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詞先、曲先問題について

今の日本の作家に発注して作るポップスはメロディーを先に作り、それに合う歌詞を作るという曲先という作業で9割以上は作られており、それが当たり前のようになっています。

業務上、曲を発注するコンペ・シートという物を目にする事が多々あるのですが歌詞先というのはほぼありません。

僕は、それはちょっと違うのではと思っています。

メロディーを先に作る理由としては「歌詞が先にあるとメロディーに制限が出来る」「ボーカルのレコーディングは最後なので後回しで大丈夫」「メロディーは没にしても作家は使いまわせる」後は「曲というのはメロディーから作るのが当たり前と思っている」という事かと思います。

80年代までは歌詞先で作られる事も多くありました、それはポータブルな録音機器がない、作詞家は譜面に弱いう物理的な理由もあったと思いますが歌詞先で生まれた名曲が数多くあります。「木綿のハンカチーフ」は松本隆が、挑戦的な歌詞を書き、筒美京平がこれに答えて名曲が出来ました。はっぴいえんど、大瀧詠一も歌詞先が多かったそうです。南沙織の「17歳」の不思議な小節の構成も歌詞先のためと思われます(これを違和感なく聞かせる筒美京平の才能はすごいです)

詞先で曲を作るアーティスト有名なのはエルトン・ジョンですね。バニー・トーピンの歌詞があればメロディーが湧いてくるとエルトンは発言しています。日本では槇原敬之です。理由として「歌詞が一番大変なので先に書いておく安心だから」と発言しています。他にはチャットモンチー、グループ魂全てではないかもしれませんが歌詞が先である発言をしています。あいみょんは同時に作ると答えています。

最近の洋楽の再発CDのボーナス・トラックや発掘音源集にデモが収録されている場合が多々ありますが、多少違うというのはあるかもしれませんが歌詞が全くないというのはありません。日本でこういう音源を集めたら歌はほぼデタラメ英語かラララだと思います。

要はJーPOPの歌詞は洋楽に比べると軽く見られていると思います。

それでは歌詞先のメリットを考えてみましょう。まず作詞家のポテンシャルを100%発揮出来ると思います。作詞家は「本当はこの言葉を使いたいけれど、メロディーと合わないので別の言葉にせざるを得ない」という事が常にあると思います。デモのメロディーは英語的なイントネーションや構造で作られている事が多いです。そのため音符一つに基本的には1個の言葉しか乗らない日本語は、無理が起きる事が多くなり、聴感上、言葉が分かりづらいものになるケースが多々あるので、ある程度回避出来ます。またアレンジに歌詞のイメージが反映する事が出来ます。例えば歌詞の設定が夏か冬か、ラブソングなのかプロテスト・ソングなのかでアレンジは変わってきます。

乃木坂46のバラエティーで自分の好きな音楽を他のメンバーに推薦しようというコーナーがあったのですがほとんどのメンバーは「歌詞が良いから」と発言していました。一般層に刺さるのは歌詞なんです。

一般層に広げるには、これも良く言われる事ですがメガ・ヒットするために最後に必要なのは歌詞だと言われています。

歌詞を重要視する楽曲を作りたいのなら歌詞先の制作が絶対に良いと思います。

鈴木慶一のアルバムを曽我部恵一がプロデュースした際に曽我部さんは「デモは歌詞を完成させてから渡して欲しい」と言われたそうで、確かにそうだと思ったという発言をしています。

松本隆さんは最近のインタビューで3割くらいは歌詞先で作った方が良いと思うの発言していました。

デモの段階で歌詞がついていればアレンジ、エンジニアリング、さらにビジュアル・イメージまでイメージする事が出来ます。

某作詞家に詞先で発注したのですが、詞先なら1週間、音先なら2週間欲しいと言われました、確かにそうですよね。これはクリエイティブなメリットではないですが制作期間を短縮できますね。

歌詞先のコンペを何度かやったんですが、メロディーだけのデモを聞いているより全然楽しいし、曲の良し悪しの判断もつけやすいです。

それとコンペシートというのは「こんな曲をお願いします」とリファレンスが記入してあるのですが歌詞先でリファレンス曲無しのコンペをやった事があるのですが、このコンペのデモは楽曲、当然バラバラですが聞いていて、作家によって解釈が変わるものだと聞いていて、かなり楽しかったです。

歌詞が先だとメロディーがつけにくいのではと思う人もいるかと思います。前述したように詞先でも名曲はいくつもあります。何人かのベテランの作曲家と、この件を話したところ「関係ない」と即答されました。音楽的才能とスキルがあれば詞先でも作曲のデメリットにはならないのです。(多少の文字数の調整はあるかと思いますが)

結論としては歌詞先での歌詞のクオリティーが絶対に上がる、それによってメロディーのクオリティーが落ちることはないという事、メロディー先の方が良い曲が出来るとなんとなく業界全体が思い込んでいる気がします。

下記の曲は歌詞先で作ってみました。ぜひ聴いてみてください。








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