旅立つ前日
グリーンスリーブスを聞いてドクターを待つ
ただの生命になった同居人
あばら骨がゆっくりと開いては閉じる様を眺めていた
幼い私の肩まで飛び上がる彼
来客に向かって吠え続ける彼
食べ物を狙って食卓をうろつく卑しい彼
小さなおもちゃを追いかける彼
雪玉をコロコロとつけた毛先
階段を降りていくヒョコヒョコ動くお尻
祖母のリウマチを舐める温かい舌
部屋で粗相をする申し訳なさそうな瞳
無人の家の独房のようなケージで丸く眠る姿
発作で激しく打つ鼓動
必死に立ち上がり歩こうとする震える脚
酸素室で私の気配に顔を上げ吠え出した、あの声
浮かんでは消えていく残像
いつの間にか電話は終わり、
エリック・クラプトンが仮定法を歌っている
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