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【Solstice】創作料理嫌いの私としたことが。

今宵はSolsticeへ。
https://www.solticeparis.com/
久しぶりに奮発してミシュラン1つ星店へ。

入店すると日本人のような顔つきの女性が迎えてくれる。
ひと昔前と違って、日本人と韓国人と中国人の区別がつきにくくなっている。
化粧や服装や髪型が似てきているのだろう。

予約名を告げても特に反応するでもなく日本語に切り替わるわけでもない。
フランス語は話せますかと聞かれたので、いいえと答えると、日本語ではなく英語に切り替わるだけ。

あとからわかったのだけれど、彼女は韓国人らしい。
仕草をみて、なんとなく日本人ぽいなと思ったのだけれど、わからないものだ。

メニューを開くと、最初のページにはこの店を紹介する文章が載っている。
書いているのは、パリ在住の日本人作家。
現役の方でもあるので名前は伏せておくけれど、フランス語でも詩を発表するなど幅広く活躍されている女性で、文学が専門ではない僕でも名前は聞いたことのあるくらいの方。
聞けば作家氏はこの店の常連とのこと。

ともあれ、それよりも今宵の食事を始めよう。

90ユーロのコース。
ペアリングのワインもあわせてお願いする。
なかなかの贅沢になりそうだ。

最初に運ばれてきたのがこちら。

左は完全に和食仕立ての玉子豆腐。
フレンチに来て和食は御免だ。
基本的にはそう思っている。
なんちゃって和食でおいしかったことはない。
警戒しながら玉子豆腐を口に含んでみる。

普通においしい。
いや、普通以上だ。

和風の出汁に浸してある。
この出汁が、とてもおいしい。
日本の中途半端な和食店のものよりも、おいしいと思った。
豆腐の上にはイクラが載っている。
イクラはやや味が強いというか、後味が残る感じ。
この皿としてはトータルではとても良いと思うけれど、まあ言わなくてもいいくらいのレベルだけれど、あえて言うならば、この強いイクラと出汁はあわないと思った。
イクラの強さに、上品な出汁が完全に負けてしまう。
イクラを出汁で薄めただけ。そんな味になっていた。
そんな些細なことをあえて言うことくらいしか、この皿に対する不満はない。
外国で食べる和食としては、かなり高い水準だ。
食べ始めて3分で、この店は間違いないと思った。

右は豆をシャーベット状にしたもの。
これは無難な味だった。

2皿目はアスパラガス。

アスパラガスにフレンチキャビア。
アスパラガスを生で食べるのは初めてだった。
ほんの少しだけ野菜のえぐみを感じないではないが、気になるほどでもない。
旨味と酸味の味つけ。
驚きがある。
感性を刺激される料理とはこのことだ。

3皿目はあん肝。

臭みを感じるけれど、嫌な感じもしない。
ペアリングには日本酒が運ばれてくる。
あー、はいはい、フランス人は日本酒好きだもんねー。
日本人がわざわざパリのフレンチに来て、あん肝食べて日本酒飲まされていることに窮屈さを感じる。
その窮屈さを突破するほどの皿ではなかった。

4皿目はマグロ。

あちゃあ、予想した通りのつまらない方向で料理が進んでいく。
この中トロは極上だった。
驚くほどクオリティの高いマグロだと思ったけれど、料理としてのトータルな満足度は普通だったかもしれない。
特に、トマトやベリー系のソースが付け合わせてあるのだけれど、醤油とワサビという組み合わせに親しんでいる舌には、絶妙な組み合わせとは思われなかった。

それにしてもワインをどんどん持ってきてくれる。

ペアリングを頼むデメリットは、ついつい飲み過ぎてしまうこと。
残せばよいのだけれど、それなりのお金を払っているしな。
もったいない精神が上回ってしまう。
よくない。
自分でも酔っぱらっているのがわかる。

5皿目はRed Mullet(赤ボラ)。

キムチが付け合わせてある。

これはスペシャルなおいしさ。
アカムツの香ばしさに、キムチがとてもあう。
キムチといっても、酸味は控え目。
辛みと、発酵した旨味。
こりゃあ、旨い。

食に対する深い知識にもとづく、素晴らしい発想。
圧倒的においしい一品だと思った。

6皿目は牛肉。

テンダロインにプロコギソース。
日本人には親しみのある、旨味のあるソースだ。

これもまあ、素晴らしくおいしい。
ポーションが小さめなのもうれしくて、ぱくぱくとかじりつく。

最後はデザート。

主張しすぎない皿。
勘違い系の創作料理店ではない、ちゃんとしたフレンチの店であることが、最後にさりげなく伝えられる。

コースを貫いている軸は旨味だ。
それってフレンチとしてどうなのか、疑問は残る。
個人的には好きな方向性ではない。

好きな方向性ではない理由は、そういう店は中途半端なことが多いからだ。

Solticeにその批判はあてはまらない。
なにせ圧倒的においしいのだから。
これはすごい店だと思った。

厨房にはアジア系の人が多いようだ。
スタッフの韓国人の女性に、シェフも韓国人なのですかと尋ねてみたら、いいえシェフはフランス人です、今日はコルシカに行っていて不在なの、とのことだった。

フランス人が日本や韓国の料理に出会って進化させたフレンチ。
「創作料理は嫌いです」という持論を、少し見直す必要があるかもしれない。

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