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「常識破り」は褒め言葉なのか?

将棋界のニュースター藤井聡太七段が今注目を集めています。
彼は史上最年少でのタイトル獲得を懸けた試合で、対戦相手はおろか解説や師匠、すべての将棋ファンを驚かせる独創的な将棋で勝ち星を重ねています。

そんな彼の”奇策”とも呼べる一手を、多くの専門家が『常識破りの一手』と呼んでいます。私は将棋に関してはルールを知っている程度で戦術・戦略はまったくわからないので、彼の一手がいかにすごいのかもよくわかりません。ただ報道を見て感じるのは、彼の戦評をする専門家たちが、彼の打つ将棋に興奮しているということです。

いったい何がそんなにすごいのか?少しでもそれを知ろうと、専門家の解説を注意深く聞いてみました。

セオリー(常識)とは違う

将棋は、9×9の盤上に互いに8種類20枚の駒を並べます。8種類それぞれに動き方が異なり、相手の駒と同じマスに動くと、その駒を奪うことができます。奪った駒はそのまま自分の駒として使用することができ、最終的に相手の「王」を奪えば勝利となるゲームです。

盤上では、相手の王を奪いに行く「攻撃」と自分の王を守る「受け」が同時に繰り広げられます。8種類の駒はそれぞれ動き方が異なるため、攻撃・受けそれぞれに「適した」特性を持つ駒がその役割を担います。受けに回る駒は攻撃してはいけないというルールはありませんが、攻撃には適さないとして受けに活用することを”戦略的に”行っているということです。私はスポーツが好きなのでよくスポーツに例えて物事を考えますが、サッカーのように攻撃役(FW)と守備役(DF)に分かれ、自陣のゴールを守りながら相手のゴールを奪いに行くような構図と捉えました。

そして、多くの将棋プレイヤーが倣う「常識」として、攻撃に使う種類の駒と受けに使う種類の駒という区分があるようです。例えば、「銀=攻撃」「金=受け」のように駒の種類で役割を決めることが一種のセオリーになっています。

そんな中で多くの専門家を(もちろん対戦相手も)驚かせた藤井七段の手が対局中に2度ありました。それは、金に攻撃をさせ、銀で受けをするという戦法でした。サッカーでもDFが攻撃参加したり、FWが守備をすることはよくあるケースですが、将棋素人の私にはそれがどういうことなのかわかりません。ただ、専門家たちのリアクションがその異例さを物語っていました。

そもそも「常識」って誰が決めたのか

それよりも私が気になったのは、専門家たちのいう「常識」とはいつ、どのように生まれたのかということです。これは将棋の世界に限らず、すべての社会に置き換えられる話だと思います。

常識とは、ある社会で、人々の間に広く承認され、当然持っているはずの知識や判断力。共通感覚。

と辞書に定義されています。すなわち、「金は受けで使って”当然”」「銀は攻撃で使って”当然”」というのが将棋界では大多数の人が持つ共通感覚ということになります。おそらくこれは、ゲームの勝利という目的を達成するために合理的であるという結論が”経験的に”得られたのだと思います。長い将棋の歴史の中で、多くの人がその戦略を用いて勝利をつかんできたからこそ生まれた一種の「パラダイム」です。

「常識」とは、個人の主観的な判断が長い時間をかけて多くの人に共有され、いつしか客観的なものとして認められたものだといえます。言い換えれば、「常識」は客観的とされていますが、数多の主観の結晶であるということです。たとえどんなに偏った見解だとしても、その社会で多数派になればそれが常識になります。それに対抗する新たな選択肢が登場しない限り、疑いもなくその見解を信じるでしょう。

「常識破り」は褒め言葉なのか

では、藤井七段に向けられた「常識破り」という評価はどのように捉えればよいのでしょうか。勝利した者に対する評価であること、そして専門家の興奮からして”褒め言葉”であると推察するに難くはありません。しかし、「常識を破った」から褒められたのではなく、「勝った」から褒められたにしかすぎません。

彼が「常識を破って」将棋界に与えた衝撃は計り知れないでしょう。彼の戦法が「トレンド」となり、それが「セオリー」となり、パラダイムシフトを起こして「新常識」となるかもしれません。でもそれは、彼が”新しい”発想で成果(=勝利)を出し続け、それが他の人でも再現できることが必要になります。

もし彼の「常識破り」を真似した人が勝負に敗れたらなんといわれるでしょうか?同じように「常識破り」と言われるでしょう、違う意味で。
勝者に向けられる「常識破り」は褒め言葉で、敗者に向けられる「常識破り」は非難の言葉になるのです。その非難を避けるために多くの人が「常識」に身を委ねます。だからそれによってどんどん「常識」として根深くなっていくのです。

「新常識」を創り出せ

今社会が大きな変革の時期を迎えています。あらゆる業界の「常識」を見直し、「新常識」を創るには最高のチャンスです。ここで気を付けなければならないのが、前述のとおり常識=多数派ということです。

ある業界に戦略Aが常識として存在するとします。それを変えるために、各所で新しい試みが始まりました。しかし、戦略Bをとるところもあれば、戦略C、戦略Dをとるところもあり…とバラつきがあっては、いつまでも少数派のままです。これではいつまでも「戦略A=常識」の構図は崩れません。まさに今の日本の国会がこの状況です。

「新常識」を創り出すためには、多様なアイデア出しをした後、どこかに統合しなくてはなりません。あなたが変えようとしている古い常識を打ち破るには、新しい考え方や方法が”多数派”となるように働きかけることが必要になります。まずは自分が所属する組織の「常識」から変えていきましょう。信頼できる仲間とともに、非難を恐れず新しい発想で「常識破り」をしてください。そして、必ず成果につなげましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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