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お気に召すまま

「おはよう。調子はどう?」

「うーん......まあまあ、てところかな」

「ちょっと元気ないね。ほら、僕を見て!」

「......ハハハハハ! そーんな笑わなくても! ほんわか通り越して可笑しくなってる!」

「ごめんごめん。ねぇねぇ、今日の朝ごはんはどうする?」

「そうねえ。エアコンつけっぱにして寝ちゃったから、あったかいカレー食べたいなぁ」

「うーん、カレーか......ごめんね、僕はカレーなんか作ってあげられないけれど......」

「そんなこと、全然いい。あなたがいてくれるだけで十分。今日の君の微笑みは特に最高。えくぼくりくり〜〜〜」

「へへへへっ。くすぐったいよう。......あ! 昨日、急ぎの仕事がある、て言ってたよね? こんな悠々としてていいの?」

「うん、ただの手直しの仕事だし、そんな切羽詰まるものではないよ。だからご飯食べた後はドライヤーとくしの二刀流で頑張る。綺麗にしてから行かないと」

「そっか。女の子は可愛くないとダメだもんね」

「そうそう。全くその通り」

「君の時間は、君がどんどん可愛くなるためにあるんだ。その証拠に爪がこの前よりも綺麗」

「よく気づいたね! 昨日、ネイルサロンに行ってきたの!」

「あと、起きたてなのに髪の毛もいー感じにくるくるしてて可愛い。蔦みたいにオシャレだね。パーマかけた?」

「蔦みたい......?」

「特にね、僕が気に入ったのは君の頭の後ろ。髪がくるくるした中で1束、ピンと上へ伸びてる。まるで君が空へ飛んで行ってしまうみたいだ」

「そ、そう......」

「なんか僕、君を傷つけるようなこと、言った?」

◇   ◇   ◇

 まずはの頭の周りをカッターで切る。髪の毛の生え際で切れるよう、左手に持ったものさしであてがう。一周すると、ヒートアップしたコンピューターが現れた。

 そしてそのコンピューターを油が流れるチューブで巻きつけて冷却。

 冷やしている間、女はPCとコンピューターを接続して、何らかのプログラムを怒涛の勢いで打ち込んだ。

 その作業がひと段落すると、女は再びカッターを手にとり、器用にの口の両端に切り込みを入れた。皮膚の下からステンレスのモーターが顔をのぞかせる。

「口角が上がり過ぎる美少年なんて、気持ち良い朝を迎えるのに良くないねえ」

 次に、こぎれいなクローゼットの下段からドライバー、裁縫道具をとり出した。そうして女は部屋の隅まで後進し、の全体を眺めた。

「私の時間は、あなたのためにあるの」

 

創作活動の促進のため、本の購入費にあてたいと思います。