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ミッドナイトライブラリー(マット・ヘイグ) 感想 人生についての「気づき」の作品であって「成長物語」ではない

母が古市憲寿がおすすめしてたよ!と教えてくれたので読んでみました。

著者はイギリス人。
イギリスといえば文学の国。英語は文学の言語!ですよね。
イギリス好き647としてはなかなかにアガる作品でしたが、感想を述べると「説教くさい作品。その割に中身が普遍的すぎる。翻訳本にしては文章力はあるので最後まで読ませる力はアリ。」といったところ。
めちゃくちゃ面白いかといわれると、「人を選ぶ。
ちょっとエッセイっぽいし。

私のようにポジティブシンキング楽観主義者の極みみたいなやつは多分好きじゃないと思います。
人生に辟易しているネガティブな令和の若者には受けるんじゃないでしょうかね。

古市憲寿こんなの好きなの?「奈落」の方が面白いから自信もっていいよ。(笑)といいたいですね。

あ、そうそう、洋書は得意ではないですが、本書は読みやすかったです。訳者が優秀なんではないでしょうかね。
しかし洋書の神は「アルジャーノンに花束を」「わたしを離さないで」のワンツートップですから、揺るがないですね。
(「アルジャーノンに花束を」は邦書を含めても私が一番好きな作品ですから)

あらすじ

ノーラは、飼っていた猫が死んで、家族とも友達とも疎遠、恋人はおらず、仕事は首になった。人生に絶望して自殺したらミッドナイトライブラリー(真夜中の図書館)=生と死の狭間に居た。そこでは本を読めば、人生の後悔をやり直せる、選択が違ったら歩めていたはずの人生を経験できる場所だった。
哲学者の引用と一応の物理学的説明でこの真夜中の図書館の存在を理由付けしながら、いろいろな”あったかもしれない”人生をやり直しているうちに、どんなに成功した人生でも幸せと悲しみがあり、幸せしかないなんてありえない、そして自身は本当はまだ生きたいと望んでいるのだと気づいて結局元の人生に戻る。(自殺したが、死を免れる)

感想

①「人生には楽もあれば苦もある」なんて当然のことを説教してくる

本作の著者は社会経験をした後に作家になったようですね。だからでしょうか。
「人生には楽もあれば苦もある」なんて当然のことを長~い物語(この本マジで長い!訳書だから邦書に比べて読みづらいにしても、完読まで6時間くらいかかった)を使って延々と説教してきます。
え、、、そんなこともわからない人がいるの?そんな人が本を読むかな?とすら思ってしまう。こんなライトメッセージならば、映像化した方がいいんじゃないか?
まあ、全世界で大ヒットしているようなのでどこかが映画化するでしょうけども。
理解できん。メッセージ性が本書の長所ではないとすれば……

②いろいろな人生を経験するという物語の部分は読めなくはない程度に面白い

本書の長所はいろいろな人生を経験するという物語部分の筆力ではないでしょうか。
ターニングポイントの、南極氷河調査隊に入って自然の広大さを知る→自身の悩みなんてちっぽけなんだと気づく話だとか、世界的ロックスターになっている話だとか、水泳のオリンピック選手になっている話だとか……。
一つ一つが短編の物語のように面白いです。ただ面白いけれども、どの物語もつまりは、社会的・経済的に大成功していても親・兄・親友が死んでいるといったような反動があり、リストカットしていたり……と単旬な幸せだけではないということ。本書の一環としたメッセージにつながるわけですね。

通常短編集などは、1つ1つの短い物語で、メッセージを変えることが普通だと思います。ですので、繰り返し同じメッセージの短編を読まされていると、よくもまあ何回も書けるな……という感じにはなります。
ただ、次はどこに”不幸せ”があるんだろうと考えながら読めるのでそれはそれでページを捲らせる動機になっていてうまい、とも思いますが……。消極的な動機だとおもいますけどね。

