今年度の体育を総括する
1年間の学級が終わりを迎えた。今年度は昨年度と同じ学年を持ちあがったが、クラス替えもあって初めての子と2年連続の子がシャッフルされた学級だった。この1年間も私の実践の中心は体育にあったが、子どもたちは何を感じていたのだろうか。また、今年度は5年生担任だったので、新体力テストの全国統計の対象でもあった。スポーツ庁から返ってきた自校の結果も非常に興味深い結果を示していた。さらに最終日の子どもたちへのアンケートも含め、結果から見えてきたことをまとめてみる。
1.今年度の主な体育実践
まずは、今年度1年間の主な体育実践を以下に並べる。
・体つくり運動(Twitterで紹介したゲームを中心に)
・BASEBALL5(下記リンク参照)
・プール(3年ぶり・水慣れやゲームを中心に2時間×2回実施)
・ラインブレイクゲーム(下記リンク参照)
・バレーボール(下記リンク参照)
・駅伝・ランニングゲーム(下記リンク参照)
・ハンドボール(下記リンク参照)
2.体育授業の満足度
これらの実践を総合して「体育授業」に対する満足度を学級35名(男子16名・女子19名)にアンケート調査した。5段階リッカートスケールで、「5=とても満足」~「1=全然満足していない」で回答を得た。結果は以下のとおり。
今年度も圧倒的な満足度を得ることができた。昨年度の学級では平均4.67であり、同様の結果が得られている。男子の満足度は驚異的だが、女子の満足度もここまで高いとはうれしい。学級が始まった4月の段階で、体育へのイメージが「1」だった女子がいたが、年度末のアンケートでは「4」を選んでくれていた。
さらに、スポーツ庁の新体力テストのアンケートの結果を以下に示す(スポーツ庁のアンケートは4段階で、「1=最高評価」~「4=最低評価」となっている)。これは学年集計の結果だが、2クラスの学年のため、昨年度も含めれば学年全体の4分の3は私の体育を受けたことになる。
特に体育への「イメージ」を聞いた質問を抽出してみると、私の体育を受けた子どもたちは非常によい印象を体育に持てていることがわかる。統計的な有意差の検定はしていないが、明らかに「一般的」な数値ではないといえるだろう。一方で、ネガティブな評価が全国平均より高いものもある。これは、①まだ私の体育を受けていない4分の1の児童の中にいる体育嫌いな子の回答、②昨年度のみ私の体育を受けた4分の1の児童が、体育授業が”元通り”になってしまったことによるイメージダウン、の2つの可能性が考えられる。
3.なぜ満足度が高かったのか
なぜこのような男女とも高い満足度が得られたのか。その理由を聞く質問への回答から、男女それぞれの傾向が見つかった。
ほぼすべての選択肢が全国平均と同等かそれよりも高い割合だったが、特筆すべき項目をしぼるとこのようになる。男子は運動すること自体がとても好きであり、さまざまな運動課題へのチャレンジやその達成に大きな満足を感じていると考えられる。一方で、女子は男子ほど運動課題を「達成すること」には意欲的でなく、友達とのコミュニケーションや主観的な運動有能感の高まりがポイントになっている。
「いろんな種目」は私が常に意識していることであり、特に体つくり運動系のゲームはほぼ毎回新しい種目を用意している。以前数えてみたところ、おにごっこ系ゲームだけでも20種類以上、ボール系やその他の運動ゲームを合わせたら1年間で60種類以上のゲームを、子どもたちに体験させていた。できない運動を「またあれをやるのか」と不安になる場面はほとんどなく、「今日はどんなゲームが待ってるんだろう」「うわ、それおもしろそう」という感情が常にわいてくるような体育を心がけてきたことが、成果とつながっているとわかった。
4.教えていないのに「上手くなった」と実感できる授業
もう1つの大きなポイントは、男女ともに「上達」を実感して満足度が高くなっていることである。しかし、驚きなのは「私は授業中にほとんどスキル面の指導をしていない」のに、この結果が得られたことである。これは私の軸となる授業スタイルの1つでもあるので、意識的にスキル指導やドリル練習の時間を設けていないのだが、なぜ子どもたちは上達を実感できたのか。ある質問から興味深い結果が見つかった。
男女とも同じ3項目で特に高い割合を示していた。そして、どれも私が「意図」していた要素である。「自分に合った場やルール」とは、言い換えれば「全員が同じ土俵に上がれる」ことであり、「一人ひとりに合った土俵が用意されている」わけではない。私はどんなゲームでも常に「全員が不自由なく参加できるか」を考え、場合によってはルール作りを子どもたちと一緒におこなってきた(ラインブレイクゲームやハンドボールなど)。運動に自信がない子でも活躍できるチャンスが必ず保障されている授業を作ってきたことがつながっている。
そして、2つ目の「人の真似」は、ほとんどが子ども同士のものである。私はおにごっこ等のゲームに一緒に参加することはあるが、スキルを「演示」する機会はほとんどない。何度もゲームをくり返す中で子どもたちがよい方法や作戦を見つけ、それを自然とナレッジシェアできているのだと思う。また、3つ目の「動画の振り返り」はまさにSPLYZA社と連携した実践の賜物である。この実践は自治体の実践論文で大賞を受賞し、県の紀要にも掲載されることとなった今年度を象徴する実践であるが、動画分析によって子どもたちが互いに「学び合い」を進めていく授業モデルとして新しい可能性を切り開いたものだった。
動画分析や互いの発見をシェアする環境を整えることで、担任が教えないのに、子どもたちは「上達」を実感して高い満足度につながるということが、今回の調査からも示された。
5.次の課題はどこにあるか
ここまで成果を多く並べてきたが、一方で体育の満足度やイメージが悪い子も一定数いることがわかった。その子たちの理由もまた、ある傾向を示していることが分かった。
男女とも体育に対する「不安」は、「友達と比較されること」だとわかった。しかし、楽しい理由もまた「友達と一緒にできること」が全国平均よりも高い割合となっている。つまり、自分の運動に自信のない子が、周りと比べることで一方的に劣等感を感じてしまっていることが考えられる。
これまでの考察からも、チーム対抗戦やみんなで一緒にゲームをくり返すことで、否応なしに互いの動きをみる機会をつくり出し、そこから学び取ることが習慣化されていることがわかった。それがポジティブに機能していることも十分見えてきたが、一方で劣等感を生み出す原因になっているとも考えられる。「自分の能力を高めること」「先生にほめられること」が解決策にはならないということも、これを裏付けているだろう。
多くの授業ではみんなで楽しい雰囲気をつくることができていたが、だんだん加熱してくると勝負にこだわるような空気になる場面もあった。成功や勝利を目指しながらも、互いのプレーをたたえ合い、温かい雰囲気で体育ができることが一番の解決策になると思われる。その環境づくりをすることが、担任としての最重要ミッションなのだろう。
今年度の体育は、学級アンケート、自治体の生活学習状況調査、スポーツ庁の運動習慣調査のすべてにおいて圧倒的な高評価を得ることができた。このような客観的なエビデンスをもとに、来年度もさらなる体育のアップデートに精進していきたい。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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