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大ヒット曲をロックフェスでどんな感じで演奏するか問題

以前はロックフェスに頻繁に行っていた。
年間で20回くらい行った年もある。
たくさんの歌手やバンドを観てきた。

その中で、国民的大ヒット曲をもつ歌手やバンドが、その曲にどう向き合っているかということに個性があって面白いなと思ったことがある。

2010年に北海道のライジングサンロックフェスに行った時のことだ。
歌手のKANさんが出演していた。
ライジングサンロックフェスを観に来る人と、KANさんのファンの客層は明らかに違い、KANさんにとってはアウェイ的なフェスだったと思う。

ライジングサンロックフェスの客は普段、KANさんの曲はあまり聴かないと思う。
ライジングサンロックフェスに来る人は、インディーズよりのロックバンド好きが多いからだ。

しかし、KANさんの登場する時間帯の、KANさんが担当するステージには多くの人が集まった。

なぜKANさんのステージに人が集まるかというと、みんな国民的大ヒット曲の「愛は勝つ」を知っていて、子どもの頃に流行ったその曲を生で聴きたいからであると思われる。

2010年のフェスの話で、曲がヒットしたのは90年代前半なので、だいぶ時は経っていたがフェスにきていたお客さんは、国民的大ヒット曲が生で聴けることを期待していた。

いつもはKANさんのライブに行かないであろう人たちが、KANさんが「愛は勝つ」を歌うのを待ち構えている。私もその中のうちの一人だった。

時間になるとKANさんはステージにルイ16世のようなコスプレをして自転車に乗って現れた。これで客が一気に盛り上がり、アウェイ状態をのっけから吹き飛ばした。さすがである。

軽妙なトークを交えつつ、ライブは盛り上がっていく。
正直、その場にいた客は「愛は勝つ」以外の曲をよく知っている人はいないだろう。
それでも観客を惹きつけるのはベテランの技である。

トークも冴えわたり観客の笑顔が絶えない、楽しいステージが繰り広げられていく。

しかしある曲が終わるとKANさんは、ピアノの前に座り何も言わずに次の曲を演奏しようとしている。
それまでは曲間に面白いトークが入っていたので、観客は「あれ?」という感じになった。

しかしピアノのイントロが流れると、観客はその日一番の盛り上がりをみせた。

愛は勝つのあのピアノのイントロが聴こえてきたからである。
全員が待ってましたとばかりに歓声をあげた。

そして盛り上がり続けたまま曲は終わった。
KANさんは曲が終わっても特に「愛は勝つ」について何も言わず、何事もなかったように次の曲を演奏し始めた。


その後に演奏した曲の間は、やはりトークを挟んでいたので、なんとなく「愛は勝つ」だけはあっさり始まりあっさり終わったなという印象をもった。

きっとKANさんは「愛は勝つ」の大ヒットで普通の人には分からないような経験をしたのだろうとその時に私は思った。
どんなに曲を新しく書いても、世の中の人にとってKANさんは「愛は勝つ」の人というイメージである。

曲とイコールになっているイメージに苦しんだこともあるのかなと、私なんかが考えるのはおこがましいが、そんな想像をしてしまった。

そんな中で「愛は勝つ」を演奏する時はあっさりと済ます、というスタイルを確立したのかもしれないと私は思った。


その一方で大ヒット曲を演奏する時に、真逆とも言えるアプローチをしているバンドがあることをある時に知った。
それはBUMP OF CHICKENである。

2015年のロックインジャパンというフェスで、私はBUMP OF CHICKENを生ではじめて見た。
曲は聴いたことは何度もあったし、まあまあ馴染みのあるバンドなのだが、どんなライブパフォーマンスをするかは全く知らなかった。

ボーカルの藤原さんはものすごくイケメンでありクールなイメージがあった。そしてBUMP OF CHICKENの曲や歌詞から想像すると、繊細な心をもった物静かな人なのだろうなと勝手に思っていた。

そのフェスでは、BUMP OF CHICKENの出番の時間になり登場するやいなや、一曲目の演奏前に藤原さんが話し始めた。


その言葉を聞いて衝撃を受けた。

「いにしえより伝わるオーイェーアハンを歌うバンドだよー」

自分たちの大ヒット曲である天体観測をいきなりいじり始めるのだ。

藤原さんのクールなイメージがいきなり吹き飛ばされて私は驚いた。

そして「いにしえより伝わるオーイェーアハンをみんなも一緒に歌ってくれるかなー?」というようなあおりの後、あの有名なギターのイントロが鳴り始め、一曲目からいきなり天体観測が始まった。

6万人の大合唱は圧巻であった。その場にいる全員が天体観測を知っている。これぞ国民的大ヒット曲である。

演奏が終わってからも藤原さんは「僕の作った曲(天体観測)をこんなにたくさんの人が歌ってくれたとお母さんに伝えたい」というようなことも言った。

藤原さんってこんなキャラだったんだとびっくりすると同時に、大ヒット曲とこんな風に向き合っている人もいるのだと興味深く思った。

そしてKANさんとはだいぶ違うやり方だと思ったのである。

どちらがいいとか悪いとかではない。
否応なく他の曲より盛り上がってしまう大ヒット曲を、観客にどのように聴かせるのが一番良いか考えた結果、それぞれの思いの違いによって演奏の仕方が変わったのだろう。

KANさんはあっさり聴かせる。BUMP OF CHICKENは自分たちでいじりつつ聴かせる。
どちらも味があって、とても面白かった。

フェスは大好きなバンドがいくつも観られるからお得感がある。

しかし、もっと深い楽しみとして、普段はライブに行かないバンドや歌手を観ることができる。

未知のバンドや歌手との出会いがある。

KANさんやBUMP OF CHICKENがヒット曲をどう演奏するかなんて、フェスで観る機会がなければ考えることができなかった。

新たな発見。これぞまさしくフェスの醍醐味である。

フェスに行って大ヒット曲をみんなで聴いて、大合唱ができる世の中に早く戻ればいいのにとずっと願い続けている。

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