【第7章】奈落の底、掃溜の山 (6/23)【潜入】
【途絶】←
「……私は、やりかけたことを途中でやめるのが、大キライだからだわ!」
整った指の爪先に『淫魔』は、力をこめる。空間が歪み、なにもない場所に『扉』が現れる。
「寸止めは、ナシだわ! 最後までやるのが、私の主義!!」
『淫魔』は、自らが作り出した『扉』を押し開き、くぐる。その向こう側に伸びる亜空間の通路は、小刻みに、不安定に振動しつづけていた。
───────────────
廃棄場管理棟の一つ、トイレで用を済ませたセフィロト社の女性従業員が、蛇口から水を流しつつ、手を洗っている。
女性社員は、ハンカチで手をぬぐいつつ、顔を上げる。正面の鏡には、自分の他に、もう一人の女の姿が映っていた。
あきらかにセフィロト社の従業員ではない、紫色のゴシックロリータの衣装を身にまとった女性が、自分の後ろに立っている。
「ッ!? 侵入者──」
支給品のハンドガンを引き抜きつつ、女性社員は背後を振り返る。
「ぬふっ」
ひらひらのドレスの女──『淫魔』は、妖艶にほほえむと、女性従業員の動きよりも速く、その頬を両手で捕まえる。
そのまま『淫魔』は、女性社員の唇を奪う。
「んむぅ……ッ!?」
『淫魔』の長い舌が、女性従業員の咥内に侵入する。抵抗のそぶりを見せた従業員の四肢は、すぐに脱力する。
「じゅぷっ、ぢゅぱぁ、じゅるるるぅ……」
淫靡な水音を立てながら、蛇のような舌が女性職員の口腔を蹂躙する。女性社員の瞳孔が開き、視線の焦点が虚空をさまよう。
「んぁ、んんん──ッ!!」
『淫魔』に抱きすくめられたまま、女性社員はびくびくと全身を震わせる。
制服のスカートの内側から、失禁したかのような大量の体液があふれだし、太ももを伝って床を汚す。
「はぁ……んっ」
高圧電流のように濃厚な悦楽を強制的に流しこまれた女性社員は、意識を失い、その場に倒れこむ。『淫魔』は、唇にこびりついた相手の唾液をなめとる。
「ぬふふふ……」
いやらしい笑みを浮かべた『淫魔』は、その場で女性社員の制服を脱がしていく。
おもらしをしたようにショーツをびしょ濡れにした女性従業員は、パステルピンクの下着姿で洗面台にもたれかかる格好にさせられる。
「あら、意外とかわいいランジェリーだわ。制服が地味なぶん、内側のオシャレには気を使っているのかしら? それとも、ボーイフレンドのシュミ?」
『淫魔』もまた、その場で自らのゴシックロリータドレスを脱いでいく。『扉』の応用で、虚空に小窓を作り出し、脱衣を自分の部屋へと転送する。
代わりに『淫魔』は、女性職員からはぎとった社員制服を身につける。
「んん……さすがに、サイズぴったりとはいかないのだわ」
『淫魔』は、洗面台に映し出される制服姿の自分を見る。バストとヒップが特にきつく、ぱつぱつで、ボディラインを強調してしまう。
「ま、ぜいたく言っている状況じゃないし。このまま、行動開始だわ」
ランジェリー姿の女性職員をトイレの個室に隠すと、『淫魔』は素知らぬ顔で管理棟の廊下へと出る。
「なるほど……この次元世界<パラダイム>をまるごと、ゴミの投棄場として使っているわけ。セフィロト社らしい合理性だわ」
その名にそぐわず『淫魔』は肉体的な接触を通して、相手の精神に侵入することができる。女同士の交歓を通して、女性職員から施設の情報を読みとっていた。
「中央棟の管制室は……こっちのほうね」
小声でつぶやくと、『淫魔』はセフィロト社員のごとき身振りで歩き始める。
施設同士をつなぐ渡り廊下を通り、中央棟に近づくと、プロテクターにサブマシンガンを装備した警備兵が、バイザー越しに視線を向ける。
「……ずいぶんと物騒だわ」
『淫魔』は、バイザーを通して相手の瞳を覗きこむ。すると警備兵は、がくん、と両腕を弛緩させて、無関係な虚空を見つめ始める。
その横を、『淫魔』は平然と通り抜け、中央棟の自動ドアをくぐる。ゆっくりとした歩幅で、しかし、一直線にエレベーターに向かう。
管制室の階まで移動すると、大仰な扉を守る二人の警備員を、入り口の時と同じように視線で魅了する。
扉はロックがかかっていたので、警備員にパスワードを入力させて開けさせる。
「はぁい。みなさん、お疲れさまだわ!」
管制室内に踏みこんだ『淫魔』は、モニターとにらめっこしているオペレーターたちに陽気な声をかける。
聞き慣れない声音が管制室に響き、職員たちが一斉に顔を上げる。
本来であれば、管制室はおろか、中央棟に近寄ることも許されない下級職員の制服を見て、オペレーターたちは警戒を強める。
「もう。そんなに怖い顔しないで……ね?」
『淫魔』は、室内を一瞥する。とたんに職員たちは魅了され、虚ろな表情となって空中を見上げはじめた。
→【禁則】
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