マガジンのカバー画像

New体育論-Management Perspective-

49
小学校で体育を指導しながら、スポーツ産業のマネジメントを学んだ私が、スポーツが発展するためにあるべき体育の姿を様々な切り口から解説するシリーズ。これまでにはなかった「新しい体育の…
運営しているクリエイター

#学習

体育は「study」か「play」か

体育をなんとかしたいと考えている教員はとても多い。積極的に研修に参加して専門性を高めようとしているモチベーションに満ち溢れた教員は、体育にとって希望の光である。私もその中の一人だが、いざ研修会に参加してディスカッションをすると、多くの場合で次のような質問がとんでくる。 「評価はどのようにしたらいいのですか?」 「学習カードはどのように活用していますか?」 「楽しい体育にしたいけど、どうしても技の指導もしなくちゃいけなくて…」 非常にまじめである。まじめといえば聞こえはいい

体育における学習者の「解放」

このマガジンでは、体育に関連する具体的な実践だけでなく、しばしば哲学的なテーマで考察を展開してきた。「中動態」や「エトス(ethos:倫理)」、「贅沢」といった概念を参照しながら、体育授業における新たな可能性の模索をしている。本稿もそのようなやや哲学的なロジックを書き綴った文章になるだろう。今回のテーマは「解放」である。 学習者を「解放する」とは本稿の中心的な概念となる「解放」は、ジャック・ランシエールの『解放された観客』で提示されたものである。そもそも「解放」という語には

体育の「評価」に関する一考察

このアカウントやTwitterの同名アカウントでは、普段から「楽しい運動体験」を前面に出した体育に関する情報発信を続けている。それらの視点やヒントはもちろん私自身の体育実践にも反映され、児童や保護者、同僚からも比較的高い評価をいただいている。アカウントのフォロワーが増えたり、私の情報発信を参考にしてくださっている方々が多くなったりすることは大変うれしいことであるが、それと同時に「これってどうやって評価するんですか?」のような質問も多く寄せられるようになった。 これに関しては

なぜAIを育てることを「教育」といわないのか?

近年AI(人工知能)の発達が予想をはるかに上回るスピードで進んでいます。AIが人間の知能を上回る「シンギュラリティ」と呼ばれる状態が、かなり近い将来に現実となると主張している研究者もいます。 そもそもAIは、入力されたデータからある法則を導き出し、方程式(アルゴリズム)を作り出していくものです。アルゴリズムという”道筋”が一度できてしまえば、人間が計算するよりも圧倒的に速いスピードで計算ができてしまいます。さらに、入力データが増えると、自動的にアルゴリズムを修正し、その精度

運動体験と学習の2つの関係

A:おに遊びをひたすら夢中になって楽しみ、無意識に走る経験を重ねていたら、いつの間にか50m走のタイムが縮んでいた。 B:足が速くなることを目指し、走運動の基礎練習を意図的に積み、結果として50m走のタイムが縮んだ。 あなたが体育やスポーツの指導をするとき、どちらの運動体験をより重視するだろうか。A・Bどちらも「50m走のタイムが縮んだ=足が速くなった」という結果は同じであるが、そこに至るまでの過程や理念は全く異なるものがある。本稿は、両者を対比することで、読者の運動指導