最後に残した苺、をめぐる考察

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春田に恋している四宮要が好き!という方向けの記事です
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春田創一は四宮要に対して、本当にフラグが立たなかったのか?・・を、考察する。

※再注意!!:これから書く内容は「春田が好きな四宮要が好き!だけど本編も役者さんの解釈も、全く四宮エンドにかすりもしなくて悲しいよね!」という方の為に書く考察です。成瀬とのカップリングを喜んでいる方が読んで、「それは春田中毒の四宮病だよ?思い込みなんじゃない?」という意見は受け付けません。だって私が苦しいんだもの!・・・よろしくお願いいたいます。

 前回の考察で、繰り返し四宮要は「片想い要員」であり、初めから春田創一との恋愛は一方通行だった・・という考察を書かせていただきました。確かに本編をみても公式本を読んでも、役者さんのインタビューを読んでも、春田創一から一度として四宮要に対する恋愛フラグが明確に描かれている所はありません。ですが・・同じキャラクターを愛する同志よ、春田創一と四宮要のエンディングを最終回まで信じて画面に釘付けになっていた友よ。二つほど私の心に引っかかる疑問点が、春田の心の可能性を示している気が致しますので、下記に記します。

1.春田にとって四宮要は、本当に全く恋愛対象にならなかったのか問題

 なぜタイプの全然違う成瀬や武蔵が恋愛対象となり得たのに、四宮は恋愛対象外なのか・・・?4話の卓球シーン直前まで、あれほど四宮に対するスキンシップが多かった事を考慮すれば、「生理的に受け付けられない」という答えは、まずあり得ないでしょう。
それではなぜ、ダメなのか?理由は二つ考えられると思います。

まずは四宮側の問題。5話の終わりに四宮は春田に告白をしていますが、非常にさらりと軽いトーンでの告白でした。いきなり重い愛情を提示して引かれないように・・という四宮なりの配慮なのかもしれませんが、春田→成瀬の10分の1、成瀬→四宮の50分の1、武蔵→春田の100分の1にも満たないあっさりした告白で、春田の事がどれくらい好きかという表現に至っては、ほぼ皆無でした。しかし心のうちに秘めていた情熱は、武蔵に勝るとも劣らなかった筈です。無数のスケッチに秘められていた情熱をおくびにも出さず「お試し7日間」を過ごした四宮は、最初から試合放棄していたといってもいいでしょう。つまり春田が四宮を恋愛対象として意識する機会がなかった為に、恋人として付き合うイメージが湧かなかったのが敗因の一つだと思われます。

 次に春田側の問題。成瀬に対する恋愛感情が一番盛り上がっていた直後に、四宮からの告白を受けてしまった間の悪さもありますが、一番は春田の性格設定によるものが大きかったと思われます。
 1話の緋夏との会話で「高校時代にスタメンを譲ってしまう優しい性格」、前職のリストラ理由が「職人さんの代わりに自主的に会社を退職」と描写されていた部分です。この設定が本編中どこで生きるのか(例えば「誰かのために勝ちを譲る」「競争するのが苦手で手柄を譲ってしまう」等)と思って視聴していたのですが、この設定に絡めたエピソードは最後まで特に思い当たるものがありませんでした。

 そんな中で唯一、当てはまるとかも?と思えた部分がバッティングセンターのシーンです。成瀬から四宮へ注がれる熱視線を目の当たりにし、何故か春田の恋愛感情は急速に弱火になります。普通なら5話で見せたような激しい嫉妬の一つも起こすところですが、そういう気配は全くありませんでした。その後、七日間の終わりに四宮を振った直後、その足で成瀬に事の次第を報告し、背中を押すテラスシーンがありました。それを初めて見た時にはとても違和感があったのですが、よくよく第一話の「誰かのために身を引いて、応援する」という春田の基本設定を思い出すと、すべて説明がつくことに気が付いたのです。

 つまり春田は成瀬の恋心を知った時点で、「成瀬の恋を応援する」という心理スイッチが入ってしまったが為に、自分自身の成瀬への恋心は弱まり、同時に「シノさんを恋愛対象としてみる」という選択肢が、心の中からすっかり無くなってしまったのだという事が分ります。

 以上のことから春田が四宮を恋愛対象として見られなくなったのは、四宮の恋心アピール不足および春田特有の性格設定のためであり、本当に四宮が恋愛対象外だったかどうかは分からない春田のセリフを額面通りには受け取れない・・という事がわかります。

2.第3話の素晴らしいピアノシーンはなんだったのか問題

 春田と四宮の美しいシーンの中でも、筆頭に挙げられるピアノシーン。母校に春田と二人で訪れ、出張授業を行った後に四宮が夕焼けの音楽室でピアノを弾くシーンは、本編中でも屈指のロマンティックな場面です。勿論私も大好きなシーンですが、8話で武蔵を選ぶ春田を視聴して以降、このシーンの存在に頭を悩ませてきました。

 3話と言えば本来は、成瀬と春田が急接近する回です。この後も春田が成瀬への恋を自覚する5話までに、彼が成瀬への恋に目覚める描写が優先されるはずなのに、どうして片想いの四宮のシーンをあえていれたのでしょうか(四宮ファンとしては、大変おいしい場面ですが)?

