ラストは暗示されていた!?公式画像から読み解く「おっさんずラブ in the sky」の世界
昨年11月2日からテレビ朝日の土曜ナイトドラマ枠で放送されていた「おっさんずラブ-in the sky」。毎週ラスト数分で視聴者の予想を遥かに上回る展開が繰り広げられ、その驚きは最終回での予想外のカップル誕生まで持続されました。あまりの驚きに一部SNSでは「あのラストは想定外すぎる。外部からの恣意的な力が働いたのでは?」という陰謀論まで巻き起こりました。
本記事ではその「ラストが変えられた」という意見について、公式サイトのTOP画像を絵解きすることで、反証を示して見たいと思います。但しこれは筆者一個人の経験に基づく推論ですので、悪しからず。
まず不動産を舞台に恋愛バトルが繰り広げられた、「おっさんずラブ」公式サイトのTOP画像からご覧ください。
「おっさんずラブ」Season1(以下、S1)の画像は主人公である春田をセンターに、1歩下がって向かって右に武蔵、左に牧が配されています。武蔵の前に出ている右足は春田の方へつま先が向けられ、牧は左足つま先が春田に向けられています。つまり主人公・春田に向けて二人の気持ちが踏み出され、三角のフォーメーションを作っています。公式のTOP画像は立ち位置で3角関係を表していたわけです。
さらに武蔵のポーズを見てみましょう。左手でジャケットを握り襟を開くような仕草になっています。これは①左手の結婚指輪=既婚者であるという属性を表すと共に、②相手を懐に入れる包容力とオープンな性格を表しています。胸のチーフが赤色になっているのは、おそらく武蔵の熱い情熱の表現でしょう。
今度は牧のポーズを見てみましょう。両手をポケットに突っ込んでいます。手を隠すポーズは一般的に「本心を隠す」「警戒心が強い」と解釈されるポーズです。手の表情を明かさない「両手をポケットに入れる姿」は、心に壁を作っている性格のキャラクターに多用されます(照れ屋、という表現もあります)。実際の演技でもそれまでの話題を変えたい、本心を隠して建前を話したい・・といったシーンで役者さんが取りやすい仕草だと思います。淡いアイスブルーのネクタイは知性、そして傷つきやすい臆病な内面を表しており、武蔵の情熱の赤いチーフと正反対の色になっています。
そして本作の主人公・センター位置に立つ春田はジャケットを大きく開き、左足を踏み出すポーズをとっています。サラリーマンなら普通、ボタンを留める筈のジャケットの前をあえて留めずに開けているのは、キャラクターの大らかさ・自由さ・オープンな心・そしてルーズさの表現。胸元が虹色に輝いているのは、彼の胸に訪れた恋のイメージです。
続いて後ろに並ぶキャラクターたちにも、目を転じて見ましょう。
切ないのが武川とちずのポーズです。二人とも自分の想い人へ前足を踏み出し、武川は伏せ目がちな視線を牧に、ちずは右手を春田側へ寄せています(春田に身を寄せているようにも見えますが、立ち位置が離れているので触れられない関係)。どちらも想い人へは、決して届かない好意を向けている仕草が読み取れます。
蝶子は夫婦ですので、立ち位置が武蔵に寄り添う形になっており、二人の仲睦まじさを表しています。前足は武蔵側に踏み出しているものの、体や視線はまっすぐ前を向いているので、自立している女の表現、あるいは後の二人の別れを暗示しているとも読めます。
全ての人物に言及したところで、もう一度だけ彼らの足元を見てみましょう。
新たな恋を得た春田、牧、蝶子は全て左足が前です。それに対して失恋するキャラクターは全て右足を前にしています。これほどの一致は偶然ではなく、撮影に際して意図的な演出があったと考えるべきでしょう。
以上がS1のTOP画で表現されている内容の解説ですが、1枚の絵だけでもかなりキャラクターたちの本質や関係性を表しているのではないでしょうか?
