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元彼の遺言状 感想 主人公の成長をサスペンスを通して描いている

「元彼の遺言状」を読みました。高知に帰る飛行機で、暇だろうなーと思って帰る当日に本屋で購入しました。ドラマ化している話題作(といっても2クールくらい前ですが)なので目立つところにあったので。&母にお勧めされたこともありまして。

一言で言うとめちゃくちゃ面白かったです!私好みの作品!
ミステリに大別されますが、私好みの、ということでピーンときた方いますか?そう、この本のメッセージは、ミステリに主軸はないのです。主人公の麗子という強気な女性弁護士の成長物語なんです。647が好きなはずですよね!

作者の処女作らしいのですが、この作者、同世代であり、女性。そして経歴がすごすぎる!東大法学部卒業の弁護士、しかも元プロ雀士。頭の良さを経歴が証明しているとはこのことですねえ。
「元彼の遺言状」の主人公も弁護士ですので、納得でもあります。
主人公麗子の考え方、真理をついているんですよね(と言うか私の考えに近い)

あらすじはと言うと、金が好きなエリート弁護士麗子はチームプレイができないことを理由にされたボーナス減額に腹を立て弁護士を一時休職。むしゃくしゃして元彼に連絡を取るが、その彼が死亡しており、実は製薬会社の御曹司。遺言状には「僕を殺した犯人に遺産を相続する、犯人が見つからなければ株式は国庫に帰する」とあった。金が好きな麗子は、遺産である株式(資産額150億)を手にするため元彼の親友の代理人となり、親友を犯人に仕立て上げようとする。しかし結局元彼がこの不思議な遺言を残した理由を探ることになり、オチとしては反社会団体に関わった株式を国庫に帰するための壮大な計画であった。

とこれは、物語の表面上の物語です。
私は作者のメッセージはこう読み解きました。

麗子はこの事件を通して自分が「金が好きなのではなく、金で何かを得たいために金を稼ごうとおもっていた」ことを思い出す。
金が好きだといったら下品だと思われる。しかし好きなものを好きだといって何が悪いのだ、と麗子は自分の信念を曲げない正義感がある。しかし、多忙な弁護士業務に追われ、社会に揉まれる中で、周りに流されまいと「金が好きなことを他人に批判されたくない、流されたくない」「人を救うこと=正義ではない、クライアントの要望を叶えること=弁護士としての正義だ」と意固地になっていた。しかし本来の自分の意思を思い出し弁護士としてクライアントの要望を叶えることが、人を救うことにもつながるのでれば、それを拒否する必要もない、と思い出す。そして法のもとでは誰もが平等に扱われる、金が好きな自分でも法の下では関係がないのだ、だから弁護士になったのだ、と思い出し、すこし成長する。

エリートでなんでもできると、成長しづらいですよね。麗子は聡明で賢いですがまだ自分が何になりたいのか、探している最中なんですよね。そして、元彼の遺言状の事件を通してそれに気づく。忙しい弁護士業務の中で忘れそうになっていたのは目的。つまり金を稼ぐと言う手段が目的になってしまっていた自分自身の状況に気づき、成長する、そんな物語だと読み解きました。

全体の流れやメッセージはこのような感じなのですが、この作者の考え方にとても共感できるなあと私が感じた一節を少し紹介して感想を終えたいと思います。

元彼の親友のお坊ちゃんに対する一説。

「栄治との付き合いの深い篠田のほうがショックは大きいはずだ。それにもかかわらず、最初に私への気遣いを口にするところに、育ちのいい人間特有の心の美しさを感じて、逆に窮屈な気分になった」

うーん、これは言い得て妙。真理ですよね。
金持ちの心が綺麗なのはその余裕から。
美しくあるためには猶予が必要なんですよね。
でもそれは彼が決めて得たものではなく環境がそうさせたのであって、彼自身が努力して得た美しさではないわけだ。それを汲み取って麗子はあまり良い印象を述べていない。
主人公の高潔で強い意思を持った性格を表した素晴らしい視点だと思います。

そしてもう一つ。自分を待たせた製薬会社の役員たちに向けたこちらの一節。

「エグゼクティブに限って、目下の者の時間を奪うことに遠慮がなかったりするものだ」

これも皮肉が効いていて私は大好きですね。待たされるのは嫌うが待たすのは平気である。自分はそうはなりたくないなと言う意思すら感じさせる力強い一文だと思います。

なんというか、言葉って、言葉以上の意味・感覚を持つんだな、と感じますね。言葉尻一つで印象が変わる、と言いますか。この文一つ一つからひしひしと伝わる麗子というキャラクター描写が、私はとても好きでした。

主軸であるミステリー部分のストーリーに関しても非常に作り込まれていて面白い作品だったので、ぜひ、お勧めしたい一冊です。

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