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空想小説~ある大学生の物語~㉓うどん

店内はカウンター席とテーブル席が4つという造りだった。ワタルたちはカウンター席に着いた。旅先ではどういうわけかカウンターの方を選びたくなる。ワタルは釜玉、みさとはぶっかけうどんを頼んだ。そして、天ぷらは二人ともさつまいもとエビを選んだ。お菓子がそうであったように、天ぷらの好物も同じらしい。

ワタルは節約のため釜玉うどんを作ることはあるが、冷やすのに手間がかかるので夏でも温かかった。だから、冷は初めてだ。しかも今日は本場の讃岐うどんなのだ。

「あーうまい」
「やっぱりコシが違う、気がする」
「ダシもいいんやろうな」
「こういうダシってネットで買えるんかな」

期待以上の旨さに興奮しながら、たっぷりうどんを楽しんだ。しばし談笑したあとに店を出ると、さっそく次の目的地へ向かった。お昼の時間はとうに過ぎている。今日も移動で慌ただしい行程だ。

電車に乗ること15分、きれいな夕日で有名な砂浜の最寄り駅に着いた。ここから30分ほどバスに揺られて向かう。周囲はただひたすら低い山に覆われていて、住宅の他はたまに工場を見かけるくらいだ。

父母が浜というのがここの名前らしい。夕暮れにはまだ少し早いが、昼間でも太陽の光を反射して美しい。隣のみさとを見ていると、自分の気持ちを抑えられなくなるが、ここは我慢だ。ここではない。みさとはワタルのそんな葛藤などつゆ知らず、目の前の景色に夢中になっていた。

父母が浜をあとにした。あとは電車に乗って移動するだけだ。ワタルの親戚の故郷、タオルで有名な街を超えて、西へ西へと進んでいく。

そして立派な温泉旅館があることで有名な松山に着いた。今日はゆっくり温泉につかって早めに寝る予定だ。

「じゃあ、また朝にー、やな」
「うん、そやね、おやすみー」

男湯女湯の暖簾があるところで、2人は別れた。部屋も今回は別々に予約してある。まだ''友達''なので当たり前なのだが。

温泉というか浴場に行くと決まってやるのは、サウナからの水風呂だ。湿度100%近くの部屋でたっぷり汗をかいてから入る水風呂は最高だ。やり過ぎは危険だが、自律神経がととのって体に良いそうだ。

部屋に戻ったワタルは、もう何千回と聴いているお気に入りのバラードを流しながら眠りについた

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