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インドに常識を揺さぶられた

はじめて海外で行った場所はインドであった。そこで会った人たちに衝撃を受けた。でも、インドの人の生き方もいいなと思えた話を書こうと思う。

15年くらい前、インドへ旅行に行きたいという知人に連れられて、わりと何でも人に合わせるタイプの私はインドに行くことになった。カレーは好きだが、インドへの興味はほぼない。

それでも、わりと何でも前向きに捉える私は、インドに行って人生観が変わった人もいるし楽しいかもーくらいの軽い気持ちだった。

まず驚いたのはインドへ向かう飛行機、エアインディアの機内であった。飲み物をちょっとこぼしたので、何か拭くものが欲しいと身振りでCAさんに頼んでみた。

そうすると、私の座席の頭のところについていた着脱式の白いシーツをバリっと剥がして「これで拭け!」と言わんばかりに勢いよく渡してくれた。


インドに着いてからは、一台の車にインド人の運転手とインド人のガイドさん、私と同行者という4人で各地の観光地をまわるという個人的パックツアーという方式で旅をした。

インドは交通渋滞がものすごく、3車線道路が6車線道路になっているくらいの無法状態で車やバスが走っている。常にクラクションが鳴り響いていて、日本の煽り運転どころではなかった。

そんな中で私たちが乗っていた車が、インドのタクシーであるオートリクシャという乗り物にぶつかった。けっこう激しい衝撃が車内にあり、私と同行者は不安そうに顔を見合わせた。これはめんどくさくなるやつだなーと。

しかし、私たちの運転手とオートリクシャの運転手はお互いに強く頷き合い、何事もなかったように走りだした。運転手とガイドさんは顔を見合わせて一瞬苦笑いしたが、我々には何も言わなかった。

日本だったら警察を呼んで、保険会社が「6対4で向こうに過失がありますねー」というくらいの事故であったとは思うが、めんどうなことは一切なく車は動き始めた。

ホテルに着くと、ホテルの人が部屋まで案内してくれた。ここがあんた達の部屋だというようなことを言ったが、立ち去る気配はない。

もちろん私たちは「地球の歩き方」を行きの飛行機の中で読み、インドはチップ社会だということを知っていたのでチップを渡した。するとホテルの人は素早く帰っていった。

部屋を開けるとかなりびっくりしたことがあった。二人のインド人が満面の笑みで出迎えてくれたのである。

一人のインド人がここがトイレでここがシャワーだということを満面の笑みで説明してくれている。狭い部屋なので5秒もあれば部屋の全貌が把握できるのであるが。

丁寧な部屋の解説の間、もう一人のインド人は満面の笑みで佇んでいる。
部屋の全貌は十分過ぎるくらいに分かったので、案内係にチップを渡すと満足そうに部屋から出て行ってくれた。

それでもなおもう一人の、満面の笑みで佇んでいたインド人は、変わらぬ笑顔とともに部屋にまだ残っているのである。そしておもむろにテレビの角度を調整したり、カーテンを開けたり閉めたり、ゴミを拾ったりといった動きを始めた。

チップを渡すとどこかへ消えていき、これでようやくインド人はいなくなった。


観光地の一角でびっくりしたことは、公衆電話を修理している現場を見たのであるが、7人くらいの修理人がいるのである。でも電話機を修理しているのは1人である。他の2人はそれを眺めていて、他の4人は仲良さそうに談笑しているのだ。


これらの出来事には最初はびっくりした。インド人の働き方、こんなんでいいのか!と憤りを覚えていた。
でもよく考えると間違っているのは私である。

インドはどこに行っても人で溢れている。ちょっとのことでカリカリしていたらそこら中でトラブルが起きるだろう。車がちょっとぶつかってへこんだくらいだったら、そのまま何事もないように流した方うまくいく社会なのである。

また、ホテルの部屋の係員が多いのも、電話の修理人が多いのも人口が多いので仕事をシェアしなければみんなが食べていけないのである。

日本の社会の常識を、状況も歴史も違うインドに当てはめて憤りを覚える私は愚かであった。

日本人の働き方も日本にあったいいものではあると思う。でも日本人とは違う価値観で生きている人がたくさんいて、違う働き方がいる世界ってすごく面白いなと気がつくことができた。

私たちの車は最終日に恐ろしいまでの渋滞に巻き込まれて、帰りのフライトのチェックイン時間が間に合わなそうになっていた。

渋滞を抜け高速道路に入ると、旅の間ずっとおっとりと笑顔を浮かべていた運転手さんがすごいスピードで車線変更を繰り返し、凄まじいドライビングテクニックを見せてくれて余裕でチェックインに間に合った。

インド人、やる時はやるのである。

時間に余裕ができたことで、ガイドさん、運転手さん、同行者、私の4人で空港の職員らしき人に記念撮影をしてもらった。
その写真は今でもリビングに飾ってある。

もちろん空港職員らしき人は、チップを渡すまで私たちから一歩も離れずに満面の笑みを浮かべていた。

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