③なぜミッドナイトライブラリーに来てしまったか、という本書最大の謎の答え(オチ)がひねりもなく普通すぎる

そう、それでも最後まで読んでしまえるほどにこのオチが読者は気になるんです。
なぜミッドナイトライブラリーに主人公ノーラは来ているのか。そしてクライマックスで答えがわかるんですが、もちろんそれは普通だ、と647がこき下ろしているメッセージにつながっていて、「人生には楽もあれば苦もある、本当は生きたいと思っていることを気づかせる」ってことなんですけど。

いや、正直ね、やり直している時点でそういう感じかなっていうのは、気づくんですよ。読者としても。
けれども、なんていうかな、普遍的なメッセージでも大作ってあるんです。で、それがどういうことかというと、ひねりがあるかどうか、ってところだと思うんですよね。
で、あまりに普通のことをだらだらというもんだから、落ちには壮大なひねりがあるんだろうなと思ってしまうわけ。(むしろそれが作者の意図だったら褒めたい!!)

しかしあっさりと生き返って終わり。拍子抜けもいいところですよ。
捻りも何もない。そのまんまなんです。

これはいくら自称天才編集の647でさえいい校閲ができないレベル……。
このありきたりなメッセージを落ちでどうひねればいいのか、っていうのが作者の力量だと思うから、ゼロに何をかけてもゼロでしかないように、どうしようもないとしか言えない。

④本書は人生についての「気づき」の作品であって「成長物語」ではない

物語の途中で、ノーラのほかにもミッドナイトライブラリーみたいな生と死の狭間で人生をやり直しているヒューゴという男性が出てくるのですが、司書が彼は「特別」だと言っていました。ただ、なぜ彼が特別なのかというのは最後まで明かされません(マジでこれは謎)
でね、この同様の状況にいるヒューゴとちょっと恋に落ちかけるんですよ。

たとえばですが、(私としてはね)、このヒューゴと真の恋人になることで、人生をやり直すとかそういう落ちの方が機転が利いていて面白かったかなと思いますね。
ヒューゴはノーラよりも何回も何回も人生のやり直しをしている設定です。ノーラはヒューゴと会った後に何回も何回も人生のやり直しを繰り返していき、ただ途方もない虚構のような空白感に襲われます。”コレジャナイ”感ですね。本書内では、ミッドナイトライブラリーで”迷う”という表現をしています。

実際の物語でも、ノーラが最後にやり直しする人生の中で愛が重要だと気づいて、そこに苦があっても、愛さえあれば……ということで生き返るわけですが、それが普通だっつってんだよ!になっちゃうから、あえてこのヒューゴ側と……ってほうが機転が利いているんでは?とか思っちゃったね。その方がおもしろいかも、若干ラブはいるし。

そうか、今書いてて思ったけど、この物語、何も解決していないんだ。
生き返ろう!と決意、気づきはあるものの、生き返った人生はこの物語の先にあることで語られておらず、物語の中でノーラは何も解決していない
アニメ的に言えば、「ノーラの冒険は続く!」って感じですね。
だからすっきりしないんですね!!

もしお互いに”死にたがり”のヒューゴと真の愛(生きがい)を気づいていくという方向に物語のかじを切っていれば、ノーラが成長するところまで物語で描けるから(647的に好みの)素晴らしい作品になる気がするね!

まとめ

結局大ヒット作品は、映画と同じように、最後まで読ませる筆力がとても重要だと痛感しました。どんな平凡なメッセージでも、落ちが普通でもとにかく読めるならば、小説家としての才能アリってことなんですよね。
筆力さえあれば、あとのメッセージのところは、どうとでもなる、と。
そう感じました。

私はあまり好きではないですが、読んでいて勉強になるので(哲学者の引用も多く)読んでみるのはいいのかもな~とは思います。

私は訳書の表現がわりかし好きですので、うなった部分をメモっておきますね!

「いつだって母はノーラのことを、まるで大急ぎで糺さなければならない重要な間違いみたいに扱かった。」
「あなたが死に向かうのではないの。死があなたのところにやってくるの。」


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