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『現代社会はどこに向かうかー高原の見晴らしを切り開くこと』(著:見田宗介)を読む

『FACTFULNESS』で有名なハンス・ロスリングは、世界人口についての驚くべき事実を「ダンボール」「IKEAの箱」を使って面白く解説しましたが、
本書でも同様に世界人口についての驚くべき事実を明らかにすることから、解説は始まります。

まず私達が世界人口に対して抱いているイメージは「爆発的に増加」しており、「取り返しがつかない」状況に近づいているのではないか、というイメージです。
事実として、1960年までは人口増加率は増加の一途をたどっており、最大で2%という増加率という時期すらありました。
しかしながら、1970年代以降は急激な低下を示しており、21世紀は1%を切る時代が続くことが示唆されています。
本書では、この現象は何故起こっているのかが明らかにされ、今後人類は何をするべきかについての大きな示唆を与えられます。


人口増加率はなぜ頭打ちになったのか

これについて筆者は、無限に存在し、存在する限りあらん限り征服することができる対象であった自然を、高度成長期に征服し尽くしてしまったことで、自然が有限な存在になってしまったことが、人口増加に歯止めをかけることになったとロジスティクスモデルを用いながら論じます。

すなわち、征服対象であった自然を最も効率的に無限に征服できた時代が高度成長期であり、人口増加率が最も高い時代となった。
そして、征服対象が無限ではなくなってしまった1970年代、自然が突如として有限な存在として現れた時、経済成長は鈍化し、人口増加率は低下することを余儀なくされた。
このようなモデルです。


1970年代以降人類はどう変化したのか

高度経済成長が終わった後、緩やかな経済成長の後に、人類はどのように変化したのでしょうか。
まず大きく現れるのが、「生活満足度の増大」です。私達は、豊かになることによって日常生活に満足するようになりました。そして、「幸福」になりました。

豊かで幸福な生活を子供時代から享受する若者は、誰かと「闘争」する必要を感じません。
そして闘争では有利な「封建」「家父長」的な価値観に対して疑問を抱き、よりリベラルで自由・平等な価値観を支持します。

彼らは普通に働いていれば安定した生活を得られるのですから、不幸な現在を手段化して、未来にある「救済」を求めたりはしません。

満たされている彼らは、より多くの収入を得て、他人より豪華なものを身につけることに価値を感じず、むしろ質素で、自分の信じる価値を重要に考えるようになりました。


ここで一貫して論じられるのは、「他者評価」から「自己評価」への変遷、そして、自由で寛容な社会への変容です。


今後人類は何をするべきか

著者は、今後、「物質的な成長は不要なものとして完了」され、「永続する幸福な安定平衡の高原」の時代が現れると論じます。(このあたりは、マルクスがいうところの資本主義の行き詰まり、ないし、ケインズがいうところの週15時間労働、に近い概念のように感じられます。)
そして、今後現れる高原の時代においては、人類は、 「アートと文学と思想と科学の限りなく自由な創造」を行うようになり、現在の幸福をありのまま受け入れる時代が到来すると予想します。彼らは「貨幣経済に依存しない幸福の領域の拡大」をすることができると結論づけています。


終わりに

本書は、高原の時代に現れるものが「ユートピア」であるという希望、ないし前提、のもとに書かれている印象を受けます。なぜ「ディストピア」にならないのか、過去に行われた実験などに言及されてはいるものの、やや希望的観測に近いものを感じます。
七つの大罪である、嫉妬、色欲、傲慢、憤怒、強欲、暴食、怠惰、これらを高原時代の資本主義は本当に克服することができるのか、人類は試されているのかもしれません。

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