参観で爆睡する我が子を讃えたお母さん。
いつからか、常識を超えた言動する保護者のことは「モンスターペアレント」なんて呼ば
れるようになった。
ネットやら身近な先生やらから、そんな「モンスターペアレント」は、話題に上ることが増えた。
一括りに「モンスター」なんて枕詞を乗っけるのもどうかと思う。が、実際に客観的に話を聞いていても、対峙する先生に同情してしまうような言動をされる保護者もいる。
しかし、この仕事をしているとその真逆のとっても素敵な保護者の方に出会うこともあるのだ。
今日はわたしが見聞きした、そんなお母さんの話をしようと思う。
4月、新しい学年が始まって間もない頃に行われた参観日。
どんなクラスなんだろうか。
どんな担任の先生なんだろうか。
新しい環境で、我が子はどんなふうに過ごしているんだろうか?
と、気になる保護者の方も多いようで、年度の始まりの参観日は、どの期間の参観日よりも多くの方が見に来られる気がする。
柔らかな光が窓からポカポカと照らす春の終わりの5時間目。
小学校での、はじめての参観日。
そのクラスは算数の数の授業だった。
そのうちの1人のけいくん(仮名)は、一生懸命に鉛筆を持って、たどたどしいながらも、一生懸命にブロックを数えたり、数字を書いていた。
しかしそのうち、ゆらりゆらりと首が前後に揺れ始める。
担任の先生は、さりげなくけいくんの机の近くに行って、机をトントンと指でならしたり、さりげなく背中をぽんぽんとたたいたりと注意を促したりするが、全くもって効果は無い。
そのうちに、けいくんの背中は、きゅっとま丸まり、彼の日焼けした腕の上にぷくぷくしたほっぺたを置いて、すうすうと眠りに落ちてしまった。
時は、参観まっただ中である。
もちろん、後ろや教室の横には、たくさんの保護者の方が立って見ている。
その前で、担任の先生は大きな声で、
「けいくん、起きましょう!」
とか「一回、顔を洗っておいで!」など注意を促すのもはばかられたんだろう。
いろいろやってみて、精一杯起こそうとするにも、全くの効果がない。
どうしようか。
進む授業を頭の片隅に置きながらも、内心きっと焦っていたに違いない。
教室内にいた、子どもたちをサポートする他の先生も、けいくんの横につき、ゆらしてみたり、声をかけたり、必死にどうにかしようとするにもなんのその。けいくんは気持ち良さげにすうすうすう…。
授業が終わってから、けいくんのお母さんがその担任の先生に近づいてきた。
お母さんは、悲しい気持ちになったに違いない。折角我が子が頑張っているところを見たくて来たのに、後半、ずっとけい君は寝ていたのだから。
あるいは怒っているかもしれない。
「なんでもっと起こしてくれなかったんですか」と。
ヒヤヒヤハラハラしながら、その担任の先生は、けいくんのお母さんに
「けいくん寝ちゃって…すみません。」
と謝った。
するとへ彼のお母さんはこう言ったのだ。
「けいは、1日、とってもがんばったんですね。」
そう言って、にっこり微笑まれた。
「そうなんです、そうなんです。1時間目の体育のときには、こんなこんなことがあって… 3時間目の国語のときには、こんなこんなことがあって……!」
その担任の先生はほっとしつつ、1日のけいくんの頑張りや活躍をお母さんに伝えた。
その話を他の先生から聞いたわたしは、なんだか感動してしまった。
私は子どもがいない。
けれど、もしわたしがけいくんのお母さんだったらどうだろう?
ーもう、みんなが見ている前で。
なんでよりによって今日…!
周りのお母さんにどう思われているだろう。恥ずかしい。
帰ったら、
「参観くらい、ちゃんと頑張りなさいよ」
なんて、小言の1つでも言うかもしれない。
小学校に入学して、数週間。
確かにけいくんは、その日一日、勉強や遊び、小さな身体をめいいっぱい使って、頑張った。
まだまだ幼い彼は、5時間目の途中で体力の限界が尽きてしまったんだろう。
けど、このけいくんのお母さんは、すうすうと爆睡している我が子を見て、午前中の彼を目の前で見ていない状態にも関わらず、きっととってもがんばったんだなぁと思いを馳せてみせたのだ。
いつも一生懸命頑張っているけいくんを、丸ごと肯定したお母さん。
きっと、お家に帰ったら参観の前半の頑張りを褒めるんだろう。担任から聞いた、午前中の彼の頑張りも褒めるのかもしれない。
他の人の目とか、折角来たのに、とかひとまず脇に置いて、ただただあったかい言葉でけいくんを讃えたお母さん。
普段、彼に大きな愛情を惜しみなく注いでいる様子が、垣間見えた一言だった。
わたしは、まだまだそんな器の大きなお母さんには、なれそうにはない。
「モンスター」ならぬこんな「ゴッド」ペアレンツに子どもとの向き合い方を学ばされることも多い日々である。
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