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「食べることと出すこと」

 とにかく頑張らないこと、無理をしないことが、目標になって、なんとも不思議な感覚に陥っている。これくらいなら、が、確実に翌日にはダメージとなって返ってくる。以前なら全く問題なく出来ていたのに、ということも、すっかりだめだ。
 以前なら出来たことが、頑張らなくては出来なくなり、頑張ってはいけないのだ。未だに体に馴染まない感覚。
 でもある朝起きてみたら、昨日までのあのしんどさはなんだったのくらい、爽快な日もあって余計慣れない。

 そんな中、図書館から回ってきたのがこの本だ。
「食べることと出すことと」頭木弘樹著
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/108713

頭木さんは私の好きな作家で、カフカ関連の方はもれなく読んでいて、この本もとても気になっていた。

 読み始めると、とてつもなく面白い!頭木さんは潰瘍性大腸炎という難病にかかられて、その闘病の経験からこの本を書かれた。面白いと言っては、恐縮なのだけれど、面白い。

今週は調子が良くないけれど、するする読めている。頭木さんの文章は、私にはとても読みやすくて好き。

「食」でつながることを求める圧力は、難病というハードルさえ超えるのである。それほど強力なのだ。
 相手が病気で食べられなくても、食べることを強いる。食べられない者は圧力をかけられ、非難され、そして排除される。
食コミュニケーション、共食というのは、親しくない人と人をつなぐ力も強いし、すでに親しい人と人の関係を断つ力も強いのである。

 共食圧力、食べることは受け入れることは、納得。 
 自分も今まで無自覚にしていたかもしれない。食べられないものを食べさせようとしたり、少しぐらいなら、など。
 食を通じたコミュニケーション、共食というのは私も不得意で、仕事の会食など、全く味がわからないことも多い。でも、食を通じて仲良くなることも確かだ。
 食べないということに、不満を覚えるのではなく、何か理由があるかも、という想像力を持ち、無理強いをすることは絶対にしないでおこう。

そもそも病人は、他人に面倒を見てもらわなければならない弱い立場なので、なるべく周囲の意向に添おうとする。
病室というのは、医師と看護師と患者の三者ともが「感情労働(感情のコントロールをしなければならない労働)」に携わっている不思議な空間だ。

これらは秀逸だ。少し考えればわかる事だけれど、見過ごされがちなこと、大事なことだと思う。そこまでなかなか思い巡らせることはなかった。ついお見舞いなどで「元気そうでよかった」と言いがちだけれど。

 治らない病気になると、努力ということへの考え方も変化する。
 治らないからといって努力をしないわけではない。むしろ日々の努力が欠かせない。ボートの穴をふさげないのなら、一生懸命に水をかき出すしかないのである。その手を休めれば沈んでしまう。だから、努力の価値は嫌というほど知ってきる。 
 
しかし、努力すればなんでもかなうわけではない、ということも身にしみている。

 これも分かるような気がする。
正直にいうと、私は最近、仕事をして日常生活を送る(食べる、家事する、運動する、お風呂に入る、寝る)だけで、地道な努力が求められる感じがする。何かのきっかけで、どれかがこぼれ落ちると、全部ができなくなりそうで、維持するのに必死だ。
 でもその努力によって得られるのは、病気が良くなることではなく、普通の人が当たり前に送る生活をするということだけなのだ。

 「気持ちの問題」とか、「気の持ちよう」など言われがちなことも取り上げられていて共感。
 脳で体をコントロールするなんて幻想、と私も経験した。身体と脳がお互いを牽制したり、綱引きしたりもする。それはほぼ未知の感覚で自分の身体なのに置いてけぼりの気分だった。

見えない人たちが、実はたくさんいる。
病人だけではない。さまざまな人たちがいる。いても見えない、見えてないけどいる人たちだ。

 たまに会社に出社することがあるけれど、当たり前に働いて通勤してる人たちがこんなにもいるんだな、と、電車でも会社でも眩しい。私もその中の1人と見えているのだろうけれど。
 休んでいる時に見る風景は、また違う。見えている世界が違うのだ。

 病は違うし、私なんて軽い方なのだけれど、共感することだらけの本である。
 病気でなくとも、まずは面白いので読んでみてほしい。病気になって長患いするのであれば、勇気づけられるし、共感できるところも多いので、ぜひ読んでほしい。
 引用されているさまざまな本の一節もよく見つけてきたなー、としみじみと感心するような一文ばかりで、楽しめる。
 人に勧めたくなる一冊でした。

 さまざまな本を出されている中で、これが最近出た本ということに驚いている。「あとがき」にもなかなか書けなかった、5年かかった、というようなことが書かれていたけれど、それだけ闘病が筆舌に尽くし難く、大変な体験だったのだろうな、と想像した。
 ご苦労の末、このような本を書いていただいて感謝します。

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