 基本シナリオというものは、場面と場面の連なりから出来ています。そして一つ一つの場面は、互いに作用しあいながら時間の流れを作っています。コントをつなげたオムニバスの台本は別として、通常それぞれの場面は必ず前後どこかのシーンの「原因・過程・結果」のいずれかに当てはまります(※)。

※笑いをとるために、スポット的に入る短いコメディシーンは除く

 例えば1話の春田が寝坊するシーンは、ミーティングに参加できないシーンの原因であり、ミーティングに遅れたという理由から機長は春田の搭乗を許さず、困った春田は四宮のアドヴァイスを受けて自分にできる仕事を探した結果、キャビネット掃除を烏丸から任され、そこで自分の絵を見つけてしまう・・というように、各シーンは相互に作用しあいながらストーリーを紡いでいきます。

 一見、無関係にみえる場面も、実は後々のシーンのきっかけになっていたり、遥か以前の原因による結果だったりします。キャラクターの性格やクセが描かれた場合は、のちの出来事のリアクションや選択に影響を与える意味がある、と思ってまず間違いありません。

 特に「おっさんずラブ in the sky」のように話数が短く、1話あたり40分程度しか本編のない作品には、無駄なシーンが一つもないといっても過言ではないでしょう。

 しかし、このピアノシーンだけは「原因・過程・結果」のどれにも当てはまりません

 初めてドラマを視聴した時は、「人を好きになる資格はない」という四宮の心の傷の「原因」として、高校教師との恋を描くために入れたシーンかと思ったのですが、実際の四宮の心の傷は離婚が原因であることが5話で判明しました。

 ならば春田へ恋をする四宮の想いの「過程」を描いたシーンでしょうか?それも的外れな解釈です。なぜなら四宮はすでに春田に対して、重い恋心を抱いているという描写が1話&2話ではっきりと描かれています。重複する内容を描くのはシーンの無駄ですので、この場面は「過程」の描写でもありません。

 さらに言えば学校訪問~ピアノシーンが、前後のシーンの原因や結果になる事もありません。なぜなら完全に春田と四宮2人だけのイベントのため、交互に描かれる武蔵&成瀬や緋夏ちゃん&CAのお姉さまシーンに何ら影響を及ぼしていないのです。二人で学校訪問したことは緋夏に報告しただけですし、学校訪問が武蔵や成瀬に知られて嫉妬される描写もありません。ピアノシーンに至っては、誰にも知られることのない二人だけの思い出です。

 つまり俯瞰してみると全8話の本編の中で、このピアノシーンだけが他のキャラに絡まず、完全に独立して浮いているイベントなのです。

 唯一考えうるのは四宮エンドへミスリードするため、なのですが1話40分程度の尺の内、ほぼ5分をかけて描くほどの内容をミスリードに費やすことはおそらく無いでしょう。せいぜい長くても1分、残りの4分はメインヒロインである武蔵や、春田が好意を向ける成瀬とのシーンに重きを置くのが普通です。

 するとやはりどう考えても学校訪問~ピアノシーンは、「春田が四宮を恋愛対象として意識しはじめる」または「恋心をぼんやりと抱く」という、春田の内面変化の「原因」および「過程」のシーンとしてしか解釈ができないのです。

 演出も春田が音楽室に入り、四宮を見つけた瞬間からスローモーションで撮影されています。スローはまさにその人物が、実際の時間よりもその瞬間を長く充実したものとして受け取っている表現、感動やトキメキに多用される演出です。

 つまり3話の学校訪問~は確実に春田と四宮の関係性が変化するエピソードの筈であり、ピアノシーンはシナリオ的にも演出的にも恋が生まれる瞬間を描いていた訳です。通常のドラマならば本編中、フラッシュバックで何度も繰り返し挿入されてもおかしくないシーンではないでしょうか?

 そう考えるとやはり春田は無意識に、四宮に対して友情以上の感情を抱いていたと解釈するのが自然です。
 ただタイミングの問題、互いの状況が掛け違ってしまった為にその淡い恋心は意識されることなく、春田と四宮のエンドは幻になってしまった‥と、考える余地はあるのではないでしょうか?

 そして本編終了後も続く彼らの人生の中で、掛け違ったボタンを正しく留めなおす瞬間がくるかどうか?‥その先の未来を想像する余白を、「おっさんずラブ in the sky」はふんわりと残してくれた終わり方だったと思うのは、私だけでしょうか・・?

(了)

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