それでは「おっさんずラブ in the sky」の画像はどうでしょうか?今度は「おっさんずラブ in the sky」公式サイトのTOP画像をご覧ください。
今回のTOP画像で重要なポイントは、春田と武蔵が同列に並んでいる事。しかも踏み出した足は同じ左。S1時の追う→追われる・・という立ち位置(前後)ではなく、同じ立ち位置(同列)から同じ方向へ向かって踏み出す関係である表現になっています。さらに最終回が終わってから気がついたのですが、武蔵の右腕(春田側の腕)がジャケットの前を抑える形で曲がっており、あと少し近づけば隣にいる春田の伸ばした左腕に絡める形になっていいます。つまり初めから新郎新婦の腕組みをしている(ような)二人をセンターにして、キャストが配置されている画像だったのです。
次に春田に恋心を向けられる、成瀬を見てみましょう。画面の向かって左端にいる成瀬は、春田に非常に近い立ち位置で、その気になれば腕を組めそうな関係に見えます。しかし残念ながら位置的には一歩後ろに配置されているため、春田とは触れそうで触れられない関係です。上半身のポーズは四宮とシンメトリーになっていますが、踏み出す足は四宮と同じ右側。
このことから成瀬と四宮は相似形、似た者同士であり、同じ方向へ歩み出す関係・・という事が読み取れます。
また成瀬の片手はポケットに入っており、S1の牧と同じく心に壁を持つキャラクターの表現です。しかし牧と違うのは左手がジャケットの胸元にかかっているところ。一つは四宮とのシンメトリーを作るためでしょうが、もう一つの理由はジャケットの胸元を開こうとしている=心を開こうとしている・・という成瀬の人間的成長を暗示しています。
そして注目すべきは四宮。彼は一見、何気なく手首のボタンを直している風なポーズをしていますが、彼のポーズの意味はズバリ「抑えられた恋心」です。単純に手首のボタンを留める・・という意味に見せたいだけならば、「ツナギに着替えたばかり」と見えるように胸襟も僅かに開いているとか、「腕まくりを直すところである」という風に左腕も捲くった状態で撮影するでしょう。しかしそのどちらも取り入れられていません。
成瀬とシンメトリーを取らせるポーズのため・・というのは一つの答えになるかもしれませんが、それならば「整備士」というキャラクターらしく工具を持たせた方が、右手を胸の高さにあげるポーズとしては自然かなと思います。
なので四宮のあのポーズはやはり「抑えられた恋心」。春田の方へ伸ばすことを望む利き手(=恋の衝動)を左手(=理性)で抑えている、という意味を持たせているのではないでしょうか。成瀬とシンメトリーを取りつつ、自分の思いを胸に深く秘めるキャラクター性を見事に表現したポーズと言えるでしょう。
ついで最後列の3人を見て見ましょう。
緋夏は春田と武蔵のちょうど真ん中に立っています。S1のちずの様にどちらかへ体を傾けていないので、本来の筋書きでは恋する春田と父親の間で板挟みとなり、もっと葛藤する設定だったのかもしれません。しかし足元は前に並ぶ春田&武蔵と同じ左足を踏み出しており、彼らと歩調を合わせる関係(=家族?)になることが暗示されています。
後列には緋夏を挟んで左右に根古と烏丸が等間隔に並んでいます。烏丸はデスパッチャーらしいポーズをとっていますが、根古の手の動きは見えません。ここでみるべき表現は、彼らが等間隔の位置であること、踏み出している足が左右シンメトリーになっていること。それは二人が同じ役割でありながら正反対の位置にあるということです。つまり二人はメインキャラクターの恋に影響を与える役回りですが、烏丸はどちらかといえばトリックスター、噂好きで混乱を引き起こすキャラクターという設定。例えば武蔵への「月がきれいですね(=I LOVE YOU)」の解説(これがきっかけで武蔵は本格的に燃え上がる)、春田への「嫉妬」の指摘(これが引き金となって成瀬への恋が走り出す)などがそれに当たります。反対に根古は春田や四宮の相談役を担い、SPでは成瀬にもアドバイスを与えている本作品内の「良心」。つまり二人は彼らの恋を手助けする「天使と悪魔」のペアなのです。
以上が「おっさんずラブ in the sky」のTOP画から読み取れる考察ですが、いかがだったでしょうか?
脚本は途中で外部の圧力などによりエンディングが変更されたわけではなく、この画像が発表された9月27日の時点で既に、途中経過は未完成としても、最終ゴールは決まっていたことがお分かりいただけるのではないでしょうか?
もちろん筆者も徳尾氏の巧みなミスリードに見事に騙され、最終回の展開に驚愕した一人ですが、こうして冷静に絵解きをしてみると、おっさんずラブチームのこだわり、TOP画一枚に対しても、非常に丁寧に作り込んでいることがわかります。
徳尾氏の見事なミスリーディング、その脚本構成の面白さについては、近日改めて書かせて頂きますが、一つの目標に向けて全体でビジョンを共有し、それに向けて各チームが全力でいいものを作ろうとしている・・ということを、たった1枚のTOP画からも感じることができました。
いやー、「おっさんずラブ」って本当にすごいドラマですね!
