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大学時代の奇妙なサークルの謎ルール

私は、童貞を卒業するという壮大な夢を胸に上京した。その夢を叶えるために女の子と仲良くなれそうなキラキラしたサークルに入ろうと思っていた。しかし、なかば騙されたようなかたちで、民族音楽を奏でるわりと地味で奇妙なサークルに入ってしまったということを先日書いた。

今日はこの続きとして、一風変わったサークルであった思い出を書き記したい。


大学入学当時、私は童貞をどうにかしたいという気持ちだけをもって生きていたのだが、このサークルは硬派でサークル内恋愛を歓迎していない雰囲気があった。

女子のメンバーはみんな真面目でサークル活動日にはちゃんと来て練習をするが、それ以外の日には授業に出るかバイトをするかという生活を送っていた。だから女子のメンバーと仲良くなる機会は少なく、当然童貞卒業のチャンスは遠ざかる。

一方で男子のメンバーは仲が良く結び付きが強かった。どんな時間にもサークル室に行けば誰かしらはいる。プレイステーションやセガサターンやスーパーファミコンがあり、歴代の先輩方が置いていったゲームソフトがたくさんあるので、男だけでむさくるしくもわーわー言いながら遊んでいた。時にはサークル室に泊まって、徹夜でゲームに興じることもあった。
こんな環境では童貞を拗らせるのも無理はない。


そんな我々男子メンバーはいつもお金がなく、お腹を空かせていた。だから安くてお腹がいっぱいになるということが大正義だという雰囲気があった。

ある時、大学の最寄駅の近くにチェーンのハンバーグ屋さんができた。その店ののぼりを見て私たちは色めき立った。なんと「ライスおかわり自由」とある。
これは行くしかない。私たちは4、5人のメンバーでその店に向かった。そして全員、一番安いハンバーグライスセット390円というものを注文した。

そして私たちがハンバーグを食べようとすると、数学科の井上先輩がみんなを止めた。「待て!ライスを何皿おかわりするか考えてから食べよう。俺は10皿いくから最初にハンバーグを10等分にしておく。そしてハンバーグひとかけらにつきライスを一皿食べる。そうすれば最後まで唯一のおかずのハンバーグがなくならずにライスが食べられる」と言うのだ。

さすが理系である。それは合理的だということになり、みんな自分の食べられそうなライスの枚数分にハンバーグを切り分けてから食べ始めた。そして全員390円で満腹になり、大満足でお店をでた。

その後も私たちはその店を気に入り、足繁く通って小さなハンバーグのかけらだけをおかずにして、ライスを何皿も食べた。最高で13皿くらい食べた先輩がいたように思う。
ただ、1か月後くらいだろうか、突然そのハンバー屋さんは方針を転換した。お店の前の「ライスおかわり自由」ののぼりは撤去され、代わりに貼り紙に「ライスおかわり二皿まで無料」となっている。私たちが愕然としたのは言うまでもない。

私たちが傍若無人にライスを食べまくったせいなのかは分からないが、もしそうであったなら申し訳ないことをしたと反省している。
せいぜい一人五皿くらいにしておけばこんなことにならなかったのかもしれない。


またこのサークルは飲み会にも不思議なルールがあった。二十歳を超えてからは、先輩に飲み会に連れて行ってもらえるようになったが、なぜかそこには「みんな同じものを飲む」という鉄の掟があった。

飲み会では瓶ビール以外は誰も飲まない。生ビールが飲みたいなんて言える雰囲気ではなく、カシスウーロンを飲みたいと思うようなことは、天につばきを吐きかけるような行為だと、その時の私たちは純粋に信じていた。

民族音楽サークルは黙って瓶ビール、というのが伝統の掟であった。

ただその掟を守らなくてよい例外がある。それはカラオケに行く時だ。私たちはカラオケといえば必ず歌広場に行っていた。そこで飲み放題のプランをつけるのだが、一番安い飲み放題のプランにはビールがついていない。ビールが飲めるのはプレミアム飲み放題みたいなプランである。お金のない私たちはスタンダード飲み放題プランを選択する。そうなるとビールが飲めない。

ただここでも「みんなで同じものを飲む」という謎ルールは発動される。なぜか歌広場では青リンゴサワーを飲むという決まりがあった。いつどこで誰が決めたのか分からないが、先輩たちはそれが普通だという顔をしていたので、私もそれに従った。狭いカラオケルームでむさくるしい男たちが、ひたすら青リンゴサワーを飲みまくる。童貞卒業までの道は険しい。

今でも私は歌広場の看板を見ると青リンゴサワーの味を思い出す。
もはやゴールデンボンバーの歌広場淳さんの顔を見るだけで「青リンゴサワー」という単語が思い浮かぶくらい、私にとっての歌広場は青リンゴサワーである。

この他にも飲み会のルールはたくさんあった。しかしここでそれを書き始めると長くなりそうなので次回また書いてみたい。

タライでビールを飲むという苦行など思い出したくないこともあるが、青春時代の記録として書き残しておきたい。

そして一番大事な童貞卒業の話を書くところまで早く辿り着きたいなと思っている。

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