもどうでもいい、ただ純粋に、楽しかった。わたしが忘れていた自分に出会い直したような、うれしさがあった。

むかしの雑誌クウネルのインタビューの中に、こんな言葉がある。ずっと心に残っていた文章だ。

人の発声器官は本来歌うために発達したようで、話すための発声だけでは十分使いこなせないのです。たぶん人類は話すより先に歌っていたのでしょう。その意味で、器官を存分に使いきる歌は、からだのより深い部分に働きかける力があると思われます。

歌うことで、人間の深いところから、よろこべるんだなと実感した。

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2月から通いはじめて、まだ数回だけれど、楽しく「習いごと」をしている。先生は毎回笑って話してくれるし、曲のよさを深く知れるし、歌うことも予想以上に楽しい。

この「習いごと」がなにかの役に立つのか、と訊かれたら、胸を張って答えたい。

「すっごいね、生活がね、うるおうんだよ!」

いいじゃんね、それでさ。

さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。