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2つの科学で制する「タイパ学習法」

サムネ: 写真AC

正直「タイパ」という言葉がここまで市民権を得るほどの言葉になるとは思わなかった。一応知らない人向けに説明すると、タイパとは「タイム・パフォーマンス」という言葉を略したもので、自身が費やした時間と得られた成果の比率を示している。費やした時間に対して成果が大きいと「タイパが良い」という事になり、逆に費やした時間ほど成果が得られなかった場合は「タイパが悪い」と表現する。

もちろん中高生をはじめとした学生も「タイパ」を求めている。もはやこの言葉は意識の高い人だけの言葉ではない。学生であればタイパを求めるのは、もちろん勉強だろう。可能であれば勉強の時間を圧縮して、部活やアルバイト、青春に費やしたいはずだ。そこで今回は「高タイパ」なただ一つの学習法を教育を専門としている筆者が2つの理論とともに紹介しようという試みである。中高生をターゲットにして書いているものの、多くの社会人にとっても有益な情報であると思う。

タイパ学習に必要な2つの「科学」

できるだけ効率よく学習を進めていくためには、理論に基づいた学習方法を知っておかないといけない。科学とは先人が切り開いた知恵であり、血と涙の結晶だ。ここではタイパ学習に必要な2つの理論を紹介する。

忘却曲線

イラストAC

よく学校や塾の先生がこの画像を持ち出して、「復習は大事だよ〜」と触れて回るのだが、なぜ復習が大事なのか考えた事はあるだろうか。復習は確かに大事である。これにはきちんとした科学的根拠がある。

この忘却曲線はドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが提唱したものである。無意味な言葉を記憶し、一定時間が経過したのち、記憶した語を再度記憶し直すまでの時間を表にしたものである。グラフ上の赤い線は1回のみ記憶した場合の記憶の定着率であり、青い線は復習を繰り返した際の記憶の定着率を表している。覚えている割合が100%に達しているタイミングは、そのタイミングで復習をしていると考えてもらうと良いだろう。

例えばある語を10分で覚えたとして、1時間後に再度記憶しようとすると、理論的には5分で出来るということになる。これが1日後に再度記憶しようとすると7分半ほど、1ヶ月後であれば8分ほどの復習時間が必要となる。これは「どうせ覚えなければいけない語なのであれば、1時間語に5分で復習したほうが効率がいいよね」という話である。

更にグラフの青い線を診てもらうと分かるように、定期的に復習を行うと段々とグラフの曲線が緩やかになっている事が見て取れるだろう。復習を繰り返す事で記憶は定着し、やがて忘れにくくなる。他人の口癖を覚えているのは、定期的にその口癖を耳にする事で、段々と記憶に定着している事がその理由だと言える。

ここまでの説明を経て、ようやく「復習は大事だよ〜」の真の意味が説明できるようになる。この言葉の真意は「一度学習したものは定期的に記憶し直す事でラクに覚えられるんだよ〜」である。

ラーニング・ピラミッド

イラストAC

ところでこの画像を目にした事があるだろうか。これはラーニング・ピラミッドと呼ばれるものであり、アメリカ合衆国の国立訓練研究所という場所で開発されたものである。上から下へと、定着率の高い学習行動が並べられている。

このピラミッドにおいて、最も定着率の低い学習行動は「講義」。わかりやすく例えると、他人の話を聞くという事が挙げられる。英語ではLectureと表現される通り、一般的には説明を聞く学習法が講義である。

一方で最も定着率の高い学習行動は「他者に教える」という学習行動であり、自分が飲み込んだ知識を使って他人に説明する事で(理論上は)学んだ知識の90%を自分のものに出来るとされている。他には「自ら体験する」という行動も効率が良く、身につけた知識の75%を身につける事が出来る。

例えば投資の複利について学習している場合、「元金についた利子に対しても利子がつく」という説明を見るだけでは、その知識の5〜10%だけしか身に着けられない。一方で誰かに質問する事で50%、実際に複利の計算やシミュレーターを用いると75%、そして誰かに複利の仕組みを説明する事で、その知識は全体の90%ほどが記憶されるという事になる。

ここで注意しなければいけないのは、単に「複利っていうのは、利子に対しても利子がつくものだよ〜」と誰かに説明したところで、「利子に利子」という部分だけが90%記憶されるだけという事である。実際に複利計算をしたりシミュレーターを使用したりして得た知識を、誰かに教えることで得られる90%の知識とは全く質が異なるという事に気をつけたい。前者であれば単なる辞書の暗記であるのに対して、後者はシステムを含めた体系的な知識としての「複利」という概念が90%も身につける事が出来るという事である。言葉と意味を知っているだけという事と、それが実際にどのような働きでどのようなメリット・デメリットがあるのかという事とでは、明らかに質が違う。

ラーニング・ピラミッドから分かるのは、定着率の低い行動から高い行動へと着実にステップアップする事で、より質の良い知識を、高い解像度で記憶しておくことが出来るという事だ。新しい知識をいきなり他人に説明する事は不可能だろうから、まずは読書などで情報を集め、その情報をもとに実際に体験してみて、それらを含めた知識を他人に披露するというような段階的な学習ステップを踏むことが重要なのである。

結論: インプットとアウトプットを繰り返す

「インプット」とは in+put であり、つまりは内部に取り入れるという事である。知識を脳内に叩き込む動作をインプットと呼ぶ。対して「アウトプット」とは out + put であり、蓄えた知識を出力するという事である。

ラーニング・ピラミッドによると、インプットよりもアウトプットの方が学習の定着率が高い。ただしアウトプットをするにはインプットが必要であるから、順序としては "インプットアウトプット" となる。何かを学ぶとき、インプットに傾倒しがちだが、何かを学んだのであればきちんとアウトプットをする事も忘れずに行いたい

また忘却曲線によると、繰り返し記憶し直す事で学んだ知識が定着し、忘れにくくなる。先述の "インプット→アウトプット" を定期的に繰り返す事によって、記憶への定着は更に強固なものとなる。

この2つの理論に相関はない。ただし私の経験則や教育観から、学び実践した成果を、誰かに教えたりブログなどにアウトプットする定期的に事を繰り返す事で、生きた知識を爆速で身につける事ができ、結果として高タイパを叩き出すことが出来る。今の世の中にアンキパンは存在しない。地道な学習だと思われるかもしれないが、現状これが最速かつ最短の実用的な知識を身につけるための学習法である。

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