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【Creperie Josselin】モンパルナスのクレープ通り

エリック・ロメールの映画『レネットとミラベルーー四つの冒険』を観ていて、思わず声をあげた。
モンパルナスで世話になったホテルのすぐ裏手にあるカフェLa Libertéが登場したからだ。
ホテルからGaité通りを抜けてボン・マルシェに買い物に行く途中に、よく横目で見ていた馴染みのある店だ。

レネットとミラベルは共に10代後半の女性。高校生くらいだろうか。
偶然の成り行きで、パリで2人暮らしをすることに。

朝、美術学校に出かけるレネットに、ミラベルは終わったらカフェで落ち合おうと誘う。
まだ携帯電話もない時代の話だ。
パリに出てきて間もないレネットにミラベルが与える情報はいかにもいい加減。
まず、店の名前をLa Liberté(自由)ではなく L'égalité(平等)と間違って教えてしまう。
なんとも微笑ましいうろ覚え。

場所はモンパルナスタワーのすぐそばよ、名前は忘れたけど何とかっていう地下鉄駅のすぐ前にあるはず、大通りから入ったらGaité通りなの、そこまで行けばすぐに見つかるわ。
ぜんぜん説明になっていない・・。

案の定、レネットは道に迷ってしまう。
男性2人に道を尋ねるが、こっちから行くべきだ、いやその道は遠回りだ、いやGaité(陽気な)通りに行くのに墓地を通過するのはやめておくべきだなどと、2人はレネットそっちのけで口論を始めてしまう。

諍いを続ける2人を背にしたレネットの目には、(平等ではなく)自由という名のカフェが飛び込んでくる。

ようやく見つけたカフェでは、意地の悪い店員から紙幣ではなく小銭での支払いしか受け付けないというひどい仕打ちを受けてレネットは・・・

とまあ、2人の少女の4つの「冒険」が丹念に描かれていく。
日常の、些細な、ほんとうにどうでもいいような、ひとつひとつの会話や出来事がまことに愛らしい。

ああ、ここにはまさしく人生がある。
そう思わされる秀作だ。

さて、そのGaité通りはカフェLa Libertéのあたりで終点になるのだが、そのまままっすぐ進むと今度はモンパルナス通り(Rue de Montparnasse)になる。
モンパルナス通りとは別にモンパルナス大通り(Bd. du Montparnasse)もあってややこしい。

そしてこのモンパルナス通りにはクレープ屋が軒を連ねている。
そのあたりのことは以前に少し書いた。

そのなかでも一番の老舗と言われているJosselinに行ってみた。

年季の入った店内。
パリのなかの田舎。
いかにもブルターニュにありそうな趣のある伝統家屋(ブルターニュには行ったことないけれど)。

もちろん、シードル(リンゴの発泡酒)を注文する。
餃子にはビールを、いかの塩辛には日本酒を、甘辛い煮物には焼酎をあわせるように、クレープにはシードル。
これがルールだ。
この店にいる誰もがシードルを飲んでいる。

レネットに嫌がらせをするカフェの店員は、いかにもパリにいそうな意地の悪いギャルソンだった。
ああ、こういうひどい目に遭うからパリは憂鬱なんだよなあ。
嫌な感じをつい思い出してしまう。

Josselinはその正反対の店だ。
家族経営なのだろうか、スタッフはみんなとても仲が良さそうで息もぴったり。
腰の曲がりかけたおばあちゃんが最前線で店をまわす。
注文を聞きに来るおにいさんは、とてもフレンドリー。
何も言わなくても、たっぷりの水を持ってきてくれる。

店には世界中から観光客がやって来るのだろう、メニューには日本語の文字も。

日本では、蕎麦粉のものをガレット、小麦粉のものをクレープと呼ぶことが多いけれど、ここでは蕎麦粉がCouple de Sarrasinで主に食事用のもの、小麦粉がCouple de Fromentで主にデザート用ということのようだ。

初心者としては、一番オーソドックスなものを頼むのが定石だ。
店名のついたJosselinを注文する。

卵とハムとチーズときのこが入った、シンプルなガレット。

まあ、味の好みでいえば、神楽坂のル・ブルターニュとか、福岡のル・ブルトンで食べるもののほうがキリっとしておいしいように思った。
ただしこの店でおいしいとか、おいしくないとか、そういうことを言っても仕方がない。

この雰囲気で、この温かみのあるサービスのもとで、ガレットとシードルをいただく。
それだけでじゅうぶんに心が満たされる。

さて、レネットとミラベルが待ち合わせをしたLa Libertéから、このJosselinまでは歩いて30秒もかからない。

なぜ2人はJosselinではなくLa Libertéで待ち合わせをしたのか。
パリに不案内なレネットにはLa Libertéのほうが見つけやすいから?
Josselinなら、嫌味な店員から不快な扱いを受けずに済んだ?
彼女たちの「冒険」はまた別のものになっていただろう。










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