※注1:なお今回の考察はあくまでも私個人の演技論や、絵画や写真の技法、映画の表現などを見聞きした経験から考察したものであり、何ら公式からの明確な回答を模範に書かれたものではありません。ご了承ください。
※注2:筆者は四宮要を偏愛いたしております。なかでも春田創一を大切に思う四宮要を熱愛しております。なのでこのままで終わっては苦しくて仕方ありません。その苦しみを和らげるために下記、蛇足の考察を記しますが、決して「春田創一を大切に思う四宮要」が主食の方以外はお読みにならないでください。
特に「四宮要は成瀬竜の愛で完璧に幸せになります!」と本編に満足されている方は、絶対にお読みにならないでください。よろしくお願いいたします。
以下、大いなる蛇足です。
◆◆◆◆閲覧注意! 春田に恋している四宮要が好き!という方向け◆◆◆◆
おっさんずラブシリーズ3作を振り返ってみると、
・単発では恋の始まりのときめき
・S1では恋の成就の喜び
・S2では恋に破れたほろ苦さ
を物語のクライマックスで丹念に描いています。
今回メインキャラクターの4人とも一度は失恋していますが、一番長く、一番重たい失恋が描かれているのは四宮です。「切ない担当」と田中圭氏が雑誌のインタビューで答えていたことからも、彼が今回の作品で一番「失恋」を象徴するキャラクターだったと言っても過言ではありません。
最終回ラストで四宮は、新しい恋に向けて準備が始まっている描写になっておりました。この部分について、TOP画像の考察から読み取れるキャラクター性を追加で述べたいと思います。
※再注意!!:これから書く内容は「春田が好きな四宮要が好き!心変わりが苦しい」という方の為に書く考察です。成瀬とのカップリングを喜んでいる方が読んで、「それは春田中毒の四宮病だよ?思い込みなんじゃない?」という意見は受け付けません。だって私が苦しいんだもの!・・・よろしくお願いいたいます。
さて春田を推してる四宮が好きな皆さま、質問させてください。
春田への恋心は、全て成瀬からの愛で上書きされてしまうものでしょうか?
20年以上も昔に教わった切ない恋のメロディーを今だに弾き続けるあの彼が、毎日のように寮と会社で顔を合わせる相手を思いきれるものでしょうか?
10年も恋から逃げまくっていたあの彼が、その鉄壁のガードをこじ開けて恋のタネを植え付けた奇跡の男を、もう愛さなくなってしまうでしょうか?
私は『NO」と答えます。
もちろん本編最終話で四宮は、成瀬へキスを試みようとしています。
それは紛れもない事実です。どうして成瀬へキスをしようとしたのか、それについては様々な解釈があるでしょうからここでは言及しません。
問題は「春田を愛する気持ちが、四宮から消えてしまう(しまった)のか?」ということです。それについて本編では明確な答えが示されませんでしたが、TOP画像で表現されている四宮の右手と、sumikaよる主題歌「願い」にある歌詞が、答えを教えてくれるのではないでしょうか?
それではもう一度、TOP画像の四宮の右手をご覧ください。
通常、手首のボタンを留める仕草をするならばボタンが見えるような形、すなわち手の平が上を向くような手首の返し方をします。しかし四宮の右手は左胸(=心)の側を向いており、あたかも何か大切なものを抱えている仕草になっています。この仕草の意味をそのまま素直に受け取れば、「心に宿した想いを大切に抱え続ける」という性格の現れです。実際3話では20数年も昔に、恋する教師から教わったメロディをピアノで弾くシーンがあります。このエピソードは例え悲しみの中で終わった恋でも、その想いを大切に心の奥へしまい続ける彼の性質をよく表しています。まさに存在自体が「片恋」、せつなみ担当・四宮要というキャラクターのポーズですね。
こういう頑固で一本気な性格の四宮要が、人生2度目の初恋と言ってもいい春田への想いを、綺麗さっぱり捨て去ってしまうとは到底思えません。それではキャラクターがブレしまうというものです。
最後にsumikaの「願い」の歌詞を見て見ましょう。
一生物のギフトはそっと私の胸の中
「おはよう」と「おやすみ」があって
時々起きては眠ってね
つまり春田への想いはあの3話の音楽室のピアノや、「俺とあいつの7日間」と共に、大切に彼の胸の奥深くにしまわれるものであり、その想いには例え恋人でも触れることができないのです。
四宮はこのさき誰とどんな恋をしようとも、春田への想いは抱え続けたまま、それを時に取り出し、またそっと心の底へ戻す・・そんな永遠の片思いだという事を、この歌詞が教えてくれているような気がします。
皆さまは、どう感じられましたか?
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