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「切ってもいい」と言ってくださった先生


※この記事は「自傷行為(カッティング)」について書いたものです。
苦手な方や不快な気持ちになる可能性のある方、ご自身の自傷衝動に影響を及ぼしてしまう可能性のある方などは、閲覧をお控えください。





今年で24歳になる。
中学1年生の9月に初めて自分の左腕を刃物で傷つけてから、もうすぐ11年が経とうとしている。
今も左腕には定期的に新しい傷ができる。
ただ、新しくできた傷はそのほとんどが、時間とともに完全に消える。
新しい傷がない期間、私の左腕にあるのは、ほんの少しの、何年も前の傷跡たちだけ。



私は自分の手で自分の身体を傷つけるとき、一つだけ、全身全霊で意識していることがある。
それは、
“一生残る傷跡をつくらないこと”

つまり、
・できる限り深く切らない
・治っていない傷の上からは切らない
・傷跡が残りやすい部位や方向に切らない
・力加減がコントロールしにくい利き手と反対の左手で切らない
ことを意識している。


中学生の頃、教室にいるのがしんどくなって保健室で1時間過ごさせてもらうことが時々あった。
保健室の先生は、不必要に保健室に来る生徒には厳しく対応するが、本当に保健室を必要としている生徒には全力で寄り添ってくださる、メリハリのある芯の通った先生だった。
保健室では、先生と真剣に話したり雑談したりすることもあったが、基本的には、ただひたすら何もせずぐだっと座って過ごすことが多かった。保健室内で仕事をしている先生との距離感や空気感が居心地良く、1時間過ごすだけで必ず教室に戻れるくらいに回復していた。

そんな先生と、自傷行為について話したとき。
先生は、

「やめれるならやめるのがいいけど、簡単にやめれるものじゃないから、今やめなさいとは言わない。切ってもいい。切ってもいいけど、なるべく浅く切りな。いつかやめれた時の自分のために、傷跡が残らないように。」

と言った。
私は、「切ってもいい」という言葉に衝撃を受けた。
そしてこの先生からの言葉が、とてつもなく心に響いた。

ありがたいことに、私の周りには、私の行為に対して突き放したり傷つくほどに否定する人はいなかったが、やはり、「やめなよ」「切っちゃダメ」という言葉や空気感に溢れていた。
私自身も、そう言われることは当たり前だと思っていたし、やってはいけないことで、やめなければならないことだと思っていた。

けれど、初めて「切ってもいい」という言葉をいただいたことで、切らないと生きていけない気持ちを初めてわかってもらえた気がして嬉しかった。
とてつもなく安心した。
中学生の頃の私には、嬉しかったとか安心したとか、そういう自分の中に生まれた感情を感じ取るのに精一杯で、なぜこんなにも心に響いたのかよくわからなかったが、約10年経った今考えてみると、理由がわかる気がする。
きっと、先生のかけてくださった上記の言葉は、その全ての言葉に、私を肯定する意味が込められていると思う。

「やめれるならやめるのがいい」という言葉は、やめなきゃいけないと思っていた私を肯定している。
「簡単にやめれるものじゃない」という言葉は、やらないと生きてられない私を肯定している。
「切ってもいい」という言葉は、自傷行為をしている私を肯定している。
「いつかやめれた時の自分のために、傷跡が残らないように」という言葉は、自傷行為をやめることのできた未来の私を肯定している。



この言葉をかけていただいてから、私はできる限り傷跡が残らないように切るようになった。
時には、傷跡が残りやすい部位を切らざるを得ない場面があったり、衝動をコントロールしきれず傷が深くなってしまったりして、消えずに残った傷跡もある。
でも、先生のあの言葉があったから、10年以上傷つけ続けていても、傷が深すぎたことで問題が起きたことがなかったり、この傷跡の数であることは間違いない。



正直、今の私は、傷跡が残ることに対して抵抗がない。むしろ、”踏ん張って生きてきた証”として自分を支えてくれる時もある。
それに、自傷行為をやめることができた未来の自分がいるかはわからないし、その自分が残った傷跡に対してどう感じるかわからない。傷跡が残らないように意識してきたことに感謝するのか後悔するのかもわからない。

でも、それでも、私は、私の心に響き続けている先生の言葉を、信じようと思う。

中学生の私に、保健室という避難場所をくださり、いつでも同じ温度で寄り添ってくださった、そして、あの時の私と未来の私を肯定してくださった先生の言葉を、信じたい。
そう思わせてくださった先生に、心の底からの感謝を込めて。





ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


最後に。

この記事は、あくまで私個人の体験の一部であり、自傷行為についての賛否を表現しているものではありません。
自傷行為自体についてや、深く切るか浅く切るかについて、傷跡が残る残らないについてなどの良い悪いは、一概には言えません。
人それぞれの状況や心境、考え方、感じ方、捉え方などによって異なるものであり、また変化するものでもあると思っています。
自傷行為に関して、どのような意見をお持ちの方に対しても、否定する気持ちは全くありません。
そして、自傷行為を推奨するつもりも、抑止するつもりもありません。

ご理解頂けると幸いです。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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