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スイーツの瓶と種。

一目見て、これはアートだと思った。
以前とあるカフェのアートなスイーツについて書いたが、これはそれとは全く別物の芸術品だ。

そのケーキとの出会いはふいにやってきた。
京都のコンセプトホテル、「GOOD NATURE HOTEL※」に宿泊したわたしは、お部屋の全貌をチェックし終えた後の楽しみ、お茶菓子拝見タイムに取り掛かる。

(※素敵なホテルだったのでまたいつかこれについても書きたい所存...)


ルームサービスのお茶菓子として、珈琲、紅茶とともにあったのは、パティスリー「RAU」の焼き菓子。
さすが、コンセプトホテル、お茶菓子一つにとってもこだわっているようだ。
逸る気持ちを抑えながら、お上品な小箱を開ける。
並んでいたのは、瓦を模した、波のような形が可愛らしい焼き菓子。味も見た目も楽しめる、とても美しい焼き菓子。
一瞬でここのお菓子のとりこになった。


一緒に来ていた彼によると、焼き菓子だけでなく、ケーキもとても有名なのだそうだ。
そしてなんとこのホテルの下の階にそのパティスリー「RAU」は、あるという。スイーツ好きとしては、見に行かぬという選択肢はない。

早速覗きにいくと、普段行くケーキ屋さんと全く店の相貌は異なっており、白を基調とした洗練された空間に並ぶのは、数々のアート。
、、、ではなく、色とりどりの、様々なケーキや焼き菓子の模造品が、等間隔に並んでいる。


こ、これは、何なんでしょうか。

コンセプトは「情景を、形状に。誰も見たことのない菓子を。」だそうだ。


明らかに上質な、名のあるパティシェがお作りになられたであろう至高の一品。
さぞお高いのだろう、恐らく1000円弱はするのだろう、と覚悟を決める。

価格を見た。そして二度見した。遥かに超えてきた。なんと近所のケーキ屋さんで、3つ買えてしまうではないか、、、。

いや、ここでひくわけにはいかない。
数分前まで、このパティスリーの存在を知らなかったはずなのに、もうこの目の前の美しいモノたちを手に入れたくて仕方がなくなっている。

悩んだ結果、選んだのは「Tane」「Bin」と名付けられた2種。
彼と二人で来ていると、分け合いっこして二つとも楽しめるからお得な気分だ。


しかし、もし誰かに「種と瓶のケーキ、買ってきたよ~!」なんて言われたら、
何を言っているんだ、と首をかしげると思う
。でもうん、これは確かに、種と瓶。

お皿に取り出すと、可愛いさに語彙力は消失。ともかく、可愛い。
なんていうか、フォルムが可愛い。はっきりと鮮やかな色味が可愛い。

「Bin」は、上に花を模した飾りが乗っていて、そしてよく見ると垂れた雫まで付いている。なんて芸が細かいの、、、!

「Tane」は混ざり合ったグリーンの種が、なんとも蠱惑的に輝いている。南国にありそうな、いややっぱりこの世のどこにもなさそうな夢の世界にあるような種。

左「Bin」右「Tane
左の方、若干剥がれかかっているのは
箱から出すときに痛恨のミス、、、。


今まで食べてきたあらゆるものの中で、どこから食べようかと一番悩んだ自信がある。

もはや味の予想なんて微塵もつかなないまま、逸る気持ちをなだめつつフォークを差し込む。

あれ、ちょっと固い、チョコレートでコーティングしているんだな。
というか、このホワイトチョコレート、めちゃくちゃ美味、、、!と感動していると、ピスタチオの香ばしい甘み。
いいねえピスタチオ、ん?でもこの濃い緑は抹茶?と思っていると、あら奥から甘いソースが、これは、、苺、ではなくフランボワーズ?
いやまて、今一瞬違うナッツも顔を出さなかった?ありとあらゆる味があふれ出てきて、舌と脳の処理が追い付かない。
そしていろんな味があるのに、綺麗に調和してきて、溶ける。

このいろんな混ざり合った味はこれから芽吹く種の、可能性が秘められている感じを表現したんだろうか、、、。
なんてぼんやりと考えていると、種は半分以上も姿を消している。

この「瓶」は、うん、上からかな、先ほどより勢いよくフォークを差し込み、ぺきっと同じようにコーティングされたチョコレートを割る。
すると、中から赤いソースがじゅわりと顔を出す。ちょ、ちょっと待って、こぼれる!と焦るくらい並々としたソース。

ははあ、これは瓶の中を浸す水の如く液体状のソースが詰まっているのかな、と思いきや淡いベージュ色したムースが出てきた。甘酸っぱいソースに対し、ふんわりと柔らかなアールグレイの甘み。うーん、最高。

ムースの中からこれは苺、かな、ちょっと果実の形を荒く残したジャムに近いソース。
ソースが出てきたら、またムースになり、、、ってこれ断面図どうなってんの。 

あ、下はスポンジだ。スポンジってショートケーキを連想してなんだか安定感があるの、いい。

なんて、視覚と味覚を駆使し味わっていると、気が付けば二つのケーキは忽然と姿を消していた。

アートのような、ケーキ。

1つあたり美術展を一つ見れる価格でありながら、体験時間は数分。
そして跡形もなく消える。

テーブルの真ん中に鎮座させ、もっともっと眺めてインテリアとしてなんら不思議はないくらい馴染んできたころに食べればよかった、なんてことを思ったのは、後の祭りである。


#フードエッセイ
#スイーツ


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